第18話 再会(8)

 五度めに岩の陰で荒い息をし、ようやく落ち着いたとき、咲恵さきえは言った。

 「さ、次で目的地なんだけど」

 「あ……うん、はい」

 あいかわらず足は着かない。手と足で水を掻きながらみちるは答える。

 「ちょっと怖いところだけど、いい? いや、ほんとは怖いことは何もないんだけど、暗い場所だからね」

 「あ、はい」

 「あんたの嫌いな海鼠なまことか、海胆うにとか、イソギンチャクとかいるかも知れないよ」

 「はい……」

 まだ激しく肩で息をしながら、みちるは答える。その答えだけではあっけないように思う。

 「あっちでわたしをいじめようとしてる生徒たちより、そのほうがまだましです」

 「いい答えだ」

 咲恵は言って、柔らかく笑った。

 咲恵だって泳ぎながら言っているのだろう。でも、息も切れていないし、何より、体が水面から上下していない。みちるはというと、顎のところまで水に浸かったり、胸の上のほうが水から出たりを繰り返しているのに。

 「あ、でも、イソギンチャクを踏んだりしちゃだめだよ。それとフジツボも気をつけて。手とか足とか切るから」

 「フジツボって?」

 「そこらへんでいっぱい糸みたいな足出して揺れてたでしょ? あれ。殻が固いから」

 「ああ」

 みちるはまだよくわかっていない。

 「ま、そんなに気にしないで。まっ暗でもないし、危ないところはわたしが言う。じゃ、行くよ!」

 咲恵が一気に言った。みちるはそれに答えて息を吸いこむ。咲恵がみちるの体を抱いて水の下に沈み、水のなかを駆けるように進む。

 右肩の後ろから腰のあたりまでぴったりとくっついている咲恵の体は柔らかかった。その柔らかい体でどうしてこんな速さが出るのだろうと思うとふしぎだ。

 右側に砂が溜まって山のようになっているところが見えた。咲恵はそこで少し深くまで潜る。それから少し行ったところで、咲恵は右へ曲がって、岩の下へと突進した。

 光が遮られ、まわりが急に暗くなる。上だけでなく、左右両側にも岩が迫ってくる。後ろからの明かりだけが自分たちを照らしている。

 怖いけれど、幻想的だ。

 その後ろからの光も弱まったところで、咲恵はみちるを抱いたまま上に上がった。

 水から顔を出す。みちるが息をする。そのみちるの頭を咲恵が押さえつけた。

 「潜って!」

 と同時に、みちるの体はすすっと水に吸いこまれていく。急に何メートルも下に落ちた感じだ。落ちるのが止まる。止まったのは一瞬で、こんどはすごい勢いで押し上げられた。顔が水から出る。

 ビルのエレベーターなんかよりずっと激しい乱暴な上がり下がりだ。ジェットコースターみたいだ。

 「つかまって!」

 反射的に咲恵にしがみつく。咲恵はみちるの体をぐいっと引っぱり上げた。

 水がみちるの足の下からすうっとなくなっていく。

 足の指が濡れた岩角についた。

 どうやら海鼠やイソギンチャクを踏んではいないようだ。

 体がぐんと重くなる。みちるは両手で咲恵の太い腕にしがみついていた。咲恵もみちるの手をつかんで引っぱり上げてくれる。それに合わせて、足を動かした。

 何回か岩の角を踏んで、みちるは、やっと平坦な場所に出た。

 ふうっと咲恵が息をつく。

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