第100話 キラキラネーム
私が見下ろす先には、大量の魔物の死体と、ラムズデール王国の騎士(盗賊)が約1万人、それと諸悪の根源、ヘロニモがいた。
【貴様がヘロニモだな】
ヘロニモは明らかに怯え、声が出せずにいる。
「き、貴様、何者だ•••」
ヘロニモの側近は声を上げるが、その声に力はない。
私というよりは、ラーラ達がドラゴン化した赤龍に怯えているのだろう。
「や、や、やれ。あいつらを殺せ•••」
「し、しかし•••」
「散々甘い蜜を吸ってきたんだ、今くらい騎士として私を守れ•••」
「あ、相手は、ど、ドラゴンですよ•••」
「む、無理だ•••」
ヘロニモの要求に応じて行動する盗賊はいなかった。
【騎士だと。盗賊の間違いであろう】
「な、なんだと。我々ラムズデール王国の誇り高き騎士団に向かって」
【誇り、ねぇ。もうよいわ。サーラ】
『畏まりました』
サーラはドラゴンのまま盗賊団に突っ込み、ヘロニモを口に咥えて元の位置まで戻った。
「な、何をする。私はアルビオルの領主、ヘロニモ•アルビオルだぞ。国王より権力を持っているのだぞ」
【なーに、お前は私が忘れていた大切な事を思い出させてくれた。その礼に良いものを見せてやろうと思ってな】
「お、お礼?」
僅かにヘロニモの口元が笑みに変わる。
この絶望的状況の中、一縷の希望を勝手に見出したようだ。
【そう、礼だ。お前の魔物以下の所業で思い出せたのだからな】
瞬時にヘロニモの顔が真っ青になった。
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考えてみれば、プライベートでも遊ぼうと思えばいくらでも機会はあった。
クラスメイトの彼女は、いつも笑顔で優しく、誰からも好かれている子だった。
だから私も人として彼女が好きだったし、プライベートで遊ぼうと誘ったこともあった。
ただ、彼女が遠慮し、実現することはなかった。
今思えば、彼女は優しすぎたのかもしれない。
色々、一人で我慢していたのかもしれない。
どうしてそんな彼女の名前を憶えていなかったのか•••。
それは、彼女がキラキラネームだったからだ。
平凡な名前の私からすれば、キラキラネームは何か別の意味だと認識され、名前とは認識されていなかった。
ただ、ようやく思い出せたよ。
優しいクラスメイトの名前を。
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私は右手の人差し指を前に出すと、指先に身体中の魔力を集中させる。
私の魔力によって大気は震え、地面には亀裂が入り、暴風が巻き起こる。
「に、逃げろーーー」
「死にたくない、死にたくない」
盗賊達は散り散りに必死に逃げ出す。
「わ、私を置いてくなーー!!」
ドラゴンに咥えられたヘロニモが叫ぶが、振り返る者は誰もいない。
【逃げても無駄だ。お前への礼だ、ゆっくり見るがいい】
私はヘロニモを睨む。
ヘロニモは恐怖から下半身を濡らしていた。
私は右手の人差し指に溜めた魔力を落とす。
それは線香花火の最後のように静かに落ちていく。
【我が友の名と共に、焼き尽くせ】
珠瑛流(じゅえる)
私の指から落ちた光の雫が地面に触れた。
轟音と共に直径1キロの範囲にドーム型の炎が巻き起こり、辺りは火口にいるような灼熱に包まれる。
灼熱の中にいる盗賊達の体はゆっくりと溶けながら、惨痛な表情でヘロニモを見ながら跡形も無くなっていく。
「な、な、な、•••」
ヘロニモは目の前の惨状に歯をガタガタと震わせていた。
【ラーラ、ナーラ、サーラ、行くぞ】
「「「畏まりました」」」
私はある場所に向けて、移動を開始した。
〈ラムズデール王国•首都ラムズデール〉
ラムズデール王国の国王、ロビン•ブル•ラムズデールは、城内の最上階にある特別室で心の底から安堵していた。
エルネニーに派遣していた偵察隊から、魔物殲滅の知らせが届いたのだ。
短い文面であったため、詳細は分からないが、『ヘロニモの脅威は去る』とも書いてあった。
続報がないことがやや気にはなるが•••。
「ふ〜」
私は特別室に作られた王専用の椅子に腰を下ろした。
隣には妃と王女が心配そうにこちらを向いている。
「あなた、これも神のご加護ですね」
「お父様のこれまでの苦労が報われたのですわ」
「あぁ、そうだな」
私はもう一度深く息を吐くと、待機している執事に酒をもってくるよう指示した。
これで今夜はゆっくり眠れるだろう。
私はゆっくり目を閉じて、これまでの自分の苦労を労った。
しかし、次の瞬間、激しい爆発音と共に埃が巻き上がり、目の前にあった城の壁や窓が崩れ、外の景色が広がった。
この最上階にある特別室は、街を一望でき、大げさだが私は天空に近い場所と自負している。
だが、今私の目の前には、そんな景色は一切無く、空中に浮かぶ赤龍3体と、赤龍に立っている少女が1人だけが見えた。
〈首都ラムズデール•マリー〉
私は『探知スキル』『判別スキル』を使い、国王がいるラムズデール城の最上階部分を魔法で薙ぎ払った。
中には悠々と玉座に座る国王と、その隣に妃と王女、周りに護衛と思われる騎士がいた。
私はサーラに指示を出し、ヘロニモを国王の前に投げ捨てさせた。
「ひ、ひ、ひぃぃ」
ヘロニモは這いつくばりながら、部屋の外に通じる扉に向かった。
【アタミ(極小)】
私の人差し指から鋭い閃光が放たれ、ヘロニモの左足を貫通する。
「ぐぁぁぁぁぁ」
【アタミ(極小)】
今度は右足を貫通する。
「あ、ぐぁぁぁぁ、ぁああー。こ、国王様。お、お助けを」
国王のロビンは今の状況に整理が追いつかず、私とヘロニモを交互に見ていた。
「は、早くあの者達をなんとかしなさい!!」
「他の騎士達を呼んで!!」
妃と王女は叫び散らすが、誰も動こうとはしない。
本能から動けないのだ。
【この街の民は痩せ細っているのう。それに比べ、お前の妻と娘はなんとふくよかなことか】
「な、なんと無礼な」
「早く殺しなさい」
【アタミ(極小)】
私の指先から放たれた閃光が、国王ロビンの右手首を吹き飛ばした。
「うごぁぁぁぁぁぁ」
「「ひぃぃぃぃっ」」
【躾がなっとらんな。喚き散らすな。妾は発言を許してない。あと、妾の友人がお前の所為で右手首を斬られたのでな。同じことをしてやったわ】
「ぐぅぅ、わしの悩みも知らずに好き勝手言いよって」
【悩むだけが国王ならば、誰にでも務まるな】
「た、戯け!!」
【立場が分かっておらんようだの】
私は上空を歩いて移動すると、王都の騎士団が待機している大きな建物の上に来た。
事前に『探知スキル』で調べたところ、約1,000人の騎士がいた場所だ。
『透視スキル』を使うと、こんな状況下でも誰一人自主的に動かず、酒を飲み、カードゲームに興じている。
城の一部を破壊した音は、王都中に響く大きさだったはずだが、呼ばれるまでは動く気はないのだろう。
珠瑛流(じゅえる)
線香花火のような光の雫が騎士団の待機所に落ち、建物はもちろん、騎士達も灼熱の炎に包まれ、跡形もなくなった。
私は上空を歩いてラーラの上まで戻ると、国王を先程までには見せなかった激しい憎悪の目を向け、大魔王の威圧を放つ。
「あ、あ、あ、•••」
国王ロビンは絶望に震え、もはやその場に立っていられる者は誰一人いなかった。
ヘロニモも目や下半身から流せるものは全て流しながら震えて私を見ている。
私は瞬時にヘロニモの上に移動すると、そのまま頭を踏みつけた。
ヘロニモの頭は破裂し、肉片や血飛沫が辺りに舞った。
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