第67話 お茶目で凄いお医者さん
――パァン!
蓮司さんは景気づけにもう一発クラッカーを撃った。
死んだ瞳で蓮司さんを見つめるリリアちゃんの頭にさらに紙のテープがかかる。
柏木さんは隣でソワソワしている、絶対に自分も撃ちたいんだろう。
「"――それにしても、まさか流伽君がこんな美少女に生まれ変わるとは! 驚いたよっ!"」
蓮司さんはリリアちゃんを見て、驚きの声を上げる。
柏木さんはうんざりしつつも蓮司さんのジョークにノってあげていた。
「"おい、こっちだこっち"」
「"あっはっはっ! なんだ、こっちか! 随分と男前になったな!"」
「"馬鹿言うな、山本はもともと男前だろうが"」
「"それもそうだ! あっはっはっ!"」
柏木さんも蓮司さんに冗談で返す。
リリアちゃんは自分の身体にまとわりついた紙テープを払いながら大きなため息を吐いた。
「"レンジ……うるさい。私は今からこの神聖なる書物……『同人誌』を読むから静かにして"」
「"おっと、私にそんな口の聞き方で良いのかな? まだアメリカでは発売されていない日本の漫画を持ってきてるんだぞ? せっかく英語で読み聞かせてやろうと思ったのに"」
その言葉を聞いて、リリアちゃんはピクリと反応を示した。
「"それならまぁ……少しくらいうるさくしてても良いわ。それにしても、レンジって暇なのね。わざわざこんなところに来るなんて"」
リリアちゃんの話を聞いて、柏木さんが鼻で笑う。
「"蓮司はこんなでも、凄腕の外科医で筋肉研究の第一人者だ。常に死ぬほど忙しい。しかし、日本から私にラムネシガレットを持ってくるのは最重要任務だからな"」
「"あはは、私は宅配便じゃないんだが。しかし、それもちゃんと持って来てるから安心してくれ"」
そう言って、アフロを外すと蓮司さんは少し真面目な表情をした。
俺と目を合わせて日本語で話し始める。
「実を言うと、お祝いに来たわけじゃないんだ。流伽君が目的ではあるんだけどね」
「俺が目的……?」
すぐに思い当たり、俺は土下座した。
「すみません、お金はまだご用意できてないです。すぐに返す必要があるなら内臓とか売ります」
「あっはっはっ、違うよ。というか、その件はもう大丈夫だ。この話はまた後にしようか」
「それは良いから早く本題に入れ」
柏木さんが何やら少しだけ恥ずかしそうな表情で咳ばらいをして、蓮司さんに話を促す。
リリアちゃんはもうすでにさっき取り上げた同人誌を俺のベッドの上で夢中になって読んでいた。
物凄く息を荒くして。
「柏木君が送ってくれた流伽君の身体のデータ……あれは驚異的だった。少し詳しく説明しよう」
そう言うと、蓮司さんは俺の腕や脚の肉を指でつまむ。
「まず、君の身体は触るとぷにぷにですべすべでモチモチだ。これは主に水分が皮膚や筋肉、血管と良く馴染んでいるからだな」
次に俺の腕を掴んでクルクルと回した。
「そして骨も水分を含み、丈夫でしなやかだ。なんの訓練もなしに関節の可動域が通常の人間よりも広い。衝撃にはめっぽう強いな、そこらの車にはねられても骨折すらしないだろう」
「まさに柔よく剛を制す、というやつだな」
柏木さんも蓮司さんに便乗して俺の身体を触診する。
なぜか、めちゃくちゃお尻を触られてるけど。
「そして、『変質した筋肉繊維』……送られたデータを見たが、あれはまさに理想的ともいえる構造をしていた。常人よりも遥かに重い身体で激しい運動をするために、まだ未発達だった筋肉が体内のあり余った水分を使って"独自の進化"を遂げていたんだ」
「……確かに、俺が小学2年生の時にはもうかなりの体重になっていましたし。そのせいでよくイジメで走らされていました」
「山本を無理やり走らせるなんて、酷い奴らだな」
柏木さんは全くの無自覚でそう呟いた。
最後に、蓮司さんは両手を合わせて真剣な表情で頭を下げた。
「そこで……頼みがある! 流伽君の筋繊維の一部を採取させてくれないか? 今後の研究に役立てたい!」
「もちろん構いませんが……蓮司さん」
俺はできるだけ蓮司さんの顔を見ないようにして伝える。
「そのパーティグッズのデカ鼻とヒゲ、いいかげん取ってくれませんか?」
ずっと、変な姿で真剣な話をする蓮司さんは明らかに俺を笑わせにきていた。
「――ぷっ!」
俺の指摘で、ずっと蓮司さんから目を逸らしていた柏木さんはついに噴き出した。
正直、俺も笑いをこらえるのが限界でした。
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