第5話 魔王よりヤバい奴が現れたらさ、普通総攻撃で倒すよね
大陸中央部ゴルド帝国帝都
「転移魔方陣に反応あり!勇者ジィル帰還します!」
場所は帝都中央に聳え立つ王城の地下。そこには勇者専用の魔方陣が敷かれており、帝国の八人しかいない勇者であればいつでもそこに転移魔法で帰還することができた。
帝国には八人の勇者一人ひとりに専用の転移魔方陣があり、今回は帝国の勇者ジィルの魔方陣が反応。魔方陣は怪しい紫色の光を放ち、転移魔法が作動したことを示していた。
「む?ジィルか。もう帰還するのか?ずいぶん早いな。一昨日、魔王討伐の任に出たばかりじゃろ。ふーむ、流石は帝国が誇る勇者。もう魔王を打ち取ったか」
白髪の老人…おそらくここの責任者であろう、その老人の魔術師がそのようなことを口にすれば、周囲にいた助手たちも歓喜の表情を浮かべて色めき立つ。
勇者の帰還。それは人類の宿願でもある魔族討伐の証。帝国の勇者がようやく、その悲願を達成し、地上から魔族を消滅させることができたのだろう。
その知らせに興奮し、喜び、中には涙をこぼすものもいた。
やがて魔方陣の光は収斂し、ひときわ大きな輝きを放つと、まるで何事もなかったかのように光は消滅した。その代わり、魔方陣の上に一人、男が立っていた。
帝国の勇者だけが着ることができる白いコート。その男が勇者なのは間違いない。間違いないのだが、様子がおかしかった。
出国した時は綺麗な白色だった勇者の正装が、今はかなり酷く汚れている。よほど激しい戦闘だったことはその汚い服装を見れば一目瞭然だった。
問題は、勇者ジィルの表情。とても最後の魔王を打ち取ったとは思えないほど、苦痛に歪んでいる。とても魔王を倒したものとは思えない、痛みに満ちた顔つきだった。
「ほ、報告がある…」
とても人類最高峰の実力を持つ勇者とは思えない、弱々しい声をなんとか必死に搾り出す。よほど酷い目に遭ったのか、口を開くたびに口内より鮮血が散った。
「魔王の討伐、失敗。至急、…あつ…めろ」
「勇者さま!」」
「馬鹿者!早く治癒魔法をしろ!」
「は、ハイ!」
老人に叱咤され、助手の魔術師が勇者に近寄る。よほど怪我が酷いのか、近寄った魔術師に倒れるようにして体を預け、「すまぬ、不覚を取った」
「あなたほどのお方が、なんて惨い。おのれ魔王、許すまじ!」
「魔王、ではない…」
「え?」
「人間にやられた。ミカエル殿に伝えてくれ。あれは全員でかからないと、ヤバい」
治癒魔法をかけられて怪我が治りつつのか、だんだんとその表情は安らいでいった。
「化け物のような強さの人間が魔王側についた。今すぐ手を打たないと、百年前の再来になる。一刻も早く、全勇者を招集して、敵を討て!」
そこまで言い切ると、意識が途切れてしまったのか、ふっと力を抜いて勇者ジィルは倒れた。
生きてはいる。しかしとても無事とは言えない。
あの帝国でもミカエルに次いで強いと謳われる勇者ジィルをここまで追い詰める者の存在。そんな強者が魔王側についた、そのあまりにも悲惨な事実にその現場にいた人間たちは恐怖したという。
百年前の魔族による支配。今や当時を知るものはほとんどいない。しかしそのあまりにも悪辣で残酷、非道な振る舞いは文献を通して後世に語り継がれていた。
「い、いやだ!」
「魔族に支配されたこの世の終わりだ!」
「逃げないと!早く逃げなきゃ、殺される!」」
「うろたえるな愚か者ども!」
恐怖に支配され始めた空気を、白髪の老魔術師が叱咤して鎮める。
「あの時と今は違う!我々には勇者様がおる!たとえ一人で勝てずとも、帝国の勇者全員で奇襲をかければどれほど強大な敵であろうと恐れるに足らんわ!」
「そ、そうだよ。俺たちには勇者様がいるんだ!」
「勇者様がいれば魔王の一人や二人、瞬殺だよ!」
「勇者様、人類をお救いださい!」
そう、百年前の時とは違う。今の時代には勇者がいる。今度こそ人類を守らなければならない。
「もう二度と、人類の生存を脅かされてたまるものか!我々の双肩に人類の未来がかかっておる!お前たち、今こそ人類の真価を悪に見せつけるぞ!」
勇者ジィルの帰還より数時間後。帝都に残り七人の勇者が集う。彼らは魔王と、そして新たに魔族に組した謎の人物を討伐するべく、決死の覚悟で戦の準備を始めるのであった。
もう二度と人類を蹂躙させない。その強い覚悟を胸に秘め、勇者たちの戦いが始まろうとしていた。
勇者で最強だけどパーティを追放されました。 カワサキ萌 @kawasakimoe
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