第18話 新たな仲間
ぼくらは食事を終えてそれぞれ寛ぐ。
粥は食べないクレーブが何かの肉を一人で食べた。粥だけでは食べ足りなさそうな姉ちゃんが器を未練がましく見つめている。ぼくは気が付かないふりをした。
そこへナマズのような姿の偉そうなのがやってくる。
その脇には桶を抱えた悲し気な顔をしたカエルがいて、その後ろではジロー王子がなんともいえないような表情をしていた。
ナマズが口上を述べる。
長々とした挨拶を省くと要は、子供が卵からふ化せず困っている母カエルを助けてやって欲しいとのことだった。
「かの高名なヤマダ様のご子息であれば、見事に救ってくださること間違いありません」
ナマズは言葉は丁寧だったが、なんか妙にいやらしい感じがする。
ぼくは仲間と相談したいと申し出た。
部屋の隅で額を寄せ合う。
「シュート、あれ、お前を試してるんだと思うぞ」
「なーんか、やれるもんならやってみろって顔してる気がする」
「タイドがきにくわんな」
三者三様で言葉をのべる。だけどおおむね意見は一致していた。
離れたところにいるジロー王子は、すまなそうにしているようにも見えるし、何かを期待しているようにも見える。
「それで、シュート。お前が魔術師というのは分かってるが、病を治すのもできるのか?」
「やったことがないから分からないや」
「そうか。あいつ、シュートが失敗したら、偽物だなって難くせつけてくる予感がする」
マールズ。冷静な分析ありがとう。だけど、自信がないのにプレッシャーだよ。
「シュート、おまえならできる」
クレーブは肩を叩いて励ましてくれた。
「がんばれ秀斗。ちゃんと成功させてね。お礼の食事が楽しみ」
最後に欲望が漏れ過ぎだよ姉ちゃん。
いつまでぐずぐずしているのかとの圧力を受けて、ぼくはナマズのところに戻った。とりあえず卵を見せてもらう。
ソフトボールを一回り大きくしたような大きさで黒くてぷるぷるしていた。
「タピオカみたい」
姉ちゃん目を輝かせないでよ。これ食べられないから。
見せてもらったのはいいものの、ぼくはカエルの病気なんて分からない。
さて、どうしよう。
さっきのナマズのセリフやジロー王子の様子から、どうやら父さんが同じような難題をクリアしたことは想像できた。父さんにも医学の心得はない。
ということはつまり、解決策はアレということ以外考えられなかった。
まあ、シンプルといえばシンプルなダジャレだよな。定番という意味では今まで使ったものに負けずとも劣らない。
ぼくはワンドを取り出して構えた。
母カエルがじっとぼくを見つめている。それほど子供が心配なんだな。
<カエルがかえる>
卵の表面がぱちんとはじけると中からオタマジャクシが顔を見せた。
手を触れて安堵の涙を流す母カエル、驚きの表情を浮かべるナマズ、我が事のように胸を張るジロー王子。
対するぼくらの仲間の様子はというと、マールズは興奮して凄いを連発し、クレーブはぼくの頭を撫でまわす。
そして、姉ちゃんは目にうっすらと涙を浮かべていた。鬼の目に涙。いえ、なんでもありません。
ナマズの態度が先ほどまでとはうって変わって恭しいものに変わった。
「試すような真似をして申し訳ありません。シュート様はまさにあのお方のご子息に間違いないでしょう。それでは、女王様のところにご案内いたします。まずはお召し替えを」
用意された衣装に着替える。着っぱなしだった服はだいぶ汚れていた。確かに偉い人の前に出るにはちょっとみっともない。
謁見の間でクァリロン女王に挨拶をする。
二メートルぐらいの大きさのカエルの姿をしていた。紫色の衣装を身につけていて威厳がある。
「これは確かにヤマダ殿にそっくりじゃ。お父上は息災か?」
「はい。元気です」
「そうかえ。それで、シュート殿はどうしてこの場所に?」
ぼくは事情を説明した。
話を聞き終わった女王は左右にたずねるが、みんな首を左右に振る。
「残念じゃが、ここに居る者ではそなたの役に立てぬようじゃ。やはり、一度ジャレーの町を訪ねた方がよいかもしれぬ。とりあえず、旅の疲れがいえるまでゆっくり過ごすがよい」
家への帰り方が分からないことに落胆した。まあ、最初の目的地では用が足りないというのは物語でも良くある話だしね。カンザスに住んでいるドロシーって女の子も同じような目にあってたし。
とりあえず、クレーブのお母さんを頼るという次の目標があって良かった。
気を取り直していると、ジロー王子が進み出て女王に呼びかける。
「母上、お願いがあります。シュート殿をジャレーまで私が送っていきたいと存じますが」
「ジロー。そなたは王子なのですよ。控えなさい」
「私はヤマダ様に大恩があります。それに星読みが申すには、世界を再び暗雲が覆い隠そうとしているとのこと。きっとシュート殿が現れたのと何か関係があるに違いありません。危害を加えようという者もいるはず。今こそ日頃鍛えた我が剣の腕を振るうときと存じます」
「確かにそなたの剣の腕は確かじゃ。しかし……」
「我らが生きておられるのもヤマダ様のお蔭とは母上も常に言われているではありませんか」
最終的に女王も折れ、ぼくをジロー王子が護衛してくれることになった。なんと畏れ多いことだろう。
謁見が終わった後もジロー王子はぼくらの部屋までついてきて改めて挨拶をする。
「これからは一剣士ジローとしてよろしく頼む」
最初は恐縮していたマールズも次第に打ち解けた。しかも、今までの活躍に対してと称して、金品や新しい弓までジローから手に入れている。
「この先の旅を考えると、やっぱり弓があると落ち着くぜ」
「マールズ。そのう……、まだついて来てくれるの?」
「あったりめえじゃん。まだ家に帰る方法も分かってないのに見捨てられるわけないだろ。そんなことをしたらロージーが二度と口をきいてくれなくなっちまう」
十分に代価は得たはずのマールズだったが、きっぱりと言い切った。
「ありがとう!」
ぼくはお礼を言いながらマールズの手を両手で握る。
マールズは照れたような顔をしながら、空いた手で頬をかいた。
「それにオレっちはまだシュートからはお礼もらってねえしな」
せっかくの感動シーンなのに……。照れ隠しなのか、こっちが本音なのか。
「シュートはマールズと仲がいいのだな」
ジローが聞いた。
「まあ、……友達ですから」
「そうだぜ。オレっちとシュートは友達さ」
「そうか。私もシュートに友達と呼んでもらえるように努力しよう」
重々しく宣言をしたジローは腕輪を取り出しながら、クレーブの方を見る。
「ジャレーに向かうのであれば、彼はそのままの姿では無い方がいいだろう。ヒトはサーベルキャットを我々以上に恐れているからね」
取り出した腕輪は変化の腕輪というらしい。姿を変えるだけでなく、言葉も通じるようになるという優れモノだった。
最初は難色を示したクレーブも自由につけ外しができるということを聞いて納得する。
クレーブが前脚を腕輪に近づけると直径が大きくなった。その中に脚を通したとたんにネコの姿が消え、金髪の少年が立っている。
大きめの八重歯が目立つ以外は普通の小学校高学年の子供と変わらない。均整がとれて運動が得意そうな体つきではあるけども。
部屋の外に出ると欄干にもたれかかりながらクレーブは池に自分の姿を映して文句を言った。
「なんだ。随分と軟弱な感じだな」
「力とかは元と変わらないはずですが」
ジローが説明するが納得がいかないようだ。
「ちょっと勝手が違うから、試してみないと……。レーセ!」
呼びかけられた姉ちゃんは、おう、と元気よく返事をする。
ぼくは慌てて二人を止めた。
「屋内は迷惑だからやめなよ。そうだ、あそこなら開けているし、いいんじゃないかな」
橋を渡った向こうにある石畳の広場を指し示す。
姉ちゃんとクレーブはだだっと走っていき、石畳の上でボカスカ戦い始めた。
残された二人と近くに行き眺めるとどうやら姉ちゃんが優勢らしい。やはり姿が変わったせいでクレーブは本領発揮できていないようだった。
黙って観戦していたジローもやおら腰の剣を外す。それをぼくの手に押し付けると姉ちゃんに挑んでいった。
マールズが何かの串焼きを手にしながら呆れた声を出す。
「王子っていうから上品かと思ったのに、なんか騒々しいのが増えちまったな」
確かに賑やかかも。
「いいねえ。かかってこい」
石畳の上で仁王立ちした姉ちゃんが叫んだ。実に嬉しそうに顔が輝いている。よく分からないけど楽しそうで良かった。姉ちゃんはこちらでの生活を満喫している。実は家に帰れなくてもいいんじゃないか?
三つ巴で始まった戦いに、人が集まり始める。
やっぱり止めた方がいいのかな? でも、ぼくがあそこに入っていくのは無理だよなあ。姉ちゃん怒りそうだし。
ふと気づくと後ろにクァリロン女王が居た。
「あれだけ元気なのが三人もいれば、この先の旅でもシュート殿も安心じゃな」
なんと返事したらいいか助けを求めようとすると、マールズの姿は消えている。
「ええ。そうですね」
当たり障りのない返事を返した。
やれやれ。
ぼくの旅はまだ始まったばかりらしい。ちゃんと家に帰れるかなあ。父さん、母さんはどうしているだろうか?
頼もしい仲間が増えたのは喜ばしいはずなのだけど、この先の旅のことを考えて、ぼくはそっと心の中でため息を漏らすのだった。
***
公募に出す都合上一旦ここで一区切りです。
続きは諸々の都合によります。
ご了承ください。
ぼくが大魔法使いの息子って嘘だよね? 新巻へもん @shakesama
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