第62話 痛すぎる勘違い

 

 リリアちゃんが落とした漫画『heros game』。

 日本での元のタイトルは『英雄遊戯』だ。


 幸い、病院の書店に最新刊まで全て揃っていたので購入してさっそく部屋で熟読してみる。 


(ふ~む……面白い)


 夢中になって読んでいるうちに夜になってしまった。

 日常ではあまり聞かない表現も出てきて、英語の勉強にも良い。


 本作はいわゆる群像劇のような作りで、メインとなるサブキャラが多かった。

 実際、途中で挟まっていたキャラクター人気投票も主人公ではないキャラが一位だったりしている。


 そんな中、俺と顔が似ている(気がする)『クジョウ ユウマ』も4位とそんなに悪い順位ではなかった。

 漢字で書くと九条優馬だろうか。


 それらを踏まえて、鏡で自分の顔を見る。

 鏡の中の自分と見つめ合いながら、俺は腕を組んで考えた。


(柏木さんにはボロクソ言われたけれど……もしかして、俺ってそんなに悪くない顔立ちなのでは……?)


 思えば、柏木さんって結構変――独特な感性を持っているし。

 そもそも、柏木さんのような美少女基準だと大抵の男は平均すら届かないだろう。

 イケメンとまではいかなくても、変質者だとは思われない程度には整っていると思いたい。


 しかし、何故かリリアちゃんには顔を合わせる度に逃げられて――


(ちょっと待て!?)


 その瞬間、俺の頭に閃きが生まれる。


 リリアちゃんは顔を赤くして俺から逃げる。

 しかし、こっちを気にして窓から見てくるようなこともある。

 リリアちゃんのお気に入り(かもしれない)漫画のキャラに顔が似ている。


 ――それらを総合して考えると。


(……もしかして。リリアちゃん、本当は日本人が好きなのでは!? 俺みたいな顔も好みなのかも!)


 そんな考えに至った瞬間、ちょうど隣の病室の扉が開く音がした。


(リリアちゃんが、中庭に漫画を読みに行ったのかもしれない!)


 勝手に少し自信をつけた俺もリリアちゃんが落とした英雄遊戯の3巻を持って病院の中庭に向かった。


 ◇◇◇


「"こんばんは、リリアちゃん"」


「"……!?"」


 予想通り、中庭のベンチに座って漫画を読んでいたリリアちゃんに俺は優しく話しかける。


 そして、リリアちゃんはそんな俺を見て驚愕の表情を浮かべた。


 大丈夫、恐らくリリアちゃんは人見知りなだけ……。

 怖がられているわけじゃないはずだ。


「"部屋の前に漫画が落ちてたんだけど、君のかな? あの時はビックリさせちゃってごめんね。かわいい子がこっちを見ていたから、手を振ってみただけなんだ"」


「"…………"」


 若干キザな言葉だが、相手は小学生だしここはアメリカだ。

 ドン引きされることはないだろう。

 リリアちゃんの顔にさらに赤みが増す。


 リリアちゃんは俺が差し出した漫画を受け取ると、何も言わずに別の漫画の本で顔を隠すようにして読み始めた。


 俺がその隣に座ると、リリアちゃんの身体がビクリと震える。

 しかし、やはりこちらを気にしているようでチラチラと視線を送ってきた。

 大丈夫だ、今までの俺を見る目とは意味が違う。


 今までは俺が太っていて醜かったから周囲の人たちにも怯えられていたが、今の俺ならきっと大丈夫。

 リリアちゃんともお友達になれるはずだ。


 そう自分を鼓舞して語りかけた。


「"――それでさ、せっかく部屋がお隣同士なんだし。仲良くできたらなって思うんだけど、どうかな……?"」 


「"――っ!?"」


「"ほら、リリアちゃんって日本の漫画も読んでるみたいだし。俺も日本人だから、もし何か気になることがあったら教えられると思うし"」


 俺が仲良くなろうと持ち掛けると、リリアちゃんが小さな声で何かを話した。


「"――悪い"」


「"……うん? 何?"」


 俺が聞き返すと、リリアちゃんは深く深呼吸をする。

 そして、顔を赤くしたままもう一度言い直した。


「"――気持ち悪いっ!"」


「……へ?」


「"私につきまとってきて、貴方ってロリコンなの? 貴方のその顔も、声も、性格も、いつも人助けをしているところも、何もかもが嫌い! 仲良くなんて、死んでもお断りだわ!"」


 流ちょうな英語で、早口にまくし立てる。


 勉強の成果だ、こんなに早口でも俺はちゃんと聞き取って意味を理解することができた。

 そのせいで今、死にたくなっているんですけど……。

 リリアちゃんの泣き出しそうな表情が俺の心をさらにえぐる。


 結局、柏木さんの評価が正しかったのだ。

 きっと、俺は表立って歩けるような顔なんてしていない。

 元の山本流伽とどっこいどっこいと言ったところなのだろう。


「"……あの。すみませんでした"」


 小学6年生の女の子に誠心誠意謝った。

 こうして、俺は見事に『痛すぎる勘違い野郎』の称号を頂いてしまったのだった。


 ウォーラットさんと一緒に自分で手入れをした周囲の綺麗な花に囲まれてなかったら心が耐えられなかったかもしれない。


 もう絶対に、どう間違っても『自分がイケメンだ』なんて勘違いは起こすまい。


 そう心に決めた、月が綺麗な夜だった。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

毎日投稿ができず、申し訳ございません!

リリアちゃん編のプロットも良い感じで書けましたので、ぜひ最後まで読んでいただけますと嬉しいです!


☆評価を入れてくださっている方やギフトをくださった方々、本当にありがとうございます!

引き続き、よろしくお願いいたします!

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