第3話
翌日の放課後、僕らはいよいよ現場検証のため、裏山へ向かったが、
「なんで、転校生を連れて来たんだよ」
内野が小声で僕に聞いた。
「長谷川さんが連れて来たんだ」
僕も小声で答えた。
「聞こえているわよ、二人とも。こそこそ話すなんて、気分が悪いわ。エマにも失礼よ」
長谷川さんが僕らを睨んだ。
「ごめんなさい。長谷川さんから話しを聞いて、わたしも閃光を見たと話したら、一緒に行きましょうと誘っていただいたので……」
「いいじゃない、仲間は多い方が。それに、彼女も目撃者の一人だよ」
山田は理解のあるいい友人だ。そして、彼の言葉で長谷川さんの機嫌も良くなった。
「そうよね。さあ、早く行きましょう」
長谷川さんは張り切って、登っていった。
そう言えば、この転校生もミステリアスではないか? 謎の閃光があった翌日に突然の転校生。転校生が来るなら、その前に情報が入って来るはずだが、彼女が転校してくることは誰も知らなかった。アメリカ人のありきたりなベタな名前。親の都合で日本に来たわりには、ネイティブな日本語。そして何より、日本の小学校に馴染み過ぎではないか? そう考えると、すべてが疑わしく、不自然に見えてきた。
「吉田君?」
裏山の頂上に着いていて、さっそくみんなが手がかりを探し始めていたが、僕は考え事をしていて、エマに声をかけられた。もしかしたら、彼女が宇宙人で僕の思考を読み取られたのではないかという思いが、表情に出てしまっていた。
「なんだか、怖い顔をしていたけど、どうしたの?」
僕とエマの会話は、他の仲間たちには聞こえていないのか、手がかり探しに夢中になっている。何か変だ。勘の鋭い山田が僕たちの事に気が付かないなんて。内野が、僕に声をかけずに探し始めるなんて。エマを連れて来た長谷川さんが、エマをほったらかしにするなんて、すべてが変だ。
「エマ・スミス。あなたは何者ですか? どこから来たのですか? 裏山の閃光は一体何ですか? 今の状況はあなたの
僕は立て続けに質問した。
「あなただけよ。わたしの存在を疑っているのは。そして今、彼らには、わたしたちは見えていない。あなた、この状況でどうするつもり?」
「僕は、大切な人たちが傷つかなければ、あなたが何者でも構わないさ。でも、あなたが彼らを傷つけるというなら、僕はそれを許さない」
「その心配は要らないわ。わたしたちはただの旅行者よ。わたしは両親と共に、この地球へバカンスに来たのよ。地球人に成りすまして、ここでの暮らしを体験するツアーよ。父は営業マン、母はスーパーのパート社員になって、この体験を楽しんでいる。それを邪魔されるのは困るわ」
僕は拍子抜けした。侵略でも、戦争でもなく、彼らは善良なただの旅行者だという。
「君の話しを信じたいけど、僕には真実を知るすべはない」
「あら、簡単よ。これを見て」
彼女は透明な板を出した。それは僕ら地球人の使う、タブレット端末みたいなもので、指で操作すると、夜空が映し出された。
「これは、みずがめ座流星群?」
「あなたたちがそう呼んでいるこれは、わたしたちの客船よ。みんな宇宙旅行者なの。今の時期は旅行シーズンでね、最近は地球が人気なのよ」
その後、エマ・スミスは忽然と居なくなった。彼女を知っているのは僕だけで、他の誰も知らないという。ホームページにも『裏山の閃光』については、すべてが消えていた。最初から何も無かったのかも知れない。
僕は夢を見ていたのかも知れない。
裏山の閃光~藤ヶ丘少年団~ 白兎 @hakuto-i
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