第27話 少女の恩返し
茜色に染まる空の下、アスファルトに映る2組の影。
並んで移動するそのシルエットは同じ方向を目指していた。
すっかりと人通りの少なくなった帰路を進み目的地へと到着する。
「お邪魔します」
少女は自身の脱いだ靴を行儀良く揃える。
いつも通りの家、いつも通りの玄関。
いつもと違うのは隣にいる少女だけ。
「どうぞ上がって。洗面台はそこを左に曲がった所にあるから」
「はい」
俺は巡井さんを家に招いていた。
いつも一人だった所為か、家に自分以外の人間がいる事に違和感を覚える。
自宅の洗面台で他人の手洗いを待つとは何とも不思議な感覚だ。
俺は冷たい水で自分の手を濡らし、洗濯機の横にかかっているタオルで水気を拭き取る。
冷静に考えて見れば、今現在女の子を家に呼んでいる。
しかも二人きりであるのだ。
そんな気は全くないが、気にならないといえば嘘になるだろうな。
「ここがリビングかな。バックとかは好きな所において貰って大丈夫だから」
巡井さんは、リビングに入って左側に配置されているソファーに立て掛けるようにしてカバンを置いた。
立て掛けられている時計を見れば、時刻は18時を指し示している。
「巡井さんお腹空いてる?ご飯にしようか」
「そうですね。すみません少しお腹が空きました」
俺は冷蔵庫を空け、夕食になりえる物はないか探す。
冷蔵庫の中に見えるのは8枚切りの食パン、チーズ、ベーコン、その他調味料のみ。
野菜などに関しては、じゃがいもと玉ねぎしかない。
とてもじゃないが人様に出せるような夕食は作れそうにない。
作る事を諦め、乾麺などをしまっている棚を開いた。
その中に入っていたのはカップラーメン一つのみ。
まともに食べられそうな物がこれしかないことに俺は悲しみを隠し切れない。
「巡井さんはカップラーメンって食べる?まともに食べられそうな物がなくて、もし嫌だったら何か買ってくるけど」
「いえ!泊めていただいている立場なので気にしないでください。それより大来帰君は何を食べるんですか?」
「俺はお腹空いてないから大丈...ぐぅ~...あっ...」
何とも間抜けな音がリビングに響き渡る。
食べ盛りの男子高校生とは実に不便なものだ。気を利かせてお腹が空いてないと言おうとしたのに、身体はバカ正直に反応をする。
そんな俺を見て笑いを堪える巡井さん。
気を使って耐えてくれているが、いっそのこと笑ってくれた方が気持ち的に楽だろう。
「ごめん、めっちゃお腹空いてる」
「すみません、少し冷蔵庫を拝見しても良いですか?」
頷く俺を確認して彼女は冷蔵庫の前に立った。
「じゃがいもと、玉ねぎと、チーズと...うん。これならなんとかなりそう」
彼女は冷蔵庫を物色しながら何やら小声で呟いている。
「大来帰君は何か嫌いな食べ物はありますか?」
「俺?特にないよ。何でも食べるかな」
「もし良ければ私に夕飯を作らせてくれませんか?お口に合うか分かりませんが、泊めていただいているお礼がしたいんです」
「本当にいいの?」
「はい。一応お料理には少し自信があるんです」
何となく申し訳ないような気もするが、カップラーメン一つと言うのも味気ない。
俺がしっかりしていればこんな事にはならなかったはずだが、ここは任せてみても良いかもしれない。
「ごめん、それじゃお願いするよ」
「分かりました。任せてください」
俺の返事を聞き、彼女が動き出した。
いつもは静かだった台所であるが、今日は賑やかになりそうだと思うのだった。
美少女のストーカーに告白されたのでまずはお友達から始める事にしました! 岡田リメイ @Aczel
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