第135話 藤咲さんと一つ屋根の下
【前書き】
山本のアルバイト先の店長。
藤咲さん視点です。
――――――――――――――
――夜7時。
彩夏はそろそろ山本と照れずに話せるようになっただろうか。
そんな心配をしながら私、藤咲涼子はお店でのキッチンで鍋を振るっていた。
「店長、お疲れ様でした~!」
「じゃあ、私たち先に上がりますんで~」
「お化粧直さなくちゃ~」
「あぁ、みんなお疲れ様。……今日も合コンに行くのか?」
私が尋ねると、女子大生のアルバイト達はプククと笑った。
「あはは、私たちもう彼氏作りましたよ~」
「もしかして、連れて行って欲しかったんですか~?w」
「店長、もう少し早く素直になっていれば良かったですね~w」
そう言って、更衣室へと入って行く。
……良かった。
みんな彼氏持ちなら、ここに山本を連れて来ても大丈夫だろう。
(――って何の心配をしてるんだ私はっ!?)
勝手に彼女面している自分に気が付いて私は首をブンブンと振った。
あれは私の家族を説得する為に山本が仕方なくやってくれたことだ。
変な期待をするな、山本にも失礼だ。
とにかく、仕事に集中しろ……!
自分の頬をピシャリとはたいて煩悩を打ち消すと、私は閉店まで誠心誠意働き続けた。
――夜、10時。
掃除を終えて、店の帳簿を付け終えると今日の業務を全て終える。
クタクタになりながら、私は自分の家まで帰って扉を開いた。
「ただいま~」
すると、エプロンを着けた山本が笑顔で出迎える。
「藤咲さん、お帰りなさい! ご飯とお風呂、準備できてますよ! どちらにしますか?」
「……やまも――いや、ご、ご飯で頼む!」
思わず本音が出そうになり、私は慌てて言い換えた。
危ない、完全に油断していた。
そうだ、私は信じられないことに山本と一つ屋根の下で暮らしているんだった。
「では、テーブルにお座りください。すぐにお料理だしますね!」
そう言うと、山本は前菜のクラムチャウダー、エビとアボカドのサラダをテーブルに出した。
どちらも山本が作っているのを見るのは初めての料理だ。
クラムチャウダーを口に運ぶと、濃厚な魚介出汁の旨味が疲れた身体中に染み渡る。
「このクラムチャウダーも本場のアメリカで習ったのか?」
「はい! せっかくアメリカに行ったので、お料理の修行もしていました! 入院している患者さんも色んな方がいて、それぞれの方に得意料理とそのレシピを聞いて回っていたんです! このクラムチャウダーもシアトル出身の方から教えて頂いたんですよ!」
「勉強熱心なのは相変わらずだな。うん、美味しいぞ。ウチのお店で出したいくらいだ」
私が褒めると、山本は花が開いたように笑う。
「良かった! 向こうでもお料理の勉強をしながら、藤咲さんが美味しいって言ってくれるかな~なんて考えていたので!」
少し照れながら、山本はクルクルとお玉で鍋を回していた。
……山本、あまり可愛いことを言わないでくれ。
本当に我慢できなくなってしまいそうだ。
「藤咲さん、お帰りなさい! 今日もお疲れ様でした~」
私が自分の理性と戦っていると、彩夏が私をいつものように労いに来てくれた。
助かった、実の妹の前では私も山本に変な気は起こさないだろう。
「藤咲さん、ほら立ってください! ギュー!」
そして、彩夏は私を立たせると力いっぱいハグをする。
そんな様子を見ながら山本は私の好物であるムール貝のワイン蒸しとラタトゥイユをテーブルに運ぶ。
「こら、彩夏。藤咲さんは疲れてるんだからあまり変なおねだりはしちゃダメだぞ」
「あぁ、いいんだ。前に疲れが癒されると言ってから彩夏が毎回やってくれるようになってな。私は助かってる」
「そういうこと! お兄ちゃん、藤咲さんに抱き着ける私が羨ましいんでしょ~」
彩夏が山本に見せつけるように私の身体に頬をスリスリと擦り付けると、山本は顔を真っ赤にした。
「ば、馬鹿言うな! アメリカだとハグなんて挨拶みたいなモノなんだぞ!」
そう言って逃げるようにキッチンでまた私に料理を作り始めた。
無理をして私の彼氏のフリをしてくれていた時はカッコ良く見えていたけれど、山本はまだ16歳だ。
ウブな少年としての表情が垣間見えてしまうと、そのギャップで私はまたときめいてしまう。
美味しい料理、可愛い兄妹、温かな雰囲気。
(ここが天国か……)
すでに仕事の疲れなどはるか彼方に吹き飛んでしまった私は、山本の料理に舌鼓を打った。
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通販サイトでは50ページ程度の無料試し読みも出来ますので、まずは読んでみていただけると嬉しいです!
山本リベンジも引き続き頑張っていきますので、よろしくお願いいたします!
<(_ _)>ペコッ
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