第115話 カムビ族と、目的




「予想はしていたけど、本当にあのガラスの中を超えて、別の大陸から来たんだね」

「その通りよ」


フローレンスは背筋を正し、真っ直ぐな瞳で答えた。

その受け答えはまるで王族のような凛々しさと清廉さを感じた。


ただ、受け答えを終えると、放胆に手づかみで料理を口に運ぶ姿は幼い少女のようで、私は思わず笑みを浮かべる。



「それよりさ、フローは何でそんな話し方してるんだ??」


ターラは食べる手を止めずに、フローレンスを見た。



「な、何を言っている。私はいつでもこうではないか!!」

「いや、違うだろ。どっちかと言えば、今豪胆に食べてるお前が本物だろ。これがあれか、猫を被るというやつか?」

「ターラ、貴様うるさいぞ!!」



ガラスの世界で出会ったであろターラとフローレンスは、言葉は通じるようだ。

私の傍に居るイーラとラーラは、二人の言葉が分からないらしく、不思議そうな顔をしている。



しばらくしてお腹が落ち着いたターラは、そのまま仰向けに倒れ込み、膨れたお腹を摩り出す。

そんなターラに対して、イーラが近寄り頭に拳骨を落とした。



ゴンっ



「痛ってぇー、何すんだよ姉ちゃん!!」

「何すんだよじゃないでしょ。あなたマリー様にお礼を言ってないでしょう?」

「マリー•••様??」


ターラはそう呟きながら、私の顔を凝視してきた。



「ま、まさか、あなたがマリー様!?お、俺、

ターラです。弟子にして下さい!!」



ゴンっ



再びイーラの拳骨がとんだ。



「まず、助けてもらったお礼でしょ?」

「ふ、ふぁい。この度は、助けていただいてありがとうございました」


拳骨にやられたターラは泣きべそをかきながら頭を下げてくる。



「次は、あなたですよ」

「私もか!?」

「今、私もか、って顔しましたよね、当たり前です!!」

「ぐっ、仕方ない。あのガラスの中をどうやって進んできたか分からないが、ひとまずは礼を言わせてもらう」



イーラの圧に負けたのか、フローレンスは軽く頭を下げながらお礼を言ってくる。

フローレンスはこちらの話している言語は分かっているようだが、まだ話すこと自体はできないらしい。



「2人とも無事でよかったよ」

「初めて会った俺に無事でよかったなんて、これは、俺を弟子にしてくれるということですね!?」

「それは違う」

「がーーーーん」


ターラの言葉に、私はきっちりと否定する。

弟子なんて取るつもりはない。面倒臭いし。

けど、ターラは人間の世界で暮らしたいんだよね?



「弟子は駄目だけど、私の住んでる街に来て働いてみない??」

「マリー様の街に•••、2人で•••、つまり結婚!?」



ドガッ


拳骨ではなく、イーラの右ストレートがターラの顔面を殴打した。



「イーラも一緒にどう??ちょうど、マリーランドと教会の警備をする人を探してたんだ。お給料はもちろん、住むとことろも用意するよ」

「わ、私も良いのですか??」

「うん。ターラの躾役も必要そうだしね」

「わ、私でよければ、喜んで引き受けさせていただきます!!」



イーラは余程嬉しかったのか、右ストレートを食らって倒れ込んでいるターラの脚を掴むと、引きずりながらラーラの傍に駆け寄り、「私もラーラと一緒の街に行けるよー」と笑顔で話していた。



後は、フローレンスだ。

ガラスの世界がどれ位の距離で続いているか分からない。


それに、私1人でガラスの世界を渡り切れるかも分からない状況で、フローレンスを連れて帰るのは難しい。


フローレンスがこの大陸に来ようとした目的も分からないし、しばらくはシヴィアに面倒を見てもらうのがいいか•••。



「私もターラと一緒に連れて行って欲しい」


悩んでいたことが顔に出ていたのか、フローレンスは自分も連れて行って欲しいとお願いしてきた。



「分かっている。私のことが信用できないんであろう。だが、私もこの大陸のことが知りたいのだ」

「う〜ん。なら、あなたのことについて、少し質問していいかな?

「構わない」


フローレンスはその場に正座をし、衣服を正した。



「あなたを最初に助けた時、最初はドラゴンの鱗のような肌をしていたんだけど、今は普通の肌だよね?それはあなたの種族の特性なの?」

「そうだ。ヴェランデゥリング大陸は激しい気候変動に見舞われている。50度の気温だと思えば、次の日は氷点下、その次の日は嵐になったりと、それは酷い環境だ」



フローレンスはそこまで答えると、イーラが持って来ていた生ビールを一口飲む。



「美味しい•••。私の国ではこんな美味しいお酒はない。私達は厳しい環境の中で生き抜くため、その都度、皮膚が変化する。それが私、カムビ族の特性だ。

ガラスの中では身を守るため、ドラゴンの固い鱗を纏った」



お酒に関してはこっちの大陸にもないよ、と言うのはいったん飲み込み、私は続けて質問した。



「危険を冒してまで、この大陸に来た理由は?」

「•••。ひとつは、興味があった。もし恵まれた環境で住む生物がいるなら見てみたいと•••。もうひとつは•••」


フローレンスは言うのを躊躇い、恥ずかしそうに下を向いた。



「け、けっこん•••」

「??もうちょっと大きな声でお願い」

「だから、ヴェランデゥリング王国の王女として、結婚相手を探しに来たのよーーー!!」




フローレンスの声が火口にある白龍の里の中にこだました。




フローレンスの話では、ヴェランデゥリング王国といっても実際に東大陸に国は1つしかなく、地下で身を隠すように暮らしているそうだ。

王女といっても特別な暮らしをしている訳ではなく、他の種族と同じように畑を耕したり、家屋を修繕したりしているらしい。



ただ、王女の特別な任務として、有能な種族との結婚があるそうで、種族の数が減少している今、外部との接触を図ろうとしたのがガラスの世界を渡った目的だった。



「ガラスが止んだので、これは神様の思し召しだと思って移動を開始したの。なのに、ガラスが急に降って来るから慌てて避難したのよ。そこでターラと出会ったの」



この大陸には私を入れて神様が3人いるのは今は黙っておこう。


話を終えた所で、害意はないと判断した私は、フローレンスもガーネットの街に連れて行くことにした。



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