第24話 すべてよはこともなし


こんばんは!

ここまでお付き合いくださってありがとうございます。

いよいよ最後です。


さあて。

ねずみの罠をふりきって、おじいさんはどんどん進んでいきました。

道はだんだん細くなり、傾斜もきつくなってきました。

もう立っては歩けません。

おじいさんはとうとう手をつきました。

後ろをみないように細心の注意をはらいます。

もう、お札なんかどこにもみえません。

背負ったおたからが少し邪魔でしたが、気にしないようにしました。

「とらきち。待っとれよ。もう一生、腹を空かすことはないでの。」

おじいさんは頑張りました。

かつて強風が吹きあがるエベレストの稜線を歩いた記憶がよみがえります。

今はもう若くないので、それなりに怖かったのですが、真っ暗で下がみえないのはおじいさんにはさいわいでした。


ねずみのわなになんか引っかかるものかい。

わしを誰だと思っとるんじゃ。

伝説の猫飼い、とらきちマスターのじいさまじゃぞい。


おじいさんはここへきてようやく、意識の表層第一層に帰還の一言を刻みました。

これでもう大丈夫。

あわてる乞食モードからは完全撤退しました。

あの、ねずみたちの背後に見え隠れしていた怪しい気配、何とか伯爵とやらの醸し出す怪しいというか、とんでもなく嫌な感じの気配も断ち切りました。

よし。おじいさんはどん!と大きく地面を踏んでまた、歩き出しました。

よれよれの感じは消え去って、力がみなぎっています。

光に向かって進むのです。


やがて、辺りが少しずつ明るくなってきました。

ねこの声が聞こえてきました。

とらきちです。

いつもの朝の見回りです。

とらきちの後ろを3匹のちいさいねこさんが、ちょろちょろと歩いています。

ちいさいねこさんたちは、前になったり後ろになったり中になったりと忙しそうです。

見回り見習いです。

独立する、その日のために。

遠くに白いねこが見えます。

ミーちゃんでしょうか。

みいみい、みゃうみゃう、まうまう。

その声にあわせるように、揚げ雲雀が歌っています。

朝露に濡れた葉陰にカタツムリが這っています。

懐かしいいつもの朝の景色、ああ、なんてきれいな空!

おじいさんは自分の世界に戻ったのです。

時計が7時をうちました。

ひょんなことから穴に落ちて、三日が過ぎていました。


おたからは本物でした。

伯爵があの日、おじいさんに渡したくて渡せなかった、いわくつきのたからものです。

もしかしたら、お話は全部、そもそもの始まりから伯爵が仕込んだ通りに進んでいっただけかもしれません。

願いとは、祈りとは、どれだけおおきな力をもつものか、天の計らいはまったく不思議なものです。

伯爵、おめでとう。これで望みはすべてかなったのね。


おじいさんととらきちは、小さいねこさんやねこさんの白いおかあさんといっしょに、死ぬまで生きて、楽しく暮らしました。


とらきちは結局、7の段学校には戻りませんでした。

だって、7の段なんてちょちょいのちょいだし、777×77なんてのもお手のものなんですもの。なんでわざわざ、戻る必要があります?


あのとき、とらきちは風にのり、風に乗って流れているうちに、自分もいつのまにか風になっていました。たくさんの国を訪れ、たくさんのねこに会いました。

ねこになる前のカタツムリにも、かえるくんにも、がまがえるくんにも、くまさんにも、きつねのごんにも。

ねこの国に入国したいものには、国民審査でどんなことを聞かれるかアドバイスもしました。

で、最後に必ずつけ足したものです。

結局最後はねこへの愛情だよ、って。

委員会が最終的に見定めるのは、見定めたいのは、見定めるべきはそこさ。

もしそうでなかったら、国民審査に意味なんてないだろ?って。

意味のないものなんか、蹴とばすのさ。ねこになるのなら、クールに決めようぜ!

そういって、最後はきまってあの

ごろにゃあご~で〆るのでした。


それでは、けさらんぱさらんのとらにゃあご。

またいつか、ね。

みなさまにどうぞよい夢が訪れますように。

おやすみなさい。

ありがとうございました。


神、そらにしろしめす

   すべて世はこともなし


※「春の朝」 作 ブラウニング 

       訳 上田敏 「海調音」より抜粋

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とらきちのはなし @elino414

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