第112話 大陸の外れ
「あなたはまだ、私と戦うには早いみたいだね」
呆然と私を見つめるイーラに言った。
悪神となった私は、普段、その力を封印している。
なら、今のこの状況は封印を解除して攻撃を弾き返したのかと言うと、そういう訳ではない。
力を封印していても、特定以上の力をもたない人が私に攻撃をしかけてきた場合、自動で弾き返される。
悪神の障壁みたいなものかな?
「くっ」
イーラは悔しそうな表情をするが、直ぐに私に向かってくる。
私が人間(元)で弱く、なのにラーラ達の主人なのが許せないんだよね?
ここは悪神の力を解放し、その力の差を見せつけた方がいいのかな?
私がそう考えている間に、イーラは大きく地面を蹴り上げ空中に飛び、弧を描きながら向かってきていた。
そのまま攻撃を仕掛けてくると思ったのだが、弧を描きながら私の目の前で膝から着地をした。
所謂、土下座の状態だ。
あれ?
ど、どしたの?
「お願いします。弟を、弟を助けて下さい!!」
「えっ??」
この状況だと私がイーラの弟を攫って、返して下さいって、懇願されているみたいじゃない。
私は慌ててラーラ、ナーラ、サーラを見るが、3人ともあからさまに動揺し、首を左右に振る。
「あ、あの〜、弟って??」
「はい。私の弟、ターラのことを助けていただきたいのです」
「因みに聞きたいんだけど、あなたはイーラで、ラーラの女王就任を反対してるんだよね?」
「違います!!いいえ、名前はイーラで合っていますが、ラーラの女王就任に反対はしていません。いいえ、反対していると噂すればラーラがあなた様を連れて来ると思ったのです」
「あ、そうですか•••」
「はい!!」
いや〜、すっごく真っ直ぐで純粋な子だよ。
少しおかしいけど。
「それで、嘘吐いてまで私を呼んだ理由が弟さんなの??」
「はい!!先程対峙して確信したあなた様の力が必要なのです。どうか、大地の外れに行った弟を助けて下さい」
大地の外れ•••
それはきっと、この大陸の端を指しているのだと思う。
神様シンに聞いた話には、大陸の端に海はなく、何かが広がっている。
そしてその先には他の生物が住んでいるという話だった。
「イーラの弟は、どうして大陸の外れに行ったの?」
「はい!!方向音痴だからです!!」
「はい??」
イーラは土下座の状態から上半身を起こすと、ラーラ達を見つめる。
「弟のターラは、ラーラ、ナーラ、サーラが人族と楽しく暮らしていると聞いて、人族の生活に憧れを持っていました」
「そう、だったのか•••」
「そうなんだよラーラ。ターラはお前達に憧れてな、人族の里を目指したんだが、どうやら方向を間違え、大陸の外れに行ってしまったようなんだ」
詳しく話を聞くと、ターラは1週間程前に人族の里を目指して旅出したのだが、イーラが同族同士の位置確認でターラの居場所を確認すると大陸の外れに向かっていたらしい。
大陸の外れは磁場の乱れのようなものがあるらしく、その後、位置確認が出来なくなったということだった。
「大陸の外れには決して近付くなと、ドラゴン族の間では言われています。何があるのかは分かりませんが、ターラのことが心配で•••」
「そういうことか」
ラーラ達はイーラに近づき、肩を抱きながら励ましていた。
久々の再会がこんな悲しいなんて、切ないよね。
大陸の外れには何れ行こうと思っていたし、弟君を探しに行こうかな。
「じゃあー、私が探してくるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「うん」
「何とお礼を言っていいのか•••」
「お礼はまだ早いよ。それと、行くのは私とラーラだけ」
「わ、私も!!」
「ダメ!!」
「し、しかし•••」
私は首を左右に振り、なおも食い下がるイーラの口に自分の人差し指を当てる。
そして、人差し指から少しだけ魔力を流し込んだ。
「す、凄い力•••。これでは、確かに足手纏いになるだけだ•••」
「私に任せて。それと、ラーラも近くまで行けば同族の場所が分かるからもしれないから来てもらうけど、きっと最後は私一人で行くことになると思うから」
「か、畏まりました」
私達が話していると、白龍の女王シヴィアが近づいてきた。
「マリー、すまぬな。イーラからは妾も頼まれたのじゃが、余りにも危険過ぎるため、引き受けられんかった」
「気にしないで。私自身、大陸の外れに興味があったし」
「そうか。よろしく頼む」
「無事帰ってきたら、みんなにビールを奢るよ」
「おぉぉぉぉーー。皆のもの、皆のもの」
シヴィアの目が輝き、部下達にビールが飲めることを嬉しそうに伝えている。
私とラーラは、みんなに別れを告げると、ドラゴン化したラーラの背中に乗り出発した。
私自身飛べるんだけど、ラーラが寂しがったため、背中に乗ることにした。
ただし、時間が惜しいため、ラーラに私の神気を少しだけ付与した。
今までとは比にならない速度で進んでいると、次々と街や山や森を通り過ぎていく。
そして1時間ほど進んだ所で、大陸の端が見えてきた。
厳密に言えば、あそこが大陸の端だろうと、そう思える景色が見えてきたのだ。
飛んでいるラーラの背中の上から見た光景。
信じられなかった。
大陸の端を境に空は黒に近い灰色で覆われ、その空からは何かが激しく降り注ぎ、時より光の反射によって青く光っている。
空から降っている何かは、想像もできない速さで降り注いでいる。
恐らく、あまりの速さにラーラにははっきりとは見えていないと思う。
だが、私には何が降っているのか見える。
ガラス
ガラスが空から降ってきている
それも、音速を超える速度で
「ラーラはここにいて。ここから先は、息を吸うだけで私以外は死ぬ場所」
「•••はい」
私の本気の言葉に、ラーラは静かに頷いた。
ガラスが激しく降り、その粒子も大気中にある以上、息を吸えば肺がガラスに侵され、必ず死ぬ。
私は念のため、ラーラに『結界スキル』をかけた。
私はラーラを離れた山の麓に着陸させると、自分で飛行し、大陸の端、大陸の外れまで来た。
5メートル程前には、ガラスが激しく降り荒れ、けたたましい音を立てて地面に衝突している。
空から左右を確認するが、見渡す限り大陸の外は全てガラスが降り注いでいた。
私は『探知スキル』を使うが、やはりここが特殊な場所なのか、それとも降り荒れるガラスの中に誰もいないのか、どちらかは分からないが反応はなかった。
ラーラの同族探知も、結局反応しなかったし、さて、これは悪神様の力を解放するしかないかな。
私は宙に浮かんだまま、静かに悪神の力を解放させた。
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