追想

久しぶりにバスに揺られて

息子と出かけてきた

買い物を済ませて

またバスに乗り込む頃

雲は薄紅色うすべにいろに淡く色づき

空は優しい姿になる


前の席に座った息子が

コクリコクリと船をいでいる

わたしはマスクが息苦しくて

車酔いしそうになっている

息子三人とも無事に成人して

今は、この長男と二人暮し


思えば、あの日から

なんて遠くにきたことか

仕事で疲れているだろうに

いつも母や弟たちを気遣ってくれる

昔から優しいお兄ちゃんに

心のなかで手を合わせ


十年一昔じゅうねんひとむかしというけれど

街も変わっていき

なかった建物ができて

あったお店が消えていく

栄枯盛衰えいこせいすいを身をもって知る

追想はひろがりつづける


亡き祖母や父母との暮らし

何気ない情景や会話

今も消せずにいる留守番電話に残る声

若くに逝った夫との想い出

わたしは貴方より

二十二も歳上になってしまったよ


みんな逝ってしまった


寂しくないといえば嘘になるけれど


こうして今を生きている

それはやっぱり幸せなことだと思う

バスはもうすぐ停留所に着きそうだ

息子は起きたようで背筋をしゃんとして

「母さん、次だよ」と声をかけてくれる

わたしは笑顔でうなず


バスを降りたら

黄昏たそがれの帰り道を

また明日へと歩こう

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