第61話 お金を貸してください
(……あれ、これは?)
ガーデニングを終えてシャワーを浴び、自分の部屋に戻る途中。
リリアちゃんの部屋の前に漫画が落ちていた。
日本の漫画が英語に翻訳されたモノだ。
ちなみに、日本の漫画は『Manga』と表記されてアメコミとは区別されている。
恐らく、俺が中庭から手を振った時にリリアちゃんが驚いて落とした物だろう。
(そうかっ! リリアちゃんは自分の部屋で漫画を読んでいるのか!)
リリアちゃんの趣味が分かり、仲良くなるキッカケを掴む。
肝心の漫画だが……俺の知らないタイトルだった。
少し罪悪感を覚えつつ、中身が気になりその場でパラパラと拝読させて頂く。
この本はシリーズの第3巻だったので話のつながりは分からなかった。
しかし、一つだけ気になったことがある。
(……なんか、このキャラ。顔が俺に似てない?)
ヒロインたちになかなか酷いことをしたり、敵に土下座を強要したり。
サディスティックな性格のクズキャラ『クジョウ ユウマ』の顔が俺と似ている気がした。
リリアちゃんに恐れられているのはこいつのせいだろうか。
(とりあえず、返してあげよう。無くしちゃって今も探してるかもしれないし……)
「"リリアちゃ~ん、外に本が落ちてたよ~"」
俺はリリアちゃんの病室の扉を叩く。
すると、部屋の中から驚いてベッドから転げ落ちるような音が聞こえた。
しかし、その後は物音ひとつせずに扉は開かない。
居ないフリをされているのだろう。
(悪いことしちゃったなぁ、怪我してないと良いけど……)
仕方がないので、本を返すのはまた今度にした。
◇◇◇
「柏木さん、実はお願いがありまして……」
「なんだ?」
午後の診察の時間。
俺は凄く言いづらい思いをしながら、目の前に座る柏木さんに話を持ち掛ける。
「――お金を貸してください!」
誠心誠意頭を下げ、手を差し出す。
そんな俺の姿を見て、柏木さんは少し考えた後に頷いた。
「ふむ……そりゃそうだ。せっかくアメリカに来たならやっぱりやらないとな」
そう呟いて何か納得したような顔をすると、柏木さんは自分の財布を取り出す。
そして俺の差し出した手のひらの上に置かれたのは……銀行のカードだった。
「この病院での給料は全てそこに入ってる。ATMは病院の入り口だ。暗証番号は――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
とんでもないことを口走ろうとする柏木さんを止める。
「そんなに要りませんよ!? 50ドルくらいあれば十分です! 俺が何に使うと思ってるんですか!?」
「何って……ギャンブルじゃないのか? ほら、日本だと賭博は禁止されているからな。気兼ねなく使ってくれ、お前にだったらいくら使い込まれても良い」
「しませんよ!? というか、簡単にカードを渡さないでください!」
もはや冗談なのかどうかも分からない柏木さんに俺は説明する。
「リリアちゃんですが、どうやら漫画の本が好きなようなので俺も読んで共通の話題にしようと思ったんです。ですが……お恥ずかしいことに俺はほぼ無一文なので漫画を買うお金が無くて」
「なるほどな。確かに、夜中に中庭を見るとリリアがベンチに座って本を読んでいることがある。きっと、漫画を読んでいるんだろう」
「そうなんですね! じゃあ、夜中に中庭に行けば会えるかも……!」
「まぁ、しかしお金があるに越したことはないだろう。クマの人形も必要だしな。1万ドルくらい降ろしてお前のモノにしておけ。暗証番号は――」
「だからっ! 教えちゃダメですってば!」
防犯意識に乏しい柏木さんからなんとかその場で50ドルだけお借りして、俺は病院内の本屋さんとクマのぬいぐるみが売られているホビーショップに向かった。
――――――――――――――
【業務連絡】
お待たせしてすみません!
いつも嬉しい感想をくださりありがとうございます!
引き続き、よろしくお願いいたします!
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