第31話 まずはお勉強から
「これからだが……まず、最初はデータ収集だ。お前の身体検査をさせてもらいつつ軽いトレーニングをし、薬との相性を調べさせてもらう」
「すぐに地獄のトレーニング開始という訳じゃないんですね、少し安心しました。さてどうやってここから逃げ出そうか……」
俺の冗談を聞いて、柏木さんは少しだけ笑ってくれた。
「残念、私からは逃げられない。それと、水分の摂取制限は明日から始めるぞ。一日2.5ℓまでだ。意外と多いように感じるかもしれないが……まぁ、すぐに思い知るさ」
柏木さんは「それから――」と付け足すと、机の上に置いてある彼女の肩幅くらいの大きさの箱から一冊の本を取り出して俺に手渡した。
表紙は全て英語で書かれていて、パラパラとめくると単語の意味も簡単な英語で書かれていた。
英英辞典のようなモノだろう。
「英語のお勉強だ。指示書やこれから目にするもの、病院内での会話は全て英語だからな。私がいちいち翻訳するのも面倒だ。その単語帳は私も使っていたモノで、全て覚える頃には日常会話で知らない単語が出てくることはほとんど無くなるだろう。2週間で全て覚えられるな?」
「……オーマイガー」
柏木さんみたいな天才少女の感覚で言われても困る。
2週間……フォートナイト……短すぎる気もする。
「まぁ、でも勉強は嫌いじゃないので大丈夫です。どうせこっちにいる間に英語も覚えようと思っていたので」
「この病院の患者は暇を持て余しているからな、英会話はし放題だ。あまり迷惑はかけないように」
「ですが、俺はこんな見てくれですし……話したがらない人も多いんじゃないですかね」
「ここは肥満大国アメリカだぞ? 130キロの男性なんて別に珍しくもない。顔が悪いのは、悪口を学べる良い機会じゃないか」
「……メンタル治療もお願いしますね」
「そんな冗談が言えるなら大丈夫だ。ついでにアメリカンジョークも学んでくると良い、才能がありそうだ。それに私は今の君の顔もわりかし好きだぞ」
早速メンタルケアをしてくれたのだろうか。
そんな冗談を言いながら柏木さんは俺からまた単語帳を取りあげて箱に戻した。
その箱を俺に持たせて椅子から立ち上がる。
「さて、君が入院する部屋に案内しよう。ついて来てくれ」
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