第116話 お友達になりました!

 

 ピンク髪の女の子はあざける様に笑いながら続けた。


「ここは一流の人しか居ない高級ラウンジ! それなのにずっとおどおどして、まるでクジャクの檻に迷い込んだスズメみたい!」


 そんな風に言われて、私は心の中で強く思った。


(やった~! 同年代の女の子が話しかけてくれた~!!)


 私は思わずその女の子の手を握る。


「な、何っ!? やろうっての?」


「話しかけてくれてありがとう! 大人の人しか居なくて、心細かったの!」


 私が満面の笑みで感謝をすると、その子は困惑の表情を見せた。


「……はぁ? あのね、私は貴方をバカにしてるの。悔しくないの?」


「だって、私の服は安物だし! ここに居るのは場違いだって思うもん!」


 私がそう言うと、その子はさらに困惑する。


「あ、あのねぇ……」


「私、山本彩夏って言うんだ! 彩夏って呼んでもらえると嬉しいな!」


「……はぁ、全く。私ったら嫉妬してバカみたいね。貴方の方が大人だわ」


 私の様子を見て、その子は降参するとでもいったような表情で長いため息を吐いた。


「彩夏、素敵な名前ね。私は舞花まいか。舞花・K・ロバートよ」


「舞花ちゃんも素敵な名前! 外人さんだから、ミドルネームもあるんだね! ロバートが日本で言う苗字かな?」


 そう言いながら、私はふとある事に気がつく。


「舞花ちゃんってアイドルプロデューサーなんだよね? ロ、ロバートってもしかして……」


「そうよ、私はあのR・K・ロバートの娘よ。ママが日本人なの」


「えぇ!? す、凄い!」


「別に凄くなんてない。私はただ産まれただけだし」


「凄いよ! さっきの男の子たちも舞花ちゃんが見つけてきたんでしょ!? みんな、凄くかっこ良かったもん!」


 私が興奮して舞花ちゃんの手を握ったままブンブン振ると、舞花ちゃんは顔を赤らめつつも得意げに笑う。


「貴方、なかなかアイドルを見る目があるみたいね! 良いわ、少しだけお話してあげる」


「本当に!? 嬉しいな! あっ、良かったら隣に座ってよ! 飲み物も何か頼んで!」


「あら? 彩夏はお水を飲んでるの? 美意識が高いわ。私もジュースばかりじゃなくて少しは見習わないと。そこのアテンダント、悪いけど同じ物を私に持ってきてくださるかしら?」


「ア、アテンダントさん、お願いします!」


「かしこまりました」


 舞花ちゃんは私の隣に座ると、運ばれてきたグラスに入った水を飲んだ。


「うん、とても美味しいわ。流石は一流のラウンジね。産地は南アルプスかしら?」


(舞花ちゃんごめんね……日本の浄水場だよ……)


 まさか水道水を飲んでいるなんて思わない舞花ちゃんは思いっきり予想を外す。

 アテンダントさんも気を使ってニコリと微笑むだけだった。


「今、パパと勝負をしているの。パパが新規のアイドルを売り出すから、私も同時にアイドルグループを立ち上げて、パパのプロデュースするアイドルよりも売れてやろうって思って」


「す、凄いよ舞花ちゃん! それでさっきの人たちを集めたんだね! お父さんに認めてもらいたいの?」


「私は勝ちたいの! 偉そうにふんぞり返ってるパパの悔しがる顔を見たいのよ!」


「えぇ!? あの天才プロデューサー、R・Kロバートさんより凄いプロデューサーを目指してるの!?」


「そうよ。それに、一つ心配なことがあって……」


 そう言うと、舞花ちゃんは少しだけ眉をひそめた。


「1年前、パパが自信満々に次にアイドルとしてプロデュースする予定の子の写真を見せてきたんだけど、凄く太ってる男の子だった。きっと多様性だとかそういうモノを表現したいんだろうけど、アイドルは目で楽しませるのが大前提。綺麗事を並べようが、ファンの求めているモノとは違う!」


 舞花ちゃんの言葉に私も頷かざるを得ない。

 アイドルを好きになる気持ちはトキメキだ、悲しいけれどそれは外見を抜きに考えることはできない。


「パパが見せてくれるアイドルはいつも凄くドキドキさせてくれる人だった。だから私はガッカリしたの、きっと上手くいきすぎて天狗になっているんだわ。あんなの売れるわけがない」


 舞花ちゃんはそう言って拳を握る。


「だから、目を覚まさせてあげたいの。基本を思い出させるというか! 今回の同時デビューで私のアイドルたちにボロ負けすれば、お父さんは私を認めてくれるし、悔しがるし、やり方を改めると思うわ!」


「そっか! 舞花ちゃんは実はお父さん思いなんだね!」


「まぁ、そうとも言えるのかしら? ふふ、私の話を聞いてくれてありがとう。彩夏はどうしてここに居るの?」


「お兄ちゃんを待ってるの! もうそろそろ着くと思うよ!」


「そう、私はもう出発の時刻みたい。彩夏のお兄さんにも会ってみたかったけど、残念。ねぇ……よ、良かったら、RINEを交換しない?」


「良いの!? も、もちろん! 友達になろうよ!」


「と、友達! そうね、お友達になりましょ!」


 そうしてお互いに連絡先を交換すると、舞花ちゃんは私をじーっと見つめる


「彩夏って華やかさはないけど、顔はかなり可愛いわよね。どう? アイドルとか興味ない?」


「えぇ!? わ、私は良いよ~。それに、舞花ちゃんとはお友達でいたいから。アイドルになっちゃったら、関係が変わっちゃうでしょ?」


 そう言うと、舞花ちゃんは喜びを隠しきれないような表情で真っ赤に染まった。


「そ、そういうことならしょ~がないわねぇ!」


 舞花ちゃんはそう言うと、着ている上着を脱いで私の肩にかけた。


「彩夏、もう一度言うわ。ここは一流の人しか居ない高級ラウンジよ。だから、貴方も一流らしく堂々としていなさい。変に緊張なんてする必要はないわ。ドレスコードは仕方がないから、とりあえず私の上着をあげる。貴方は私の友達なんだから、一流に決まってるでしょ? これを着て堂々と寛ぎなさい」


「えぇ!? こ、こんなに高そうな上着! もらえないよ!」


「じゃあ、貸しておくわ。いつか返してくれれば良いから。また会いましょう」


 そうして、舞花ちゃんはアイドルたちを引き連れてラウンジを出て行った。


(そっか、私もここに居て良いんだ! だって、舞花ちゃんの友達だもんね! えへへ~。わ、私も少し良い水とか飲んじゃおうかな~)


 舞花ちゃんのおかげで私は少し落ち着くことができた。

 この高級な上着を羽織っていれば、私もあまり場違いには見えないかもしれないし、本当に舞花ちゃんには感謝だ。


 『いろはす』を飲みながら、お兄ちゃんが帰ってくる飛行機を待ちわびて飛行場を見ていると、何だか様子がおかしい。


 消防車や救急車が飛行場の脇に集まり出した。


 そして、アテンダントさんのもとに飛行場の職員のような方が来て何かを耳打ちする。


「な、何かあったんですか!?」


 不穏な雰囲気を感じて私はアテンダントさんに聞いた。

 すると、アテンダントさんはにっこりと笑顔を作る。


「少しトラブルがあったようですが、どうかご安心を。どうやら問題は取り除かれたようです」


 その言葉のとおり、お兄ちゃんが乗っているはずの飛行機は数分後に何の問題もないように飛行場に着陸した。

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