第60話 また怖がらせちゃいました?

 

 柏木さんのクマ――じゃなくて、お願いされた。

『隣の病室のリリアとは是非とも仲良くしてやって欲しい』――と。


 俺は病院の中庭の庭木の世話をしながら考える。

 検査の時間が短くなったので、その分庭師のおじいさんのお手伝いをしているのだ。


 庭師のウォーラットさんはニコニコしながら話す。


「"山本、今日も手伝ってくれてありがとう! 日本人が親切だっていうのは本当だったんだな"」


「"いえいえ、俺も楽しんでやらせてもらっています。この中庭の自然にはいつも心が癒されていますので、恩返しみたいなモノですよ"」


 実は俺がこの病院に来た初日からちょくちょくお手伝いをしている。

 最初は重そうな芝刈り機を運ぶウォーラットさんを見かけて手伝っただけだった。

 しかし、農家の血が騒いだ俺からお願いし、こうして一緒に作業をさせてもらっているというわけだ。


「"そう言ってもらえると、ワシも頑張りがいがあるってもんよ! それにしても、今日はまた凄い人数だな"」


 ウォーラットさんがそう言って周囲を見回す。

 病院中の女性たちが服を土だらけにして作業する俺のことを興味深そうに見つめていた。


「"あはは、ウォーラットさんも驚きましたよね。病気が治って俺の姿が一変しましたから。どうやら珍しがってみんな気になっているみたいです"」


「"いやいや、お前が男前だからみんな目が釘付けになってるんだよ"」


「"あはは! そうかもしれませんね! ありがとうございます!"」


 ウォーラットさんのジョークに笑いながら俺は花壇の世話をしつつリリアちゃんについて考える。


(リリアちゃんは基本的に部屋に引きこもってるって言ってたけど、それはつまり部屋にずっと居れるだけの趣味があるといういうことだ! それを話題に仲良くなれば……!)


 俺は妹の彩夏の趣味を思い起こす。

 彩夏の趣味と言えば……ボランティアだ。

 小学校の頃から人助けや、近所や海岸のごみ拾いをして中学ではなんと自分でボランティア部を設立してしまったほどである。


 ……うん、アウトドア過ぎて参考にならんな。


(さて、どうやってリリアちゃんと仲良くなるか……)


 そう考えながらリリアちゃんの病室の方向を見ると、部屋のすぐ前からリリアちゃんも俺の事を見ていた。

 昨日の夜に鉢合わせたことで俺を警戒しているのかもしれない。


(チャンスだ! ここで何とか危険がないことをアピールすれば……!)


 俺は頬に付いた土を手で拭うと、リリアちゃんに笑顔で手を振った。


「……っ!?」


 しかし、リリアちゃんは俺に驚くと顔を真っ赤にして自分の病室に逃げてしまった。


 前途多難である……。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

さっさと日本に帰らせて楽しいシーンを沢山書きたいなと思いながら書いてます!笑

もう少しだけお待ちください……!

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