第65話 サウスビーデンで朝食を

 

「――なるほど。つまり、山本の持っていたエロ本をリリアが勝手に漁り出して読んだということか」


「エロ本じゃなくて、一般の同人誌です……一応」


 俺はリリアちゃんにシャツを引っ張られながら説明した。

 柏木さんにはなんとかご理解いただけたようだ。


「"読ませなさいよ~!"」


「"ダ~メ~だ~!"」


「"そのやり取りはまた後にしてくれ。リリアの分の朝食も持って来ている。せっかくだ、一緒に食べようじゃないか"」


 柏木さんの提案にリリアちゃんはそっぽを向く。


「"嫌よ、部屋で一人で食べるわ。いつもそうしているもの"」


 リリアちゃんは柏木さんにもこんな態度らしい。

 顔を真っ赤にして怒らない分、俺よりは好かれているんだろうけど。


(それにしてもリリアちゃん、いつも一人で食べてるのか……)


 考えてみれば、俺も小学校の頃はすでに肥大症が発症していて周囲とは距離を置かれていた。


 俺みたいにクラス中の人たちがみんな楽しそうにおしゃべりをしている中、一人でお弁当を食べるのとは状況が違うけど、それでも一人は寂しいはずだ。


 ――なんとかしてあげたいって思った。


「"俺はリリアちゃんと一緒に食べたいんだけど、ダメ……かな?"」


「"う……だ、ダメよ! 私は誰とも仲良くなんてならないんだから!"」


 首をかしげてお願いしてみたが、リリアちゃんに断られてしまった。

 でも、一瞬揺らいでいたような感じはした。


 俺は柏木さんからもお願いしてもらうようにアイコンタクトを送る。


 柏木さんは少し考えてからリリアちゃんに提案した。


「"一緒に食べてくれたらさっきの同人誌を見せてやるぞ"」


「ちょっと!? 柏木さん、何言ってるんですか!?」


「"本当っ!? じゃあ、一緒に食べるわ!"」


 リリアちゃんは瞳を輝かせて承諾してしまった。

 こんなに喜ばれると、今更ダメだとも言えない。


 俺はため息を吐きながら柏木さんにヒソヒソと話す。


「柏木さん、この同人誌の中には過激な内容のモノも含まれているんですよ!?」


「良いじゃないか、それも教育だ。それに、最近の小学生の約半数はアダルトサイトを利用している。知らないと逆に浮世離れしてしまうぞ?」


「だから、これはエロ本じゃないですって! 内容は過激ではありますが、一般向けの同人誌です! う~ん、大丈夫かなぁ」


「リリアだってフィクションと現実の区別くらいつくさ。それに――」


 腕を組んで考える俺に、柏木さんは後押しする。


「一緒に食事を取ることは精神安定のために重要だろう。今までは誰も彼女の相手にされなかったんだ、これは大きな前進だぞ? これからもこの手段で一緒に食事をとっていくのはどうだ?」


 柏木さんに言われて、俺は考える。

 確かに、これがキッカケでリリアちゃんが寂しい思いをしなくて済むなら利用しない手はない。


「分かりました。じゃあ、比較的セーフな同人誌を選んでリリアちゃんに見せます」


「その同人誌の作者に感謝だな。それと、山本が気に入ってる同人誌は後で私にも見せるように」


「えぇ!? そ、そんなの恥ずかしすぎますよっ!」


 日本語で話す俺たちを見て、リリアちゃんは頬を膨らます。


「"ほら! 早くご飯を食べちゃいましょ! 私は待ちきれないんだから!"」


「"ごめんごめん。同人誌は逃げないから、ゆっくりとよく噛んで食べよう"」


「"その通りだ。部屋の外に私とリリアの分の料理が乗ったトレーがあるんだ。今、持ってくるよ"」


 柏木さんが俺の部屋のテーブルに料理を並べて、みんなで席についた。


 ――――――――――――――

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