第68話 男同士の内緒話
その後、俺は約束どおり蓮司さんと一緒に手術室に行った。
俺の変質した筋肉繊維のサンプルを採取するためだ。
俺は手術台に座り、オペの準備をする蓮司さんに話しかける。
「それにしても、蓮司さんが筋肉研究の第一人者だなんて知りませんでしたよ! 世界的に有名で、凄いですね!」
蓮司さんは得意げな顔になる。
「ふふふ、それだけじゃないよ。凄腕の外科医だからね、私が執刀した場所は手術跡が全く残らないんだ。たまに、『本当は手術なんてしてなくて、手術室でクラシックを聴いて筋トレした後に疲れ切った顔で出てきているんだろう』なんて冗談を言われるよ」
「あはは、謙遜するどころか自慢するところが蓮司さんらしいですね!」
「当たり前だよ。私はこんなに素晴らしい友人達に恵まれている。素晴らしい娘も居る。だからきっと私も素晴らしい人間なんだと思えるからね。もちろん、素晴らしい友人には君も含まれているよ」
蓮司さんはそう言って笑う。
ふざけてるだけじゃない。
そんな考え方ができるのが、とても素敵だと思った。
「俺も蓮司さんみたいに自分に自信を持てたらなぁ……」
俺が力なく笑うと、蓮司さんはオペの準備を一旦止める。
「この話は千絵理には内緒にして欲しいんだが……」
そう言いながら俺の隣に座った。
そして、優しい声でゆっくりと語る。
「私も本当は弱い人間だったんだ。学生時代は毎日のようにイジメられたものだ。……だが、亡き妻が強い人でね。イジメっ子たちにも一切ひるまず私のそばに居て、味方をしてくれたんだ。それから私も彼女みたいに誰かを救える人になりたいと努力した。――まさか告白されるとは思わなかったけどね!」
笑いながら、俺の頭を撫でる。
「流伽君、人は変われるよ。簡単なことではないが。必要なのは勇気と……ちょっとしたユーモアさ」
「……はい!」
「よし、じゃあオペをしようか! 流伽君なら麻酔無しでも平気かな?」
蓮司さんは悪い顔でジョークを言った。
「いいえ、麻酔はぜひ柏木さんにうってもらいたいです!」
「うん? どういう意味だい?」
「後で本人に聞いてみてください! きっと、面白い反応が見れますよ!」
――後日、顔を真っ赤にした柏木さんが俺の部屋に乱入してきて、俺が叱られたのは言うまでもない。
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