永遠について本気出して考えた

秋雨千尋

永遠なんてない

 永遠とは、なんだろう。


 ずっと続くものなんて有り得ない。

 最新鋭のコンピューターだって壊れるのだから、データなら消えないなんて幻想だ。

 記憶ほど曖昧なものは無い。朝食に何を食べたかも覚えていない。


 人の心なんてもってのほかだ。


「病める時も、健やかなる時も、永遠の愛を誓いますか?」


 そう神父様に問われて、ドレス姿で逃げ出した。


 今は、彼のことが大好きだ。

 一緒にいると落ち着く。顔を見ると嬉しくなる。ずっと声を聞いていたい。子供も産みたい。

 その気持ちは、永遠だろうか?

 彼が失業して、アル中になって、人が変わったように暴力的になったら?

 女ができたら?

 何年経っても子供が出来なかったら?

 今と変わらず好きでいられるのか。


 目の前に広がっている海でさえ、温暖化で干上がるかもしれない。

 愛なんて幻想なのではないか。


「み、みつけた」


 はあはあと息を切らして、彼が現れた。

 いつも作業着姿だから、タキシード姿が新鮮で嬉しい。似合ってないけどかっこいい。

 青空と砂浜の間で、二人きり。


「どうして逃げるの、気が変わった?」


「自信が無いの。わたし、永遠なんて誓えない」


 彼が足をもつれさせながら近くまでやってくる。

 必死に走ったのだろう、汗だくだ。


「僕達の愛が永遠に続くかなんて、分かるはずがない。だから今だけでいい。

 今、永遠と思えるかどうか、それだけでいい」


「今……?」


「色んなことが変わっていく。違う仕事につくかもだし、引っ越すかもだし、髪も薄くなるかも、加齢臭とかしてくるかも……。

 でも、いきなり変わるわけじゃないと思う。

 さすがに一日で禿げ上がらないよ。

 君も、僕も少しずつ変わっていく。永遠なんてないよ。それでいいんじゃないかな。


 一生そばに居て、一緒に変わっていって欲しい」



 まっすぐな眼差しと言葉に、射抜かれた。


 その手を取りたいと思った。



「あなたのこと、世界一大好き。今のこの気持ちだけは永遠。それでいいのかな」


「ぼくも君のことが世界一大好きだ!」


 砂浜で手を取りあった私達の元に、家族や友達がやってきた。司会者も神父様も汗だくで走ってくる。

 たぶん時間が押してるんだろう。


「えー、病める時も健やかなる時も、永遠の愛をー」


「「誓います!!」」



【完】

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永遠について本気出して考えた 秋雨千尋 @akisamechihiro

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