第63話 漫画には興味があるみたいです


「"……本当にごめん。そんなつもりじゃなかったんだ"」


 リリアちゃんに嫌われてしまった俺は必死に謝る。


「"いいから、さっさとどっかに行って! そして、もう二度と話しかけてこないで!"」


「"そうするよ……。読書の邪魔をしてごめん!"」


 すみません、柏木さん。

 俺なんかじゃ、リリアちゃんと仲良くなることはできませんでした。


 落ち込みながら背を向ける。

 しかし、どうしても伝えたいことがあったので俺は口を開いた。


「"俺はもう少ししたら日本に帰るから。その……一言だけ良い?"」


「"な、なによ……?"」


「"『英雄遊戯』、俺も全巻読んでみたけど凄く面白かった! えっと……それだけ!"」


「"…………"」


 自分の部屋に戻ろうとすると服が後ろに引っ張られた。

 振り向くと、リリアちゃんが顔を真っ赤にして俺の服のすそを掴んでいた。


「"……ま、待ちなさいよ。話すくらいなら別にいいわ。絶対に仲良くはならないけど"」


「"――えっ!?"」


「"仕方なくよ! 仕方なく! ここで漫画の話ができるのは貴方くらいだし……"」


 初めて、リリアちゃんから近づいてくれた。

 俺は嬉しくて喜んで返事をする。


「"うん! 俺もそんなには漫画を読んでる方じゃないんだけどね……あはは"」


「"あら、何よ。期待外れかしら"」


「"でも、『火影忍者』とか、『行進の大人』、『海賊王』なんかは読んでるよ!"」


「"はぁ、全く……"」


 リリアちゃんはため息を吐いた。


「"――全部、私が大好きな漫画じゃないの"」


       ◇◇◇


「"やっぱり日本人って凄い漫画好きなのね!"」


 リリアちゃんは満面の笑みを俺に向ける。


 そのまま会話が弾み、すでに夜が明けてしまっていた。

 どうやら一晩中語り明かしてしまったらしい。


「"俺なんてまだまだだよ。凄い人はいくつもシリーズを追ってるし"」


「"そういうあなたも、実は私が知らない漫画の一つや二つくらいこっちに持ってきてるんじゃない? ねぇ、見せてよ!"」


 リリアちゃんにそんなことを言われて、心の中で冷や汗を流す。

 俺が今持っている漫画……いや、『アレ』をリリアちゃんに見せるわけにはいかない。


「"……いやぁ、残念ながらアメリカにまでは持ってきてないよ"」


 俺の様子を見て、リリアちゃんは怪しんだ瞳を向ける。


「"本当かしら? 日本人はみんな忍者だし、本当は隠し持ってるんじゃないの?"」


「"漫画を読んでるにしては偏見が凄まじい……ほら! そろそろ朝食が運ばれてくる時間だし病室に戻ろう!"」


「"……それもそうね、分かったわ。じゃあ、私が先に部屋に戻るから貴方は少し遅れて戻ってね。私たちは仲良くないんだから!"」


「"……て、徹底してるなぁ"」


 どうしても一緒には戻りたくないらしいリリアちゃんの要望を聞いてあげることにした。


       ◇◇◇


 リリアちゃんが中庭を出てから5分後。

 俺が自分の部屋に戻ってくると。


 ――リリアちゃんが俺のベッドの上で、勝手に『漫画』を読んでいた。


 足代あじろ先輩が描いた、兄妹モノの同人誌を、顔を真っ赤にしながら……。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

自分も実は漫画を出していたりします。

良かったら読んでね。

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