8話「よろず屋の美人経営者は興味津々」

 ……あれ以来、雪原の女王が毎日家に訪ねてきて一緒に遊んでいると、やがて俺達の全身筋肉痛も和らいできて一週間程で療養生活は終わりを迎えた。


「ユウキ~? お金が入るんでしたら、私は久々にピギーのステーキセット食べてきても良いですかね?」

「別に構わんが、あまり他のを注文しすぎるなよ? 折角の”報奨金”を無駄にはしたくないからな」


 そして俺達は現在、雪原の女王が遊びに来る前に朝一でギルドへと足を運んでいたのだ。

 ギルドの中は吹雪が止んだ影響もあり、いつも通りの賑わいと活気を取り戻している様子だ。


 それから俺達がギルドに来た理由は先程のヴィクトリアとの会話でも分かるように、ただギルドに顔を出しに来た訳ではない。

 

 雪原の女王のティアラを受付のお姉さんに見せて特別報奨金を貰おうと思っているのだ。

 一応、雪原の女王はギルド指定の討伐対象となっていたと思うからな。


「あっ、私はちょっとあそこの荒くれ者達と腕相撲をしてきますわね。ここ最近ずっと家に居たので筋力が落ちているかも知れまんせから」

「あ、ああそうか。まぁ相手の方に迷惑は掛けるなよ? パトリシアは唯でさえ怪力ゴリ「な・に・か・? 言いました?」……いや何でもない」


 パトリシアは俺に妙な言葉の威圧感を放ってくると、俺はそれに怯んでしまいパトリシアから視線を外すと道を開けた。


「ふんっ。変な事を言わないで下さいまし」


 そう俺に台詞を吐き捨てると、そのままパトリシアは世紀末の様な服を着ている冒険者達の席へと向かって行った。

 

「……すまない、世紀末の様な服を着ている冒険者達よ。俺の仲間の怪力ゴリラパラディンのせいで迷惑を掛けしまうな」


 俺はパトリシアとその冒険者達を交互に視線を向けながら呟く。

 そして俺は受付へと歩き出そうとすると、


「ふははっ!! このオレの魔法に不可能はないぞ! どれ、次は氷魔法で古代兵器ジャイアントゴーレムを見せてやろうッ!」


 そんな陽気な声が酒場の方から聞こえてきた。

 俺は少しばかり面倒だと思ったが、古代兵器とやらが気になるので顔を向ける。


「きゃぁぁ!! あの古代兵器を氷で再現する何て流石は上級職の賢者様です!」

「私達魔法使い見習にとって、ユリアさんは憧れであり尊敬するお人です!!」

「是非是非! 私達にもっと上級魔法を教えて下さい!!」


 するとそこにはユリアを取り囲む新人冒険者達の姿があった。恐らく全員が魔法使い系の職だろう。漏れ聞こえた会話と背中に背負っている杖が何よりも証拠となっている。


「良く分からんけど魔法使い職にとってユリアは憧れの存在となっているのか……。だがあんなドSサド賢者を慕っていたら、このギルドの新人魔法使いは全員ドSになりそうな気がするな」


 俺はこのギルドの未来を心配して頭を抱えると、ユリアが杖を振りかざして何やら詠唱を行いその場に古代兵器ジャイアントゴーレムとやらを氷で再現していた。


「なな、なんだ……。あの無駄にクオリティの高い造形物は……。あれが古代兵器なのか?」


 ユリアが作った氷像を見て俺は不覚にも感心してしまうと、周りに居る魔法使い見習い達と共に自然と拍手を送っていた。

 もし冒険者家業が駄目になったら、ユリアを使ってアートデザイナーという道もあるなと俺は少し思った。


「さて、それはそれだ。今は特別金のを受け取る方が先だな」


 やっと俺は受付の方へと歩き出すと、いつもの受付のお姉さんが立っている場所を狙って行く。

 あの受付のお姉さんは時々、俺に対して何やら不信感を抱く時があるみたいだが俺は気にしない。


「何故なら! 合法的におっぱいの谷間が拝めるからであるッ!!」

「…………」


 俺はその言葉を心の中で言っているつもりだったが、どうやら全面的に出していたらしく受付のお姉さんの生ゴミを見るような視線が凄く痛い。


「す、すみません……。ちょっと間違えました。色々と」

「…………そうですか、次はないですよ」


 受付のお姉さんに対して何度も俺は頭を下げると、次は無いという宣告を受けて何とか許して貰えたようだ。だが俺とお姉さんの間に流れる微妙な空気感は依然として気まずいものだ。


「あ、あの……。雪原の女王を討伐したのでこれを……」


 俺はポケットに手を入れると女王から貸してもらったティアラを取り出して、そっと姉さんの前に差し出す。

 

「こ、これは!? 雪原の女王が身に付けているとされる、雪のティアラじゃないですか!! ……すす、直ぐに本物かどうかの鑑定をしてきますので、少々お待ち下さい!」


 受付のお姉さんは先程まで道端のゴミを見るような冷酷な目をしていが、俺がティアラを差し出すと一変して目の色が変わった。

 そしてティアラを震える手で持つと、そのまま奥の方へと小走りで消えていってしまった。


「うーむ。鑑定だと時間掛かりそうだし、先にちょっとだけ余ってるステータスポイント振り分けちゃおうかな。このまま残していてもしょうがないし」


 受付のお姉さんが戻って来る前に、俺は残っているステータスポイントを全て使う為に横に置いてあるステータス反映機へと手を伸ばす。


「いやぁ、流石にここ最近は魔物を討伐してないからステータスポイントは少ないな。これじゃあ、強そうなスキルが取れないか……」


 俺はステータス反映機にドッグタグをセットして自身のポイントとスキルを確認するが、画面に表示されているのは微々たるポイントのみであった。


「何か良さげなの……無いかなぁ。出来れば微々たるポイント内で収まるぐらいのを……」


 独り言をブツブツと呟きながら機械を操作していくと、とある箇所に目が止まった。

 

「おっとぉ……これはこれは。中々に俺の心を擽ってくるスキルがあるじゃぁないか」


 俺はその心を擽ってくるスキルを発見すると直ぐにスキル取得ボタンを押して、更に残っている全ポイントを投資してスキルを強化していく。


「ふっ、まさかこんなスキルがあろうとは思わなかったな。これは家に帰ったら早速使ってみよう。……ふひひっ」


 これで俺の持っているスキルポイントは綺麗さっぱりなくなっていて零と表示されている。

 だが後悔は一切ないと断言できる。これはそれ程までに価値のあるスキルなのだ。


「……あの~ユウキさん? 鑑定終わりましたけど……」

「あっ、す、すみません。何でもないでっす……」


 受付のお姉さんは時を見計らったかのように現れると、俺の笑みを見て若干引いているご様子だった。しかし受付カウンターにはしっかりと、報酬金が入っているであろう袋とティアラが置かれている。


「そ、そうですか……。えーっと鑑定の結果、こちらのティアラは本物と出ましたので報酬金の五十万パメラとなります! それとティアラはお返しします」

「ありがとうございます!! で、では……俺はこれで!!」


 受付のお姉さんから報酬金の入った袋とティアラを受け取ると、俺はその場から逃げるように立ち去った。一度ならず二度までも俺は失態を晒してしまったからな……。これ以上居るとまたやらかしてまうと思ったのだ。


「はぁ……。俺はあの受付のお姉さんと相性が悪いのかぁ……?」


 受付から離れた一角で俺は溜息を吐きつつ項垂れている。


 すると急にギルドの扉が音を大きく立てながら開かれた。そして扉を開けて入ってきた人物はギルド内を見渡してから、俺に視線を合わせると真っ直ぐこっちに向かって歩いてきた。


「珍しいな。こんな時間帯に”スージー”さんがギルドにやって来るだなんて。また何か面白い話でも冒険者達から聞きに来たのか?」


 俺は真っ直ぐに歩み寄ってくるスージーさんに視線を合わせていると、向こうは何を思ったのか急に走り出して俺に突撃する勢いで近寄ってきた。


「やぁやぁユウキ君! ここに居たのかね! 私はてっきり君の事だからまだ家で寝ていると思って先に家に向かってしまったぞ! ……まぁ、そうしたら綺麗なドレスを纏った美女が君の家の前をうろうろしていたがな。ははっ」


 スージーさんは俺に密着してくると怒涛の言葉の数々を俺に浴びせてきた。

 だけどスージーさんは一体何が言いたのだろうか。と言うよりスージーさんには俺がぐうたら生活をしているのがバレているのか……?

 

「ちょちょっと! 一旦落ち着いて下さいよ! 急に色んな事を言われても分かりませんって!」


 密着しながら俺の右腕にスージーさんが胸を押し付けてくると、俺は少し残念に思いながらも無理やり引き離す事にした。取り敢えずスージーさんが何を言いたいのか聞くためだ。

 

「おっと、ごめんごめん。これじゃぁ話が分からないよな。実は君がくれた手紙を読んで私は君をずっと探していたのだよ」

「は、はぁ……。手紙ですか?」


 俺は手紙という言葉を聞いて生返事をすると、スージーさんは徐にポケットから一枚の紙切れを取り出して見せてきた。

 そして俺はその紙を目にすると自分でそれを書いた事を思い出す。


「あぁぁ!! それは俺が雪原の女王を討伐しに行く前に書いたやつだ! ああ、すっかりと忘れていた。色々とあって」


 俺は大きな声を出しながら手紙を指を差すと、スージーさんは口角を上げて笑みを見せた。


「そうだろう! そして私はこの手紙を読んで雷鳴の如く体に衝撃が走ったぞ。……あ、そうだユウキ君、今時間空いているかね? 私としてはこの手紙の内容を詳しく聞きたいと思っている。だから酒場で何か食べながらじっくりねっとり私と話さないか?」

「ええ、もちろん喜んで!」


 スージーさんから手紙の内容を聞かせて欲しいと言われると俺は直ぐに返事をした。

 だってあのスージーさんの奢りだ。きっと高い料理を注文しても気にされないだろう!

 

「では向こうの席が空いているようだから、そっちで話をしよう」


 スージーさんが空いている席に向かって歩き出すと俺もその後を追って歩き出す。

 報酬金を貰った後だから別に奢られなくても良いだろ、と言われるかも知れないが俺としてはあまり自分の金に手を付けたくはない。


 これはいざという時に使える用の金にしたいのだ。所謂貯蓄というやつだ。

 まあ、それでも後でヴィクトリア達と分配しないといけないがな……。

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女神の手違いで殺された俺は、異世界にて機械装甲を纏い美少女達と共に冒険ス! R666 @R666

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