第117話 お兄ちゃんはヒーローです!
お兄ちゃんが乗っている飛行機が到着し、乗客たちがロビーに着くと拍手と歓声が上がった。
VIPラウンジの窓から様子をうかがうと、タバコを咥えた凄く綺麗な女の子と、見たこともないくらいカッコ良い男の子が二人並んで周囲に祝福されている。
「うわぁ~! すごーい! 女優さんと男優さんかな!? 飛行機に乗ってた人が全員拍手してるみたい! も、もしかして凄く有名な人とか!?」
私が聞くと、アテンダントさんは教えてくれた。
「着陸のためのタイヤが出てこないアクシデントがあったようで……着陸ができず困っていたらあの男性の方が申し出て、タイヤを手動で出してくださったようですよ」
「えぇ!? 飛行機のタイヤって手で出せるの!?」
「普通はあり得ないことです。タイヤはシステムの誤作動で完全にロックされていたのですが、腕力で無理やりロックを破壊したらしく……。すでに胴体着陸をするしかないという状態でしたのでまさにヒーローですよ」
「だから消防車とか救急車が集まってたんだぁ……」
そう言うと、アテンダントさんは深く私に頭を下げた。
「すみません。彩夏様がパニックになってしまうと思い、事情は先に知っていたのですが。お伝えしない方が良いと判断いたしました」
「そ、そうだったんだ……確かにそんなこと知らされてたら私、心配で気を失ってたかも……あはは。とにかく、お兄ちゃんも無事に着いたみたいで良かったぁ」
私はホッとため息を漏らす。
「それと、あの隣の女性の方は恐怖で意識を失ったり、体調を崩した乗客の看護をしてくださいました。腕利きのお医者様のようでして、たまたまヒーローが2人乗りこんでいたようですね」
「えぇ!? あ、あんなに綺麗な上にお医者さんなの!? 信じられない、凄いなぁ~。あの二人凄くお似合い! うへへ、何時間でも妄想できそう~」
変なスイッチが入りそうになり、私は慌てて首を横に振った。
私はお兄ちゃんの恩人たちでなんてことを!
というか、あの2人もすっごく気になるけど早くお兄ちゃんの無事を確認しないと!
「アテンダントさん、ありがとうございました! 私、お兄ちゃんを迎えにロビーに行きますね!」
「またのご利用、心よりお待ち申し上げております」
私はVIPラウンジを出てロビーに向かう。
(もうすぐ、お兄ちゃんに会えるんだ! いっぱいギュって抱きしめて、手をつないで帰っちゃおー! えへへ!)
ロビーに到着した私は周囲を見渡すも、あの2人のヒーローに人が集まっていてお兄ちゃんが見当たらない。
やがて私も人の波に飲み込まれるようにして2人を取り囲む人たちの一部になってしまった。
そんな人の隙間から顔を出して、私もせっかくなのであの二人を見させてもらうことにした。
「"あはは、乗客のみなさんの助かりたい気持ちが力になりました。手荒な方法でしたが、上手くいって良かったです"」
「すまないが、人を待たせているんだ。そろそろ行って良いか? あと、そこの女。あまりそいつに近づくなよ」
その美青年は笑いながら少し照れた様子で、美少女はクールに毅然とした様子で。
日本語と流暢な英語で周囲の人たちの感謝を受け取りつつ、握手に応じている。
(すご~い、英語もペラペラ! 声も声優さんみたいにカッコ良い~! 性格は男の子の方が可愛い感じで、女の子の方がカッコ良い感じだ! それはそれでアリっ!)
「みなさん、離れてください~。通行の妨げになります~!」
空港の職員さんたちがようやく動き出して人を解散させていった。
私もようやくスペースができて動けるようになると、背後からドタドタと誰か複数人が走ってくる足音がした。
「南関東放送局です! すみませんが、少しお話を!」
「――キャっ!」
カメラとマイクを持った人たちに突き飛ばされて私は転倒する。
硬そうな空港の床が目前に迫り、恐怖で目をつむった。
――しかし、私の身体が床に打ち付けられる痛みはやってこなかった。
代わりに持ち上げられたような浮遊感を感じる。
恐る恐る瞳を開くとそこには――
「大丈夫?」
「……はい?」
なんと例の青年のヒーローに身体を抱きかかえられていた。
そして、その隣にいるタバコを咥えた美少女は眉間にシワを寄せてテレビクルーを睨みつける。
「この子を突き飛ばすような奴らに話すことは何も無いな」
「し、失礼いたしましたー! 本当にすみませんでしたー!」
そして、テレビクルーの人たちは退散していく。
美青年の腕に抱えられた私を、今度はその美少女が心配そうな表情でのぞき込む。
「大丈夫か? どこか怪我は? 手術してやるぞ?」
「柏木さん、手術は大げさですって」
(……男の子が私の事を助けてくれて、女の子が私の為に怒ってくれて……え? 何これ……夢?)
美少女と美青年のサンドイッチ状態。
しかも、お二人の尊い会話をこんな距離で聞かせていただいてしまっている……。
妄想が具現化したような状況に私は喜びを通り越して、身体が縮こまり固まってしまう。
(お礼をっ! せ、せめてお礼くらいは言わないとっ!)
しかし、口をパクパクと動かすのが精いっぱいで言葉が出てこない。
緊張してしまって、心臓が走った後みたいにドクドクと脈打っていた。
そんな私の様子を『柏木さん』と呼ばれた美少女がじっと見て、自分のポケットに手を入れる。
「ふむ……」
「いや、『ふむ……』じゃないですよ。なんで無言でラムネ・シガレットを取り出してるんですか?」
「上を向いて口を動かしているだろう? これはエサを欲しがっている合図だ」
「鯉じゃないんですから……。転びそうになったから、驚いて声が出ないだけですよ」
(こ、鯉! 美少女と美青年が鯉バナ(恋バナ)をしている!?)
頭が混乱し切った私はそんなアホなことを考えていた。
そして、青年はため息を一つ吐くと私の顔を見た。
ごめんなさい、重いですよね!
すぐにどきますから!
お二人の邪魔をしてしまって本当にすみませ――
「それにしても、彩夏はまた一段と可愛くなったな! 見違えたよ!」
「……へ?」
完全に頭がフリーズする。
「お前がそれを言うか。そら見ろ、困惑してるだろう」
「まぁ、確かに俺も見違えるくらい変化はしてますが……あはは」
「も、もしかして……」
私はゴクリと唾をのみ込んだ。
見た目は変わっているけれど、このぬくもり……。
そして綺麗な瞳と優しい雰囲気は……。
「お……お兄ちゃん?」
「おっ、よく分かったな。流石は彩夏だ」
「えぇぇぇ~~~~!!??」
私の絶叫はロビー中……いや、きっと海を越えてアメリカまで響いた。
――――――――――――――
【業務連絡】
次回から山本視点に戻ります!
このまま、再会させた状態で続けます!
今日中に投稿できるように頑張りますので、
応援よろしくお願いいたします~!
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