第67話 別れ(6)

 砂浜にはだれもいない。

 日が暮れるのも早くなった。あの日、日が沈むまで、食事して、少し眠って、そして千菜美ちなみ先生の漕ぐボートに乗ってという時間があったのに、いまは、学校が終わって砂浜まで来たら、すぐに日が暮れてしまう。

 風も冷たい。

 でも、海の水は、まだ暖かさを残していた。少し泳ぐくらいならできそうだ。

 この紺色の水着の出番も今年はこれが終わりかな、と思う。

 来年はいつから泳ぎ始めるのだろう。いや、来年になっても、ここで泳ぐことに咲恵さきえさんのように熱中できるかどうか、わからない。

 そう思うとさびしくなって、みちるは東の空を見上げた。

 夕焼け色の空に、シルエットになって南へと飛行機が飛んでいる。

 ここを南へ飛ぶ飛行機は、日本より南の国に行く便で、逆に飛ぶのは南の国から日本に帰ってくる便なのだろう。

 あの飛行機に乗っていけば、咲恵さんのいるところまで行けるんだろうか。

 みちるは、その飛行機が、南側の岬、あの洞穴があり、かつて咲恵の「プライベートビーチ」だった海岸を村と隔てている岬の陰に隠れるまで、じっと見送る。

 そして、みちるは、波打ち際に屈むと、海の水を浴びる。

 水を浴びたところを風が容赦なく吹き過ぎて、寒い。

 だが、みちるは、体の全体に水がかかるように、海の水をひととおりかけた。

 あまり大きい波の来ないこの湾の奥に、ほかよりも大きい波が来る。

 あれを、迎えの波にしよう。

 今年、最後の。

 波が崩れそうになるそのすぐ前に、みちるは波の上に身を投げ出し、海の水へと自分の身を委ねた。


(終)

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