第29話 美少女にしごかれる

 苛烈そうな治療内容を聞き、自分の顔色がどんどんと悪くなるのを感じた。


 それを見て柏木さんはわずかに微笑む。


 安心させるためだろうか。

 いや、もしかしたらそういうのが好きなのかもしれない。

 ドSの美少女にしごかれる……これが利害の一致か。

 嘘です、辛いのはいやです。


 アホなことを考える俺をよそに柏木さんは話を続ける。


「――とはいえ、途中で治療を挫折しても無駄になるわけじゃない。『肥大症』はそのまま放っておけば長くは生きられない難儀な病気だ。完全な治療には至らなくともやらないよりはマシではある」


「あっ、やっぱりそうなんですね。珍しい病気だからと俺を診断してくれたお医者さんも詳しくなくて。人より長く生きられないのは何となく分かっていましたが」


「お前の場合、症状の進行も早いみたいだしな。私の見立てだとあと10年程度しか生きられなかっただろう。命拾いしたな」


「…………」


 思わず絶句した。


 え? 俺そんなに早く死ぬところだったの?

 三十歳を迎えられずに死ぬところだったの?

 魔法使いにすらなれなかったの?


 正直そんなに深刻だとは思っていなかった、というか俺を診断した医者もちゃんとそういうところを調べて欲しかった。


 今回の肥大症の新薬を開発したのは柏木さんなので、正しくそのまま命の恩人ということになる。


「辛そうな治療内容を淡々と話されて、正直悪魔のように見えていた柏木さんが急に天使のように見えます」


「安心しろ、すぐまた悪魔に逆戻りだ。なんて言ったって、これからお前の面倒は私が付きっきりで見るからな」


「あはは……確かに優しくはなさそうですね……」


「もちろん厳しくいくぞ。完璧な体質改善――つまり完治させるには私が計算したトレーニングを全てこなす必要がある。詳しくはお前の身体データを取ってからだが……辛い治療だ、すぐに音を上げることになるだろう」


 柏木さんは過去の被験者の資料を元のファイルに戻しながらそう言った。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

 自分の書いてる他作品の書籍を買ってくださっている方から「やっぱり今作もヒロインは変態ばかりなんですか?」という質問がきましたが、ノーコメントとさせていただきます……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る