第2話
みんな、考える事は同じだった。裏山は大人も子供も大勢来ていて、隕石探しで荒らされていた。
「帰ろう。僕らは遅すぎた」
昨夜のあれが、本当に隕石だったのか、まだ断定はできない。それ以外の可能性もあるのだから、それを調べてみる事にした。
みんなを連れて自宅へ帰った。
「あら、賢一。お友達大勢来たのね。どうぞ上がって」
母は、こんな上品なことは言わない。長谷川さんがいたからだろう。僕が女子を連れてくることはほとんどない。二階へ上がると、下で話す声が漏れ聞こえた。どうやら、麻里にお使いを頼んだらしい。
僕の部屋へ入ると、さっそくパソコンを開いた。まずは、ホームページで今回のミッションの発表と、情報提供を求めた。それから、謎の閃光が、隕石以外でどんなものが考えられるか調べてみた。
『落雷、地震発光現象、火山雷』などがあったが、昨夜の気象条件では考え
「やっぱり、隕石説が濃厚になるね」
僕が言うと、
「UFOっていうのは考えられないかな?」
山田がぽつりと言った。
「ユーフォ―? あるわけないだろう」
内野はその説をすぐに否定した。
「あら、分からないじゃない。宇宙は広いのよ。どこかに地球のような惑星だってあるはずよ」
「僕も地球外生命体が存在すると考えているよ。だから、否定はしない。可能性がゼロじゃないなら、調べる必要はあるよ」
「でもよ、どうやって調べるんだよ」
「事件の解決には、現場検証と聞き込みだよ。僕らはまだ聞き込みをしていない。目撃者を探して話を聞こう」
目撃者一人目、山田透。
「まずは、山田。夕べ、あれをどこで見たんだ?」
「自宅のベランダからだよ。真夜中だし、出かけられなかったからね」
「音はしたのか?」
「音はなかった」
「閃光は何色だった?」
「中心が青で、周りが白かった」
「光の形は?」
「放射線状、と言うのかな。裏山の頂上にドーム型のように見えた」
山田は、そう言って絵を描いた。
「光は上から落ちてきたのか、それとも下から発生したのか?」
「上から落ちてきたようには見えなかった。下から発生したのかもしれない。急な事だったし、一瞬だったから、僕の感覚が正確だとは言えないけどね」
これはもしかしたら、隕石ではないのかもしれない。だとしたら、一体何だったのだろうか。山田の話しだけで結論を出すつもりはないが、余計に謎は深まった。
「次は誰に聞くの?」
クラスメイトの中では、目撃者は山田だけだったが、ホームページにはいくつもの情報が寄せられていた。その中から二人選んだ。
「この人に話しを聞こう」
藤ヶ丘三丁目の花岡さん。さっそくアポイントメントを取った。
「今から、話しが聞けるそうだ」
花岡さんのところは、山田と長谷川さんに行ってもらった。
「内野と僕は、この人に話しを聞きに行くよ」
僕らは四丁目の沢田さんのところへ向かった。
裏山の位置は、三丁目と四丁目の境にあって、藤ヶ丘小学校の運動場の裏にあった。そこで僕は、一番近くで見た人たちから話しを聞くことにしたのだ。
沢田さんが見たのは自宅のある四丁目側からで、花岡さんはその反対側の三丁目からだった。この二人の証言から何か分かるかもしれないと思った。
二人の目撃者にも、山田にした質問を投げかけ、彼らにも絵を描いてもらった。光の形、色についても、山田とほぼ同じだった。
「目撃者の証言の共通点をまとめるとこうだ」
『裏山の閃光』
日時:五月十五日 午前零時五分
場所:裏山(藤ヶ丘三丁目三ノ十四)
閃光の色:中心は青く、周囲は白
閃光の形:ドーム型
音:無し
振動:無し
これだけでは、情報が足りない。
「今日の調査は、ここまでにするよ。明日は現場検証だ」
仲間が帰った後、僕は山田の言う、UFO説を仮定し、それについて調べてみる事にした。
UFO=未確認飛行物体
未確認であるため、正しい情報は見つからなかった。実際のところ、誰も何も知らないと言う事なのだろうか? それとも、大国の政府が情報を隠しているのか。
僕ら一般人には、何の情報も得られないと言う事が分かった。しかし、分からないからこそ、それに魅せられて多くの物語が書かれていた。それらはフィクションとしているが、もしかしたら、真実を語ることが出来ないから、フィクションとしているという事も考えられる。
「まず、あれがUFOだとして、乗って来た宇宙船はどこに隠したのか? 乗って来た知的生命体はどこへ行ったのか? 何が目的なのか?」
物語でよくある話は、侵略、戦争、映画になるような派手なものが多かった。ただ、地球人として僕が考えるには、他の惑星に知的生命体がいて、そこに行くことが出来るのなら、どんな姿をしているのか、どんな暮らしをしているのか、どんな技術を持っているのか、興味は尽きないだろう。知りたい、それが目的ということもあるだろう。今のところ、誰かが襲われた話はない。今もこの町のどこかに、宇宙人が潜んでいるのかもしれない。
「考えすぎかな?」
僕が思っている以上に、独り言が大きかったようだ。ノックもせずにドアを開けて、妹の麻里が、
「さっきから何? ぶつぶつと一人でしゃべって。ご飯だから早く降りてきなさい」
母親みたいな口調で言った。
「分かったから、先に行ってて。すぐに行くから」
僕が言うと、麻里はパソコンの画面を見て、
「あっ、それ。今話題のあれね。やっぱりお兄ちゃんたちも調べているのね。あたしもいい情報あるわよ」
と意味ありげに言って、口元を緩ませた。麻里はいつもこうして僕らのミッションに関わってくるのだ。ようするに、仲間に入れて欲しいのだ。
「その情報、役に立つのか?」
「あら、聞きたくないのなら教えないわよ」
「悪かったよ。教えて欲しい。じゃなくて、教えてください」
「分かったわ。でも、その前に、ご飯よ。早く来なさい」
僕はいつも妹にやり込められる。麻里が母親の口調を真似しているからだろうな。
夕食のあと、さっそく麻里からとっておきの情報をと思ったが、
「お兄ちゃん、宿題はやったの? それが終わらなければ情報はおあずけよ」
麻里は母のように僕に世話を焼いて満足そうな顔をしている。僕はため息をついて、
「今からやろうと思っていたんだ」
と言うと、
「ほら、やっぱりやっていないのね。いっつも言い訳ばかり……」
麻里のボヤキが続きそうだから、部屋へ入ってドアを閉めた。
宿題を終えて、やっと麻里から情報を聞き出したが、目新しい情報でもなかった。麻里のクラスの横山君の証言らしいが、彼の事はあまり信用していない。けれど、証言内容は他の人たちとほぼ同じだった。彼も閃光を見たのだと思う。
物語だと、UFOの目撃者、閃光の目撃者が連れ去られるとか、洗脳されるとか、恐ろしい事に巻き込まれることになる。今回が、もしUFOの光だとしたら、目撃者は大丈夫だろうか? そう考えたら急に不安になった。
居ても立っても居られない、僕は山田に電話をかけた。
「山田、大丈夫か?」
僕の第一声に、山田はきょとんとしていた。
「どうしたの? こんな時間に」
夜の八時を過ぎた頃だった。
「UFOについて調べていたんだけれど、UFOを見たり、光を見た人たちが連れ去られるなんてことはないかなって、考えたら、山田の事が心配になったんだ」
「そう、心配してくれてありがとう。今のところは大丈夫みたい。でも、相手が宇宙人だったら、僕らは太刀打ちできないね」
山田の言うとおりだ。僕らにはどうにもならないだろう。でも、山田が連れ去られるのを黙って見ているなんてことはしない。僕も内野も、精一杯抗って、山田を守るさ。たとえ一緒に連れ去られても。
けれど、UFO説を麻里は鼻で笑った。そんなことがあるはずがないと。
「お兄ちゃんは映画や小説に影響され過ぎているのよ。あれはみんな作り話よ」
今回の謎の閃光も、笑い話で終わればいいか……。
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