第14話 再会(4)
その日は家まではなんとか泣かずに帰った。そして、家に着いてからは、泣きつづけた。
日が暮れて、ご飯を食べなきゃと思うけれど、どうしても食べられなかった。
なぜいじめられるのだろう?
それは、たぶん、自分が転校生だからだ。
「転校生のくせに、生意気だ」
と思われることを、何かしたに違いない。
問題は、それが何なのか、いくら考えてもわからないということだった。
自分はこの村に溶けこんだつもりになっていた。村には外からは見てもわからないしきたりがあったりする。だから受け入れてもらえないかもとは思っていた。
でも、ここに引っ越してきた翌日、
しかし、いまになって思う。
そのとき、自分はうわべしか知らなかったのだ。
この日はいつもより早く、九時半にお母さんが帰ってきた。そして、自分の娘が夕ご飯を食べていないのに驚いた。
「どうしたの、みちる! 具合でも悪いの?」
気づいて部屋までやって来たお母さんに、みちるは、笑顔をつくった。
「いや、ちょっと、学校でいやなことがあって」
「何でもいいから、体温を測りなさい」
言われて、体温計を渡される。泣きつづけてくたびれた体の体温は平熱で、いつもより少し低いくらいだった。
「何なのよ、 元気じゃないの。何をめそめそしてるのよ」
「だから、学校で、いやなことが……」
「学校なんだからいやなことの一つや二つはあるでしょう? みちるはお母さんの娘なのよ! さあ、さっさとご飯を食べて、お風呂に入ったら、早く寝てしまいなさい! くよくよしてるときには、まず寝るのがかんじんよ!」
そうして、お母さんとの気まずい晩ご飯が始まった。
「いやなこと」と言わずに、「いじめられている」と言えば、もしかするとよかったのかも知れない。
いや、そんなことはない。
お母さんの理屈はいつもかんたんだ。
みちるはお母さんの娘だ。
お母さんはどんな
だから、みちるもどんな辛いことにも耐えられる強い子のはずだ。
そうじゃないのだ。学校で女子バスケットボール部を率いて県大会優勝まで導いた主将という経歴を持つお母さんとは、みちるは違うのだ。
「お母さんなんか……お母さんなんか……」
と言いながらほんとうに涙で枕を濡らして寝て、起きたときには、もうお母さんはいなかった。励ましの書き置きぐらい、もしかするとあるかも知れないと思ったけれども、もちろんそんなものはない。
いじめられているとわかった以上、自分で自分を守りながら、なぜいじめられることになったのかを探るしかない。
朝から水の入ったものを飲まないようにして、トイレにはなるたけ行かないようにし、自分の机から離れないようにした。席を離れるときには持ちものはかばんにしまい、かばんは鍵のかかるロッカーに入れた。
いじめっ子たちはそれが気に入らなかったのか、みちるのロッカーに乱暴してロッカーの扉を変形させた。
でもこれは逆効果だった。みちるの力ではどうやっても鉄の扉を変形させることはできないからだ。先生は、みちるがやったのではなく、ほかのだれか、たぶん力の強い男子がやったのだと納得してくれた。これでみちるは少しだけ有利になった。
それでも、昼ご飯の時にお茶をもらえないとか、化学実験で班のみんなに相手にされないとか、そんなことは続いた。みちるは何も言わずにがまんした。水分は取らないと決めていたので、お茶をもらえないことは何でもなかった。上履きの底にびっしりと画鋲を打ちこまれ、それに気づかずに廊下で滑って転んだこともあったけれど、斜めに転んで変な手の着きかたもしなかったせいか、けがもしなかった。あれ以来、実害というとそれだけだ。
房子も夏弥子も話をしてくれない。ほかの子もだ。学級委員の、あのおとなしい
そんななかで、あの
やっぱりこの子は、一つのことに熱中するタイプで、「世のなか」で起こっていることにはあまり関心を持たないらしい。
だから更志郎に相談してみようかと考えた。いろいろと親切に教えてくれた更志郎のことだから、もしかすると、だれが主犯で、何が原因かも教えてくれるかも知れない。
でも更志郎は男子だ。男子にいきなり個人的な悩みを持ちかけるのは気が引けた。だから、みちるは、更志郎に相談するのを「最後の手段」にすることにして、更志郎が笑いかけてくれても、自分も微笑を返すだけにした。それでも、そのときだけは、自分が笑えることが確かめられて、気分がいくらか楽になった。
先生に相談するということも考えた。だが、先生に話すとそれが逆にいじめを
そして、よく晴れた暑い日、海での水泳の授業があった。
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