第134話 学校へ行こう!
【前書き】
山本視点に戻ります。
――――――――――――――
「郵便書留ですー!」
「はーい、今開けますね!」
昨日の辻堂高校への試験を終えた次の日の夕方。
早速、家に試験の結果と思われる封筒が届いた。
受け取ると、配達員のお姉さんは何やら俺の顔や身体をチラチラと見る。
そういえば、料理中だったからエプロンを着けっぱなしだ。
確かに男子高校生のエプロン姿は珍しいかもしれない。
というか、何か家庭の事情がないと料理なんて作らないだろう。
軽く咳払いをすると、そのお姉さんは何やら緊張した様子で語り出した。
「……ね、ねぇ君。今ってお家の方はお留守だったりする? もしよかったらお姉さんと――」
話の途中で満面の笑みの彩夏が俺と配達員のお姉さんの間に割り込んできた。
「
「――ひぃ!? な、なんでもありませんっ! 失礼しましたー!」
「え? あのー、行っちゃった……何を言おうとしてたんだろう?」
逃げるように立ち去る配達員の背中を睨みつけながら、彩夏は『シャー』と唸り声を上げる。
来客を拒む家猫みたいだ。
「……あのお姉さん、もしかして親が居なくて料理を作っている俺を憐れんで、代わりに料理を作ってくれようとしてたんじゃないかな?」
俺がそう言うと、彩夏は呆れた表情でため息を吐く。
「何言ってるの、食べられそうだったのは料理じゃなくてお兄ちゃんの方だよ」
「……俺は食べても美味しくないぞ?」
「とにかく、この辺りは危ない人が多いから警戒すること! 間違っても家になんてあげちゃダメだよ!」
彩夏はまるで弟にでも言い聞かせるように、俺にそう言った。
確かに、あんなに優しそうなお姉さんだったら俺は警戒せずに家にあげてしまっていたかもしれない。
詐欺師は詐欺師の顔をしていないのだ。
彩夏の言う通り気を引き締めなくてはならない。
ちなみに、藤咲さんは今夜もお店でお仕事である。
俺もお店を手伝いたいと言ったんだけど、それよりも彩夏と一緒に居てやった方が良いと言われて今は晩御飯を作っているところだ。
「ところで、今受け取ったそれ……もしかして編入試験の結果?」
彩夏は少し緊張した表情で尋ねる。
「うん……あっ、合格だって」
俺が封筒を破いて中を見ると、彩夏は驚いた。
「え~! なんでそんな簡単に見ちゃうの!? 」
「いや、試験簡単だったし。多分合格だと思ってたから」
俺以上に緊張してくれていた様子の彩夏は大きくため息を吐いた。
「そっか……お兄ちゃん、学校に来ちゃうのか……」
彩夏は不安そうにつぶやく。
「彩夏のクラスには行かないようにするから安心して」
「もう、そういう問題でもないんだよ。あ~あ、落ちてくれれば良かったのにぃ」
妹よ、そんなのお兄ちゃんが学校に来るのが嫌なのか。
しかし、残念ながら俺は千絵理のことを頼むと蓮司さんにことづかっているのだ。
それに文学部のみんなにも会いたいし。
そういえば、留美ともデートの約束がある……。
それと、柏木さんはこれからどうするんだろう……?
何はともあれ、夕食を食べ終えると俺は明日の登校へ向けて準備を整えた。
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