第22話 海の上の道(1)
さっき座っていたところから少し高いところに上がり、
「ここからしばらくおしゃべりなしね」
出る前に咲恵が小声で注意した。
「たぶんだいじょうぶだと思うけど、岬の上まではあいつらが来てるかもしれないから」
「じゃ、この道に先回りされるってことは?」
みちるが心配してきく。
「ない」
咲恵の答えはかんたんだった。
「岬のこっち側に下りる道って、浜の人だって知らないし、もちろん町の人も知らないから。この道があるのを知ってるのは、たぶんわたしだけ」
どうして咲恵さんはそんなに詳しいんだろうとみちるは思った。でも口には出さなかった。
咲恵は歩き出した。
出口の外側は大きな岩の割れ目のなかだった。下のほうには潮が溜まって、何か白い生きものが見える。それが咲恵の言ったイソギンチャクか何かなんだろう。もしかすると
割れ目の急な斜面に、足場になるところがいくつかあって、咲恵の下りたとおりに下りていくと、あんがいかんたんに割れ目の中ほどに出ることができた。
下から見上げると、割れ目の上のほうにさっきの場所への入り口があるようには見えない。
咲恵が歩き出したので、みちるもついていった。
ときどきさっきのエビを平たくしたような虫が岩づたいに逃げて行く。
たしかに見つかりにくい道だと思う。横にも上にも岩が張りだしていて、どこからも見通せない。それに、こんな岩の裏側の道なのに、あまり歩きにくくない。角ばった岩はなく、
途中で上から来た道と合流するところがあった。これがさっき咲恵の言っていた「岬のこっちに下りる道」なのだろう。
そこからは道はまた下りになる。そして、森のようなところに入って、道は終わった。
「さ、ここからちょっと行くよ。
咲恵が小声で言う。みちるは軽く頷いた。
さっきの岩の上よりもここのほうがいやだった。みちるは、水着のままなのはあたりまえとして、裸足なのだ。砂とは違う、湿っぽい土が足にまとわりつき、草の根っこを踏んだひやっとする感覚が伝わってくる。もしかするとミミズとかアリとかを踏んでいるかも知れない。
でも、やっぱり、いじめっ子どもよりもミミズやアリのほうがましだと思って、みちるはがまんした。
少し行くと、浜と林の境ぎりぎりのところに建物が建っていた。プレハブというのだろう。工事現場なんかでよく見る感じの家だ。二階建てらしい。
壁はもともとグリーンだったらしいが、色が抜けて白っぽくなり、しかもところどころ
一階のまんなかの開きっぱなしになっていた戸から入り、咲恵は右手を右に開いて、
「どうぞ」
とでも言うように得意そうにした。
みちるは建物に入った。
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