第44話 とんでもないイケメンでした
「え? 何ですか? もしかして失敗ですか?」
「…………」
柏木さんは俺の問いかけに答えず、瞬き一つもせず、生まれ変わったはずの俺の顔を見つめていた。
「あの……柏木さん? 柏木百合さん? 美少女天才医師。ラムネシガレット過激派。実は優しい。凄い努力家。白衣が似合う」
反応がないのを良いことに俺は好き勝手に呼称する。
再三の呼びかけで、ようやく柏木さんは我に返ったかのように身体をビクリと震わせ、反応を示してくれた。
そして、顔を赤くして荒い呼吸をし始める
無視されて、顔が赤くて、呼吸が荒い……これはもしかして。
「なんか、怒ってます?」
「……ちょ、ちょっと待て。考えをまとめるのに少し時間が必要だ」
そう言うと、柏木さんは俺から目を逸らして何やら一人でブツブツと言い始めた。
「そうだな……そうか……いや、しかしこれだと……私以外の女にも……」
柏木さんはもう一度チラリと俺の顔を見た後に大きなため息を吐いた。
そして、ようやく言いたいことがまとまったのだろうか。
俺から目を逸らしたまま語り出す。
「……私はお前に会えなくても構わないと考えていたと言ったな? お前の病気さえ治ってくれれば良いと。しかし、白状すると内心では期待していたんだ。もし、万が一お前に会うことができたらと毎晩夢に見ていた」
柏木さんの話はいつも遠回しぎみだが、今回も長くなりそうだった。
伝えたいことを正確にくみ取らなければならない。
「子供の頃のお前の顔はよく覚えていた、忘れられるはずもない。それから私は年齢が上がるにつれて、もし私が病気を治せたら今のお前はどんな顔になるのだろうと、私はよく妄想――いや、空想を働かせていたが……」
そう言うと、柏木さんはまた俺の顔をチラリと見て大きなため息を吐いた。
「これは私の予想をはるかに超えてきたな」
「えっえっ?」
つまり……どういうことだ?
柏木さんは少し頬を膨らませて不機嫌そうに言った。
「正直に言わせてもらおうか、私としては非常に残念だよ。前の姿のままでいてくれれば私にとっては非常に都合が良かったんだ。こんな姿になる必要はなかった。そんな顔で……表を出歩いて欲しくはないな」
柏木さんの言いたいことは分かった。
遠回しに伝えてくれているが、予想をはるかに超えた『残念な顔』だということらしい。
表を出歩いて欲しくないくらいに……。
「……あの、俺にも自分の顔を見せてもらって良いですかね?」
「あぁ、そうだな。見ればことの重大さが分かるだろう。ほら、私の手鏡があるから使ってくれ」
そう言って手渡された手鏡で俺は自分の顔を見る。
そこには知らない顔の青年が映っていた。
「嘘……これが私?」
一応、初めてのメイクで生まれ変わった女の子のようなセリフを言ってみる。
しかし、審美眼の狂った俺は正直これが良い顔なのかも悪い顔なのかもよく分からない。
俺は恐る恐る、柏木さんに尋ねる。
「えっと、俺はあんな外見で人生を歩んできてしまったので確かではないのですが……。これなら、一般人レベルの顔にはなれているんじゃないですかね……?」
柏木さんは即座に鼻で笑う。
「一般人レベルだと!? これが!? はっ、笑わせるな」
「そうなんですか……う~ん、ダメだ。よく分からない……。これまで、人の顔の良さの判断は『俺か俺以外か』でしか考えたことがなかったので」
「なんだ、そのどこぞのカリスマホストみたいな考え方は」
確かに、他の人よりも目がパッチリしていてまつ毛が長くて、鼻が小さくて、唇が薄い感じはする。
この女々しい感じの特徴が良くないのだろうか。
柏木さんはまたチラリと俺の顔を見て大きなため息を吐く。
「全く……お前の顔は何度見てもため息が漏れてしまうな。あまり私に近づくなよ、まだ見慣れてないから心の準備が必要だ」
「はい……」
柏木さんの容赦のない酷い言いように俺は心の中で泣いた。
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