第118話 彩夏と再会

【前書き】

山本視点に戻ります。

―――――――――――――― 


 彩夏の絶叫を聞いて俺はつい笑う。


「あっはっはっ、彩夏ったら大げさだよ。電話で痩せたって言っただろ?」


「まぁびっくりするだろうなお前の変わりようは」


 柏木さんは反応が分かっていたかのように落ち着いている。

 確かに、俺の顔は以前と見分けがつかないくらいに変化している。


「と、とりあえず、お、降ろして! 早くっ!」


「え? あっ、ごめん」


 彩夏に言われて、俺はゆっくりと腕から降ろした。


 1年前だったら俺がそばに居る時はずっと引っ付いていた。

 だけどなぜだか、今の俺からは一刻も早く離れたいかのようだった。


 彩夏は俺から距離をとって、ずっと身体をモジモジと動かしている。


 彩夏のことだからきっと、再会したら飛びついて抱きしめて喜んでくれると思っていたのに……。

 喜ぶどころかまともに目も合わせてくれない。


(そっか、高校生になってようやく彩夏も兄離れしたのか……。仕方がないけれど少し悲しいなぁ)


 柏木さんはそんな彩夏と俺を見比べて笑う。


「私は一目見てすぐに山本の妹だと分かったぞ。兄妹揃ってよく似ているな」


「に、似ているなんてそんなっ! 似てないです! 全然似てないですよっ!」


 彩夏の拒絶に悲しくなる。

 可愛い彩夏と俺じゃ比べるまでもないけれど、そんなに必死にならなくても……。


 まぁ、そんなことはさておき。

 俺は彩夏に再会の挨拶をする。


「ただいま、彩夏」


「お、お帰り。お兄ちゃん……」


 彩夏はやはり目も合わせず、顔を真っ赤にしたままそれ以上は話そうとしなかった。

 怒っているのも当然だ、俺はそれだけの事をしたんだから。

 俺は彩夏に深く頭を下げる。


「彩夏。1年間も待たせて本当にごめん! いっぱい心配もかけたし、彩夏のそばに居てあげられなかった。これからはその分沢山、彩夏のことを見るし、一緒に居るから――」


 俺が決意を胸に彩夏に近づくと、彩夏は軽く悲鳴を上げてまた距離を取る。


「そ、そんなに見ないで! ……あと、あ、あまり急に近づかないで……し、心臓に悪いから」


「……山本。彩夏は新しいお前に慣れるまで少し時間が必要なんだ。私の時もそうだっただろう? 分かってやってくれ」


 柏木さんはそう言って俺の肩に手を置いて慰める。

 これは……『兄離れ』とかそういうレベルじゃない。

 明らかな『拒絶』である。


(そういえば柏木さんも俺が痩せてからはあまり目を合わせてくれなくなったし。近づくと距離を置かれることがある……きっと、まだ太っていた頃の方が俺の顔も愛嬌があったんだろうなぁ)


 悲しすぎる真実に到達してしまい、俺は心の中で泣いた。


――――――――――――――

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