第8話 海辺の少女(8)
海辺の村での生活は心配していたより順調に始まった。
毎朝、七時四十分頃に家を出る。
房子は書道部、夏弥子はバレー部だ。夏弥子は、週に二回、部活のために早く学校に行くらしい。逆にだれかが寝坊して遅れることもあったから、毎日三人いっしょにというわけにもいかなかった。でも、どちらにも会えないということはなかった。
あの
自分がコンテストで入賞したときの新聞記事をわざわざ持って来て見せてくれた。小学校五年生に入賞したときの「天才少年出現」というタイトルの記事は、きれいに黒い紙に裏打ちした上にパウチをかけてあって、たいせつにしているのがわかった。
その後も、六年生、中学校一年生のときの記事があり、また、コンテスト以外で取材を受けたときの記事も見せてくれた。
更志郎はコンテストのやり方も熱心に教えてくれた。
よくあるロボットコンテストと違って、ロボットの「ハードウェア」の設計は主催者のほうが決める。参加者はロボットの構造にはいっさい手出しできない。それを、ある目的に合わせて、最初から最後まで自動で効率よく動かすためのプログラムを組むのがコンテストの内容だという。
去年は、四本脚で、車輪で移動することもできるロボットで、高さ十メートルの鉄塔の上を検査するという課題だったという。ねじがきちんと締められているか、鉄塔の上面の色は正しく塗られているか、鉄塔の脚の鉄骨の強度は十分かなどを、できるだけ効率よく調べる。ロボットにはこの作業には使わない機能がついていたり、別の目的で使うことになっている機能を上手に活かさないと達成できない目標が組みこまれていたりと、いろいろと「罠」が仕掛けてあるという。
「こういうのはさ、遠い惑星を探査したり、広い災害現場で救助作業をしたりするのに役立つんだよ」
あのピンク色より紅色の頬で更志郎は熱心に話した。
今年度の課題のロボットというのも見せてくれた。
「これ、実物だよ。参加に応募して予備審査にパスするともらえるんだ」
という説明つきで。
それは、長さが三十センチより少し大きいぐらいの、ラグビーのボールのような、大きな魚のようなかたちをした銀色の機械だった。前のほうにガラスの小さいレンズのようなものがついている。後ろにはスクリューと舵があり、前のほうの横側にはヒレのようなものもついている。
「そんなだいじなもの、学校に持って来てるの?」
「うん。理科室とかプールとか使わせてもらって実験してるんだ」
天才少年ならばそういうこともさせてもらえるらしい。
「これで何をするの?」
みちるはきいてみた。
「暗い水路でもの探しをするんだ」
更志郎は嬉しそうに説明する。
「十メートル×十メートルのプールに迷路みたいな水路が組んであって、五十センチの深さの水が張ってある。そこに、黄色と、緑色と、赤と、青、赤と青は濃いのと薄いのと二種類。そういう立方体が落ちていたり浮いていたりするんだ。暗い場所なんだけど、そんな場所でも、濃い赤とか、濃い青とかを見分けられないといけない。その場所を調べて、データを記録して持って帰る。ロボットの速さは秒速三メートルまでの範囲で調整できるけど、どんなに長くても百メートル走れば電池が切れるようになってるから、それまでにミッションを終えられるかどうかが勝負なんだ」
そして、みちるが訊きもしないのに、
「どうやるかは考えてるけど、それはまだ秘密」
と嬉しそうに話していた。
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