第70話 分かりやすく浮かれてます。
「大丈夫ですか!? ペン先が折れましたけど!?」
「お、お前が変なこと言うからだろがぁ!!」
柏木さんが力を入れ過ぎてペン先を折ってしまった。
そりゃ怒りたくなる気持ちも分かる。
柏木さんは必死に働いているのに、仕事をしていないプー太郎の俺なんかに誘われたんだ。
「す、すみません! お忙しいのにこんなこと聞いちゃって!」
俺は必死に謝った。
しかし、柏木さんは胸に手を当てて深呼吸をし、どうにか落ち着く。
流石は柏木さん、アンガーマネジメントも完璧だ。
「まぁ、そうだな、その……行く。明日は偶然午後から空いてる。もともと何の予定も入ってない。だから私の仕事の邪魔をしてしまっただなんて思うな」
「ほ、本当に大丈夫ですか? 気を使われなくても――」
「行くと言っているだろう。夜も空いてる。最悪外泊することになっても……大丈夫だ」
「そこはご安心ください! なにがあっても絶対に安全に家まで送り届けますから!」
「そうかそうか、それは頼もしいな」
俺が胸を叩くと、柏木さんは皮肉っぽくため息を吐いた。
ちなみに、柏木さんの家は病院のすぐ隣らしい。
病院に急患が入った時、自宅からいち早く駆けつけて窮地を何度も救ってきたのだとか。
人づきあいが苦手そうな柏木さんがこの病院で尊敬されている理由もよく分かる。
態度には出さないけれど、柏木さんは基本的に人が良すぎるのだ。
「長居してすみませんでした! じゃあ、明日は夕方に病院の入り口で待ち合わせしましょう!」
「分かった、急患が出ても今は蓮司がいるからな。心配は要らん」
「あはは、蓮司さんにもお土産を買っておきましょう……。それでは、また明日!」
俺はすでにドキドキしながら、柏木さんと別れて扉を閉めた。
(これは……もしかして……ひょっとして……世に言う『デート』というやつなのでは!?)
そうだと自分に言い聞かせながら、俺は鼻歌を歌いウキウキ気分で自室に戻る。
途中、ご年配の患者さんに声をかけられた。
「"今日のデートは何でしたっけ?"」
俺は満面の笑みで答える。
「"いいえ! デートは明日ですよ! お祭りに行きます"」
「"……?"」
患者さんは首をひねった。
俺は自分の間違いに気が付く。
「"あぁ、違います! 日付(デート)でしたね! えぇっと今日は9月の――"」
――その後、リリアちゃんと一緒に俺の部屋で夕食を食べる時。
リリアちゃんは俺の顔を見て眉をひそめた。
「"何よ、その顔は……"」
「"何が? 別に変な顔なんて……うへへ。してないと思うけどなぁ……ふふふ"」
自分でも分かるくらいに俺の口からは気味の悪い笑い声がこぼれていた。
――カチャーン!
不意に、リリアちゃんは右手に持っていたナイフをお皿に落とす。
「"あー、ソースがはねちゃったね。ほら、俺のナプキンを使って"」
「"…………"」
「"リリアちゃん?"」
リリアちゃんは自分の右手をじっと見つめていた。
そして、ため息を吐く。
「"ふん、あんたのにやけ
同人誌を読んでる時のリリアちゃんもずっとニタニタしてるんだけどなぁ。
なんて言うと、もう俺の部屋では読んでくれなくなりそうなので心の中にしまう。
「"リリアちゃん、気が変わったらいつでも言ってね。リリアちゃんが行きたい場所だったらどこへでも連れて行ってあげるから!"」
「"……別に行きたい場所なんてないわ。あまり私に馴れ馴れしくしないで、日本に帰ったら私のことなんて忘れなさい。"……『ゴチソウサマ』」
リリアちゃんはそう言って食器を片付けるとすぐに俺のベッドで同人誌を読み始めた。
俺が教えた『ご馳走様』を毎回ちゃんと言っているのが愛らしい。
◇◇◇
就寝の準備を終えると、まだリリアちゃんの体温が残る自分のベッドに入り、俺は考える。
明日は人生で初めてのデート。
しかも、本来なら俺とは一生縁のないような美少女と……
(柏木さんが休暇を少しでも楽しめるように精一杯頑張るぞ!)
俺はドキドキしながら眠りについた。
――――――――――――――
【業務連絡】
投稿が遅れてすみません!
リリアちゃん編、ぜひ最後まで見ていただけますと幸いです!
引き続き、よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます