第47話 昔の物語(11)

 案内されたのは、その食堂の一角にある「用具室」と書いた部屋だった。店員さんが休憩時間に使う部屋だという。外はさっきの駐車場に面していて、カーテンが二重に掛かっていた。

 とても寝られないと思った。

 でも、制服のまま横になり、カーテンを二重に閉じ、浅野さんにタオルケットを掛けてもらって、目を閉じてじっとしていると、眠ってしまったらしい。

 眠って、夢を見た。

 みちるの前に、高くまげを結った老人が座っている。

 その前に、お風呂かしのタッチパネルのようなパネルがあった。パネルは、右半分が青、左半分が赤の色がついている。

 テレビのバラエティー番組の司会者のような人の声が重なる。何を言っているのかはわからない。老人は、落ち着きなく、右を見たり左を見たりときょろきょろしている。

 その司会者の声がひときわ大きくなり、はっきりと聴きとれた。

 「さあ、どっち?」

 それにこたえるように、声が。

 「だれかあいつを追いかけろ! 捕まえて、足でも手でもたたき折ってしまえーっ!」

 久本ひさもと更志郎こうしろうの声だ。

 そのとたんに、ブーッ、と、耳ざわりなブザーが鳴る。

 目のまえのパネルの色が、赤と青半々から、まっ赤に変わった。

 司会者の声が重なる。

 「はい。相良さがら讃州さんしゅうは、悪人と決まりましたぁ!」

 老人が慌てている。立ち上がる。杖を振り上げて醜い声で叫ぶ。

 「おまえーっ! なんということをーっ!」

 老人はそのまま、手足を大きく開いて、背中から穴の中に落ちて行った。

 穴の中は深い闇だ。

 このひと、戻ってくるのはたいへんそうだな、と思う。

 目がさめる。

 外から漏れる光の様子はさっきとあまり変わりがない。

 みちるは大きく息をついた。

 引き戸を開けて、店員の浅野あさのさんが顔を見せた。

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