第114話 謎の少女と、別の大陸
「ま、マリー様。これは一体?」
ドラゴンの鱗のようだった皮膚が、目の前で白く透き通った肌に変わった。
『分からない•••。とりあえず回復するね』
私は両手を二人に翳し、最上級の回復魔法グラン•メガヒールを唱えた。
二人共意識は戻らないが、苦しんでいた表情は和らぎ、呼吸も安定した。
「落ち着きましたね」
『うん。今のうちに戻ろうか』
私は悪神の力を封印すると、ラーラと二人に触れ『転移スキル』で白龍の里に戻った。
白龍の里に転移すると、私に気づいたシヴィアとイーラ、ナーラ、サーラが直ぐに駆け寄ってきた。
「ターラ!!」
駆け寄ってきたイーラは直ぐに弟のターラに気づき、そのまま横たわっているターラに抱きついた。
「大丈夫だよ。気を失ってるだけだから」
「ターラ、よかった、本当によかった。マリー様、マリー様、何と、何とお礼を言えば良いか」
初めて会った時とは別人のようにイーラは私を憧憬の目で見つめてくる。
「お礼はラーラの女王就任を祝ってあげて」
「はい!!私、イーラは、ラーラの女王就任を心から祝いたいと思います!!」
ターラの無事を確認し、興奮気味のイーラはラーラの手を握り「おめでとう」と笑顔で言って、そのまま抱きしめた。
ラーラは「やめなさい」と困惑しながらも、笑顔を浮かべている。
「してマリー、こやつはなんじゃ??」
「私にも分からないんだよね。ターラと一緒にいたんだけど」
「見た目から人族なのかの??」
シヴィアの問いかけに、私は首を左右に振って答えた。
「マリー様。何やら、我が一族に近い匂いが微かにします」
ナーラとサーラが横たわっている少女に鼻がくっ付きそうになる程顔を寄せて匂いを嗅いでいた。
「やっぱり??不思議なんだけど、助けた時は皮膚がドラゴンの鱗みたいになってたんだよね」
「それは何とも摩訶不思議ですね」
長寿のドラゴン族でも、彼女の正体は検討もつかないようだった。
だとすると、ガラスの向こうから来た人なのかもしれない。
「何はともあれ、無事戻ったのだからマリー、例のものを」
気づけば、いつの間にかシヴィアの後ろに人型の白龍が大勢待機して、目を潤ませて私を見ている。
「はいはい」
私はターラと少女を少し離れた場所に移動させると、白龍の里の真ん中にビールタンク2つと、ジョッキを沢山出した。
「こ、これは、何でしゅか!?」
ターラに付き添っていたイーラがビールタンクを見た途端、猛スピードでこちらに走ってきた。
「生ビールだよ」
弟は目を覚ましていないけど、今日まで気を張っていたんだから、お酒をあげてもいいかな?
私はジョッキにビールを注ぐと、イーラに渡してあげた。
イーラはジョッキに注がれた金色に輝く液体の匂いを嗅ぐと、酒と分かったのか一気に喉に流し込む。
「く、く、くぅぅぅぅーーー」
「うまぁーーーーーーい!!」
イーラの蕩けそうな顔を見ていたシヴィア達白龍勢が一斉に押し寄せ、瞬時に宴会へと発展した。
事前に作ってきた料理も並べ、みんなのテンションが一気に上がる。
「これじゃ、これじゃ、これじゃーー!!」
「やっぱりビールは最高ーーーーーー!!」
「唐揚げにポテト、ビールと合うーー!!」
辺りに香る良い匂いと、騒々しい声が響く中、私の耳に聞きなれない言葉が届いた。
人間の時からスキルで耳はよかったが、今は悪神だからか喧騒の中でも様々な音が澄んだ状態で聞こえる。
【●▷-◇◇◇$-●◯】
声が聞こえる方を向くと、そこにはガラスの中で助けた少女が上半身起こした状態でこちらを見て、何かを訴えるように話していた。
私はゆっくりと歩きながら少女に近づくと、ラーラ達が日本の漫画を読むときに使用した『翻訳スキル』を発動する。
「体は大丈夫?痛いところはない?」
「え、ええ。大丈夫よ。あなたが助けてくれたの?」
「まあね」
「あのガラスの中をどうやって助けたの!?」
ぐぅぅぅぅぅぅーーー
そこまで話した少女のお腹は、大きな音を鳴らした。
無理もないよね。
何日も食べてないだろうし、目の前で宴会をしてたらね。
私は『アイテム収納』から宴会メニューの鳥の唐揚げやフライドポテト、ハンバーグにすき焼き、トンカツと、一応、さっぱりした卵粥も出した。
「お腹空いてるでしょ?食べていいよ」
「毒かもしれない物を食べる訳にはいかない」
ぐぅぅぅぅぅぅーーー
「食べないの?」
「くっ」
むくり
その時、何かに取り憑かれたようにターラが起き上がり、一気に目の前に出されている料理を食べ出した。
「う、うまい、うまい!!久しぶりのご飯、しかも、何だこのご飯は。この世のものとは思えないほどうまい!!」
「ターラーー、目を覚ましたのか!!」
「悪い姉ちゃん、抱きしめたいんだけど、食べる手が止められないんだ」
目覚めたターラに駆け寄ったイーラだったが、ターラは久々のご飯に手が止められずにいた。
ぐぅぅぅぅぅぅーーー
「くぅ、ターラ、それ以上食べないで。私の分が無くなるわ」
黙ってはいたが、初めから涎を垂らしていた謎の少女は、ターラが食べている姿を見て毒じゃないと確信したのか、ただ単に我慢の限界だったのかは分からないが、勢いよく食べ出した。
「な、なんだ、こ、これは。美味し過ぎるわ!!」
綺麗な顔立ちに腰まで伸びた青色の髪、どこか清楚な生い立ちを感じさせる少女は、ただ黙々と食べ進める。
「こ、これが、こちらの大陸の味•••」
少女の何気ない一言で、ガラスの向こう側、別の大陸から来た人だと確信した。
「食べながらでいいんだけど、あなた名前は?私はマリー•アントワネット」
少女は食べる手を止め、右手をお腹の辺りに置いた。
「私はヴェランデゥリング王国のフローレンス•リリー•ヴェランデゥリング」
ヴェランデゥリング王国??
私も大陸にある全ての王国をしっている訳ではないため、念のため、隣にいるイーラに聞いてみたが「聞いたことないです」と回答された。
「私を助けたのが本当にマリーであるならば気づいているかも知れないが、私はこことは違う大陸から来たのよ」
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