第99話 強襲と、大魔王の威圧発動
〈ラムズデール王国•エルネニー〉
フシアナとの話し合いを終えた私は、『転移スキル』でエルネニーの街の領主邸に戻った。
しかし、何か様子が変だ。
領主邸からは人の気配がせず、外から逃げ回っているような足音、悲鳴が聞こえてくる。
私は直ぐに『探知スキル』と『判別スキル』を使うと、街の中に魔物の反応を確認した。
かなり数が多い。1,000匹程いるかもしれない。
『判別スキル』で表示される情報に《ラムズデール王国•騎士(盗賊)》という3人の反応があった。
何で王国の騎士がいるのか、(盗賊)の意味は分からないが、私は直ぐに領主邸を出て街に向かった。
そこには魔物から逃げ惑う人々と、それを助けるラーラ、ナーラ、サーラの姿があった。
ラーラ達は逃げ惑う人々を庇いながら戦っているため、かなりやりづらそうにしている。
それでも素早く縦横無尽に動き、誰一人怪我をした人はいなそうだ。
『キャーーーー!!』
中央広場から女性の悲鳴が聞こえた。
この声は、エミールさん?
私は中央広場に高速で移動すると、そこにはリースさんとエミールさん、二人を守るアリサの姿と、王国騎士(盗賊)の一人が剣を抜いた状態で立っていた。
王国騎士(盗賊)の剣からは血が滴り、アリサの右手首が地面に転がっていた。
「まったく、女同士でけがわらしい。お前もこいつの側室か何かか!?俺が男の良さを教えてや•••」
王宮騎士(盗賊)が最後まで話終わる前に、首が落ちた。
私が瞬時に移動し、右手を一閃したからだ。
「マリー嬢!!」
「マリー様!!」
「ま、マリー•••」
最後に私を呼んだアリサは、右手を切られて大量に出血しているためか、意識がはっきりしていない。
私は何もかも破壊したくなるような怒りを抑えながら、アリサに話しかけた。
「もう、大丈夫だから。二人を守ってくれてありがとう」
「ま、間に合って、よかった•••」
アリサは目から涙を流しながら意識を失った。
アリサは元D級の冒険者ということもあり、ラーラ達と一緒に警護を頼んでいた。
全て私の責任だ•••
私は俯いたまま、詠唱を始める。
シン•アントワネットの名の元に、癒しの精霊達を、我、マリー•アントワネットに力を与えよ。
グラン•メガヒール
私は回復系最上の魔法を唱えると、アリサの右手首は綺麗に再生した。
それから、3人に『結界スキル』を発動する。
「この中にいて下さい」
「ま、•••」
リースさんとエミールさんが話しかけられない程、私の顔は怒りの形相になっている。
体からは黒いオーラが溢れ出し、辺りに地響きが起こっていた。
それでも私は、信じられないくらい冷静だった。
神経が研ぎ澄まされ、あらゆる音、匂い、感情、色々な情報が入ってくる。
私は特に多くの情報が入ってくる場所に『探知スキル』と『判別スキル』を使った。
エルネニーの街から約5キロ離れた場所に1万人程の王国騎士(盗賊)がいた。
『盗聴スキル』を使っていないのに、不思議とそいつらの会話が聞こえてくる。
================
『今頃、あの街は地獄でしょうね?』
『魔物に襲われて漏らしてるだろうさ』
『『『はっはっはっはっはっ』』』
『お前達、そろそろ準備をしておけよ』
『はい、ヘロニモ様』
『あのけがわらしい女を攫ってきた後は、好きにしていいからな』
『『『さすが、ヘロニモ様ーーー』』』
『けがわらしいリースには、目が覚めるまで私がじっくり虐げてやろう』
『それにしも女同士とは、けがわらしい』
================
『マリちゃんはさ、好きな人いるの?』
『も、もしもだけどさ、わ、私がマリちゃんのことを•••』
『私がマリちゃんのことを、す、す』
『ううん。何でもない』
自然とクラスメイトだった名前を思い出せない彼女の言葉を思い出す。
彼女は、私からの冷たい反応、哀れみ、色々なことを恐れながら、勇気を出して話そうとしてくれていたのかもしれない。
彼女の話を、聞いてあげたかった。
気持ちに応えられなくても、抱きしめてあげたかった。
あなたが誰を好きになっても、誰かを不幸にする訳じゃない。
誰かを不幸にするのは、あなたを虐げる人の方。
もし、会えたら、伝えてあげよう。
ゾワッ
【大魔王の威圧】が発動した。
辺りは先程と比べ物にならない強い地響きと、何かにしがみ付いていなければ吹き飛ばされそうな暴風が巻き起こる。
私は静かに上空に浮き上がった。
空を飛べる魔法がある訳じゃない。
ただ、今は不思議と浮かび上がることができた。
その圧倒的な威圧に、街に放たれた魔物は人間を襲う事を止め、怯えながら上空にいる私を見ている。
怯えているのは魔物だけではなく、ラーラ、ナーラ、サーラも私の威圧に耐えられず、両膝を地面に着いて体を震わせていた。
【下賤な魔物ども、選ばせてやろうぞ】
私のこれまでにない低い、世界を滅亡させるような声が響く。
魔物達は震え上がり、既に戦意は消失している。
【お前達の主人の元に戻り、その場で自害するか•••】
私は悪魔の笑みを浮かべる。
【この場で、長い時間苦しみながら死ぬか】
私は腰を抜かしている王国騎士(盗賊)の2人を睨む。
指をパチンと鳴らすと、王国騎士(盗賊)の体の中を何かが蠢き、右太腿が大きく膨れ上がると、それはお腹、胸、顔、頭、そしてまた足と動き続けている。
「「ぐぅぁぁあーー、あぁぁぁぁ」」
王国騎士(盗賊)の二人は、何かが蠢く度に苦悶の表情を浮かべて、断末魔を上げる。
死ぬことも、気絶も許されず、ただ体の中を鋭利な刃物で刺されてるような恐ろしい痛みを感じ続けるのだ。
【さぁ、選ぶがよいぞ】
私の言葉に、魔物達は一斉に街から走り出し、5キロ先にいるヘロニモと王国騎士(盗賊)の元に向かった。
〈エルネニー周辺•ヘロニモ〉
「さぁ、そろそろだ。お前達、楽しめよ」
ヘロニモが自分に酔いながら言った時、エルネニーの街から激しい砂埃がこちらに向かって来るのが目に入った。
「んっ?リースを攫いに行った兵士が戻ってきたのか?」
しかし、それにしては砂埃が横に100メートル程広がっている。
攫いに行かせた兵は3人だったはず•••。
「へ、ヘロニモ様。魔物がこちらに向かって来ます!!」
「な、なんだと!!」
エルネニーに向かわせた魔物は俺が使役している。絶対に命令に逆らうはずがない。
では、野良の魔物か?
いや、違う。
魔物の大群が自分の目で確認できる位置まで来た時、それは自分が使役した魔物だと分かった。
襲って来るというのか?
しかし、使役した魔物の群れは、こちらに辿り着くと止まった。
襲って来る様子はない。
「へ、ヘロニモ様。これは•••」
「魔物への指示が悪かったのかもしれん。なに、今すぐ使役し直せば•••」
「なっ、、•••」
私の目の前では、魔物が自分の喉元を自分で切りつける光景が広がっていた。
自害していく魔物が次々とその場に倒れ、遂には全ての魔物が自害した。
私の使役では、魔物に自害を求めるなど、そんな指示は出せない。
こ、これはどういうことなんだ•••。
「へ、ヘロニモ様。あ、あれを•••」
「な、なんだと•••」
私の視界の先には、上空に佇む3体の赤龍と、中央の赤龍の上で立っている少女が映った。
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