第139話 周囲の様子がおかしいです

 

 時間はまだ朝の6時。

 登校する為に藤咲さんの家を出ると、丁度お隣さんのお姉さんも家の扉を開いた。

 ゴミ出しをしに行くようで、両手にはお酒の缶でパンパンになったゴミ袋を持っている。


「あっ、おはようございます」


「ひぃ!? お、おはようござっ……ます!」


 そして、すぐに扉を閉めてしまった。

 大学生くらいだろうか。

 完全に寝間着の恰好で上はタンクトップだったし、この時間なら誰にも会わないと油断していたのだろう。

 何だか悪いことをしてしまった。 

 そして、飲み過ぎには気を付けてくださいね。


 ……通学路を歩いていると、まだ通りに人はまばらだった。

 歩いているのもご老人が散歩をしていたり、駅に向かって走っているサラリーマンがいる程度だ。


(……よし、誰にも絡まれずに学校に着いたぞ)


 校門を通過して校舎に向かって歩く。

 その横のテニスコートでは、女子テニス部が朝練をしていた。


「さぁ、みんな! もっと集中して!」

「「はーい!」」


 そういえば辻堂高校は女子テニス部が強いんだっけ。

 こんなに朝早くから、多分毎日練習しているんだろう。


 そんな風に思いながら眺めていると、練習の指示を出しながらボレーの練習をしている女生徒と目が合った。

 頑張ってて偉いなぁという眼差しで笑顔を送ると、その子は真剣だった表情から一転、驚いたような表情で俺の顔を見つめてきた。

 そして、テニスボールが彼女の顔に直撃する。


「――ぎゃふん!?」

「あぁ、清水部長! ボールが顔面に!」

「大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫! ちょっとボーッとしただけ! 練習を続けて!」

「でも、鼻血が……」

「だ、大丈夫だから! みんなはちゃんと集中して!」


 俺が集中力をかき乱してしまったのだろう。

 女子テニス部の練習を見つめる得体のしれない男。

 うん、普通にキモい不審者だ。

 そりゃ警戒するだろう。


 謝るようにペコリと頭を下げると、俺は逃げるように校舎へと入っていった。


       ◇◇◇


「――私は騙されないからな?」


「……はぁ」


 辻堂高校、職員室。


 俺が編入するクラスの担任である若い新任女教師の広瀬ひろせ実里みのり先生は開口一番、そう言って俺の顔を睨む。


「朝早くから来てもらったのは君がどういう生徒か私が見極めるためだ」


 広瀬先生はそう言って、俺のプロフィールが書かれた紙を突き出す。


「ウチの難しい編入試験に受かったから入学は認めるが……1度落としてしまった社会的信用は簡単には取り戻せないぞ? 少し話は聞いている。アメリカで大事件を起こして半年間も留置所にいたらしいじゃないか」


「えっと、それはやむにやまれぬ事情がありまして……」


「うっ……そんな顔をされても私は誤魔化されんからな!」


 俺が困った表情で見つめると、広瀬先生は何やら若干揺らいだかのように顔を背けた。

 そして、咳ばらいをすると俺の情報が書かれているらしい紙を読み上げる。


「銃乱射事件があった街で陸上用スターターピストルを撃って、人々を怖がらせて年越しイベントを中止に追い込んだ挙句、暴走族たちと高速道路を爆走……。一体、どんなやむにやまれぬ事情があったらこんなヤンチャができるのか是非教えてもらいたいモノだなっ!」


 そう言って机を叩き、敵意をむき出しにする広瀬先生。


 きっと、広瀬先生も俺が凶悪な生徒だと誤解していて、クラスの生徒たちを守るためにこうして向き合ってくれているんだろう。

 手を見ると、少し震えている。

 きっと俺のことが怖いのに無理をしているんだ。


 仕方がないので、俺はアメリカで1人の女の子を救った話をすることにした……。


――――――――――――――

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そして、新作をまだお読みでない方はぜひ読みに行っていただけると嬉しいです!

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山本リベンジも頑張っていきますので、新作の方もぜひフォロー&☆評価をお願いいたします!

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※追記7月25日に書籍が発売されるので更新予定です。

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