第113話 ガラスの世界




悪神の力を解放すると、一気に黒と金色の神気が放たれ、私の体を包み込んだ。

『認識阻害スキル』は力の解放と同時に解除され、金色の髪と、右目が青色、左目が赤色のオッドアイが現れる。


髪の色やオッドアイの色はその都度変化するが、その理由は私には分からない。



空中に浮きながらガラスが吹き荒れる大地を覗き込むと、そこには果てしない地底が広がっていた。

恐らく、地底1キロ程はあるのではないだろうか。



私は右手を吹き荒れるガラスの中に差し出した。

悪神の障壁によって音速以上で突き刺してくるガラスを弾いてはいるが、大きなガラスの塊が降ってきた場合は障壁が破られる可能性を感じた。



この中を、例えドラゴンといえ入り込むことは可能なのだろうか。


『探知スキル』では反応がなかったガラスの向こう側だったが、悪神の力を解放したと同時に反応が現れたのだ。


ガラスの向こう側、約30キロ程進んだ先に。



しかも、反応は2つ•••。





『マリー、何かあったの!?』




考え込む私の頭の中に、神様シンの声が響いた。

これは神同士が使えるテレパシーのようなもので、『ペアリングスキル』よりも有効範囲が広く、恐らくガラスの中でも使用可能だ。



『大丈夫だよ』

『そう。ならいいのだけど。悪神様の力を解放したようだから気になって』

『うん。ちょっと訳あって大陸の外れに来てるんだ』

『大陸の外れに!?』


大陸の外れと聞いて、どこかシンの声が慌てていた。


『それで、今何が見えてるの!?』

『ガラス、かな•••』

『ガラス•••、なら東の外れなのね。よかったわ』

『方角で環境が変わってるの??』

『そうよ。とりあえず、北の外れに行く時は私に知らせて』

『う、うん。分かった』



東西南北で環境が変わる。

東はガラスが吹き荒れる環境、私から見ればこれだけでもかなりのものだけど、北は更に厳しい環境なのだろうか。



『それで少し聞きたいんだけどさ』

『どうしたのかしら?』

『このガラスが吹き荒れる中を、この世界に住む生物が進むことはできるの?』

『マリーや私、所謂、神以外には不可能よ』

『だよね•••』



何の知識のない私でも、この中を普通の存在が進むのが不可能なことはなんとなく分かっていた。

大体はガラスに打たれて終わりだろうが、例えそれを防げても、ガラスは地底で激しく打ちつけられ、ガラスの粒子となって宙を舞うはずだから、酸素があっても呼吸しただけで死ぬはずだ。



『もしかしたら•••』

『何か分かったの??』

『アセルピシアの影響かもしれないわ』

『えっ!!あいつがまたいるの!?』

『違うわよ。アセルピシアは様々な星で現れているんだけど、現れた時には必ずその星で起こっている異常な環境が一時的に収まるのよ』

『ということは•••』

『そうね。アセルピシアが現れた前後3日はガラスは止んでいたはずだから、その時に入り込んだのかもしれないわ』



シンの話では、常に日本の台風の1,000倍を超える暴風が吹き荒れている星にアセルピシアが現れた時も、その暴風は収まったらしい。


今回もその隙にこのガラスの大地を進み、運良く横穴か何かに避難している、そういう可能性ならあるということだ。



『なら、とにかく中に進んでみるよ』

『大丈夫だと思うけど、気をつけるのよ』

『うん。分かったよ』



シンとの会話を終えると、空中に浮かんだまま吹き荒れるガラスの中へと進んだ。




ビギンッ

ビギンッ

ビギンッ

ビギンッ




悪神の障壁にガラスが常に当たるため、弾く音が響き渡る。

視界は吹き荒れるガラスの所為で1メートル先も見えない。


悪神の目に神気を込めることで視界は晴れたが、やはりドラゴンや人間がこの中を進むのは難しいと、あらためて判断できた。



私は速度を上げて飛び続けると、反応が2つあった上空まで来た。


迷うことなく高度を落とし、地底へと入っていった。

地上から離れる程、光は届かず薄暗くなり、ガラスが打つかる音だけが響いた。



約1キロ潜った所で反応の近くに来たが、どうやら予想よりも地底は深いらしい。

まだ底が見えなかった。



反応があった場所を探すと、2つの、人間の体をした姿を発見した。


なぜ底に辿り着く前に2人がいたかというと、地底は段々とした形で、約1キロの所で少しだけ平面があり、そこからまた地底へと穴が延びていたのだ。


2人は平面部分におり、奇跡的に側面の窪み部分にいたことからガラスに打たれずに済んでいた。


辛うじて息はあるようだったが、今にも息絶えそうに苦しんでいる。

ガラスの酸素を吸っていれば、苦しいのは当たり前なのだが、そうすると、2人とも人間ではないのかもしれない。


1人はラーラやイーラの雰囲気に似ているため、恐らく探していたターラだと分かる。



もう1人は見た目は普通の20歳位の女性だが、よく見ると皮膚がドラゴンの鱗のようになっていた。



この人もドラゴン??



判断はつかなかったが、とりあえず私は2人に触れると『転移スキル』を使用してラーラの元まで戻った。


悪神の力を解放しているからか、『転移スキル』は磁場が乱れたあの環境でも問題なく発動し、転移した先には一人で待っていたラーラがいた。



「マリー様。ご無事でしたか」

『うん。大丈夫。ちょっと待ってね。この2人を回復するから』



回復しようと2人に手を翳した時、ターラではない方、一緒に救ってきた女性の肌が先程とは変わっているのに気づいた。




ドラゴンの鱗のようだった皮膚が、今は白く透き通った人間の肌になっていたのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る