第57話 月が昇るまでに(10)
でも、
そのとき、その救われた仲間の少女は、どう思っただろう。
自分を救ったために相瀬がそんな目に遭ったとしたら、それは、悲しいと言うより、いたたまれなかった、
昔は海蛇だった。そのかわりがこの魚雷ロボットだ。
今度は、自分が何とかしなければいけない。
思い出してみよう。みちるは、筒島のほうに向かってゆっくり水中を進みながら、考えた。
あれは、本来、何をするためのものだったか。
暗い水路で、色のついた立方体を見分ける。
その色は、明るい青、明るい赤、暗い青、暗い赤……。
暗い青?
そうだ。そして、いまみちるが着ている学校用の水着は紺色だ。濃い青というなら、ちょうどその色をしている!
からくりがわかったとともに、怒りが湧いてきた。
女の子と紺色の水着をバカにするな!
みちるは全力で水を
もちろんロボットはついてくるだろう。しかも、スクリューで動く小さいロボットのほうが早くて機敏だ。確かめるだけむだなので、確かめない。
水面近くまで浮き上がる。そのまま水面に顔を出すふりをして、急に腰を折り、水に潜る。水中でぐるっと半回転する。ロボットの後ろに出る。
ここで息を吐いているので、やり直しはきかない。巧く行くかどうかは賭けだ。これでもロボットに先回りされたら、あとは刺し違えるしかない。蹴飛ばしてでもひねり回してでもロボットを壊してやるつもりだ。
やはりついてこられなかった。みちるは勢いよく水を蹴って水上に出る。上でまた思い切り息を吸う。水上で横に倒れるようにして、少しずれた場所からまた潜る。潜って今度は全力で筒島を目指す。
更志郎にロボットを見せてもらったとき、センサーらしい小さなガラスのレンズは前のほうにしかついていなかった。だから、すばやく後ろに回れば、ロボットには少しだけついてこられない時間ができるだろう。しかも、機敏だと言っても、もともと速く動く目標を追うように作られたロボットではない。だから、水中でターンして後ろに回れば、息継ぎをする余裕ぐらいある。
ともかくこいつは深く潜れないのだ。そこをつくしかない。
あと、このロボットは百メートル進めば電池が切れる仕掛けになっている。
天才少年はその電池の持ち時間を長くするようなプログラムを組むだろうか。いや、それはたぶんできないようになっているに違いない。それができるとしたら、コンテストの参加者はみんな同じことをするに決まっているから。
息が苦しくなってくる。さっきと同じ方法でロボットを惑わし、息を継ぐ。ついでに筒島の方角を確認する。
また潜る。
咲恵は、みちるを助けてくれたとき、みちるが自分で水に潜ったまま泳いでいたと言っていた。自分では信じなかった。潜って泳げるほどの能力はないと思っていた。
でも、こうやってみると、脚を大きくバタ足させ、水を平泳ぎのように
魚雷ロボットがついて来ているかどうかは確かめない。ついて来ているに決まっている。
二度めに同じ息継ぎをするときに確かめてみると、まだついて来ていた。
「しつこい!」と思ってまた潜る。
暗い海のなかで、ひときわ暗く、大きく沈んでいるものが、行く手を阻んでいる。
この大きさ、黒さ、そして全体がどうなっているかわからない得体の知れなさ。
これこそ神様の居場所だ。
もういちど、同じ息継ぎをする。このときにはもう魚雷はついて来ていなかった。
でも、油断したところを、どん、とやられることもある。相手は魚雷戦の名手の子孫なのだから、油断しないほうがいい。
そこで、少し水に潜って、鼻をつまんで上をうかがってみた。
たしかに、ついて来ていない。
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