第4話 海辺の少女(4)
学校の場所は、昨日、ここに来たとき、タクシーのなかから見て知っていた。タクシーの運転手さんがおしゃべりな人で、お母さんが
「この子、
と言ったら、わざわざその場所を教えてくれたのだ。
「ここですよ」
そう言われて、水滴で曇ったタクシーの窓を拭いて見た学校は、うっとうしい雨雲の下、灰色の校舎が運動場の向こうに無言で並んでいるだけの場所だった。さえない。不吉な感じさえした。こんな学校に通うのかと思うと気分が
今日はもう少し気分よく行けそうだ。
晴れた朝だ。いや、こんなに
見知らぬ場所と言っても、自分と同じぐらいの年代の子がいっぱい通う場所だ。小学校の最初にやったように、また友だちを作り直せばいい。
これまで通っていた小学校や中学校では、みちるは転校生を迎える側だった。今度は転校生として自分が学校に入っていく。経験のないことじゃない。立場が変わるだけだ。
海岸はずっと岩場で、海岸の岩場と陸地の岩場のあいだに無理にコンクリートを流しこんで作ったように護岸ができている。みちるが
向かい側の切り立った岬と、こちら側の岬のあいだの奥まったところに砂浜がある。幅はどれくらいだろう。いままで通っていた学校の校庭の広いほうの幅くらいもないのではないか。だとすれば、百メートルもない。湾の奥についた小さい砂浜だ。
砂浜の向こう側は漁港になっている。堤防が高くて漁港のなかは見えない。まだ梅雨のいまの時期、砂浜で泳いでいる人はいない。
ここでまた咲恵に会えるかと思ったけれど、その姿はなかった。みちるはゆっくりと歩いてきた。咲恵は先に来てさっさと海から上がってしまったに違いない。
日の光を浴びると村はまっ白に見える。コンクリートの護岸に、コンクリートの防波堤、村の舗装もほとんどコンクリートだ。急な坂に家が貼りつくように並ぶ。ところどころには小さい畑もある。
みちるはそのあいだを曲がりながら縫うようについたコンクリートの道を上がって行く。段になったり、急な坂になったりする。教えてもらったわけではないが、この道が砂浜に下りるのにいちばんの近道のようだ。
村の人たちに会った。小学校に行く子たちが何人も集まってじゃれながら歩いて行くのにも会った。
いままで住んでいた団地の街と違って、ここは村だ。会う人ごとにあいさつしなければいけないかと思った。でも、相手の村の人もこちらと目を合わせもしなければ、気にしているようにも見えない。みちるは黙って通り過ぎた。
村のいちばん大きい道に出る。いちばん大きい道と言っても、自動車がやっと一台通れるぐらいだ。
ここを左に行くと村の奥のほうに行くとみちるの新しい家がある。昨日の引っ越しでは、引っ越し業者さんに引っ越し荷物運びを小さいトラックにしてもらって、それ二台で荷物を運びこんだ。そうでないとトラックが入らないのだ。
学校に行くには、右に曲がらなければいけない。家とは反対側だ。
この道もコンクリートの舗装だ。左右はコンクリートブロックの塀が多くて、家は二階建てだったり、平家だったりする。まっ白で、やっぱり朝というより昼間らしく感じる。ここの村は都会とは時間の進みかたが違うらしい。
海が家の陰に隠れて見えないところまで行くと、道はようやくアスファルト舗装になり、道幅もさっきまでより少し広くなる。それでもまだ大きい車がすれ違えるほどではない。
左側には竹藪と林が迫り、右側は斜面になっている。その斜面の下には細い川が流れている。小さい川の向こう側は緑の山だ。この山はこちら側より高く、さっきみちるがいた岬の向かい側の岬へと続いて、海へと張り出している。
竹
日射しは暑い。制服の下は汗で湿ってきたけれど、調子よく歩くと風が心地いい。
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