裏山の閃光~藤ヶ丘少年団~

白兎

第1話

 五月のある夜、それは突然起こった。


「吉田君!」

 登校早々、長谷川はせがわ美佳みかが大きな声で僕を呼んだ。

「もう知っている」

 長谷川さんが言いたいことは分かっていた。今はその話題で持ちきりだったから。

「裏山の閃光だよね。多くの情報がうるさいくらいに寄せられているよ」

 教室ではみんながその話をしていた。


「ほらー! みんな席に着け! 朝礼を始めるぞ」

 そう言って担任教師が入って来た。

「マッキーも『裏山の閃光』見たのか?」

 内野が担任に向かって言った。担任の名は、牧田健二。ニックネームはマッキー。

「俺は見ていないよ。それが何時だったか知っているのか? 夜中の零時だぞ。見たというのなら夜更かしだ」

 マッキーの言葉に、みんな急におしゃべりを止めた。

「突然だが、転校生の紹介をするぞ。今日から新しいクラスメイトとして仲良くするように。さあ、入って」

 マッキーが言うと、その少女は遠慮がちに教室に入って来た。髪の色が白に近い金色で綿あめみたいにふわふわしていて、瞳の色が深い青色。どこの国から来たのだろうか? 日本語は分かるのだろうか? 僕はそんなことを思ったが、他の人たちはその見た目の美しさに魅了されて騒然としていた。

「はい、はい。お静かに。これから、ちゃんと紹介するから、口をつぐみなさい」

 マッキーに言われて、一同が黙った。

「名前はエマ・スミス。出身はアメリカで、ご両親の仕事の都合で日本に来ているという事だ。挨拶できるかな?」

 マッキーがエマに言った。彼女はコクリとうなずき、

「エマ・スミスです」

 と名前だけ言って、お辞儀をした。訛りのない日本語だったのが妙に気になった。


 午前の授業が終わり、給食の時間となった。女子たちは甲斐甲斐しくエマの世話を焼きたがった。配膳から机の移動までして、なんとか自分のグループにエマを引き入れたいようだ。クラスの女子は十三人いて、それが大きく三グループに分かれている。お互いに仲が悪いのではなく、仲間と一緒にいることで安心するのだろう。しかし、こういう場面ではそうはいかないようだ。少し険悪なムードも漂ってきている。

「みなさん、ありがとうございます。今日は長谷川さんたちと一緒に食事をします。明日は田辺さんたちと、明後日は山下さんたちと一緒に食事をします。それでいいでしょうか?」

 エマはこういうことに慣れているのか、上手くその場を治めた。


 放課後、僕らは秘密基地に集合した。

「みんな集まったね」

 僕と山田、内野、長谷川さんの四人が顔をそろえた。

「それじゃ、今回は『裏山の閃光』ミッション開始だ!」

 僕が言うと、山田と内野は元気よく拳を上げて、

「おう!」

 と言った。長谷川さんも控えめに拳を上げていた。



 夕べはちょうど、みずがめ座流星群が見られるというタイミングで、多くの人が真夜中に空を見上げていたに違いない。僕も興味がないわけではなかったが、さすがに起きていられる時間ではなかった。そんな中で『裏山の閃光』という出来事が起こった。多くの人があれは隕石が落下したのだと仮説していた。


「今日は、これからみんなで裏山へ行くよ。本当に隕石だったらニュースになるね」

 僕らはワクワクしながら現地へ向かった。

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