第94話 思い出せない名前と、神盤




『マリちゃんはさ、好きな人いるの?』


『な、何さ、いきなり!!』


『で、どうなの。私はいるよ』


『えっ!!そうなんだ。う〜ん、少しだけど、ヒロのことは気になるかも•••』


『ヒロって、イソタニヒロユキのこと?』


『う、うん』


『マリちゃんはイソタニみたいなのがタイプなんだ』


『強いて言えばだよ』


『も、もしもだけどさ、わ、私がマリちゃんのことを•••』


『うん??』


『私がマリちゃんのことを、す、す』


『??』


『ううん。何でもない』





私は目を開く。


夢を見ていたようだ。

シンと話した後はよく前世の夢を見る。

けど、さっきまで見ていたのは夢でもあるけど、現実でもあった。



もしかしたらあの時、大事なことを話そうとしてくれてたのかな•••



私と彼女は友達というより、クラスメイトと言った方が正しいかもしれない

プライベートでは遊んだ記憶がないけど、クラスでは普通に話しをしていた



彼女は、クラスメイトとは少し違う気持ちを抱いていたのかな•••



話を聞いてあげればよかった•••

気持ちに応えられなかったかもしれないけど、気持ちを受け止めることはきっとできた•••



彼女はきっと、すごい悩んでいたんだろうな•••

その悩みを、少しだけ貰ってあげたかった•••



彼女の名前•••



おかしいな

名前が思い出せない



どうしてだろう



私は自分が思ってる以上に薄情者なんだな




マリー


マリー様




「マリー様」


私を呼ぶ声で意識を取り戻すと、ラーラの顔が目の前にあった。


「マリー様?大丈夫ですか?体が冷えますので、寝るのであれば寝室へ」

「だ、大丈夫」


私が体を起こそうとすると、背中に痛みが走った。

どうやら、朝の4時過ぎからみんなにご飯を作った後、そのまま床で眠ってしまったらしい。

隣にユキの姿はないため、既に起きたか、家の中に籠ってゆっくり寝ているのだろう。


アセルピシアのこと、今見た夢のことを思い出すと少し心が重くなった。

けど、私にはやらないといけないことがある。

今は、目の前のことを少しづつ進めていこう。



「みんなはどこに行ったの?」

「はい。アイリスとアイラはヒナを連れて自分の屋敷へ、アリサはお店へ、昨日来た•••、名前は忘れましたが女2人は街へ観光に行ってます」

「そっか、ありがとう。私はちょっと、自分の部屋でやることがあるから」

「畏まりました」



私は3階にある自分の部屋に戻ると、ベッドに腰掛け、ステータス画面を開く。


「ユキ、いるんでしょ?」

「•••」

「ユキ?」

「まだ眠いからパス」

「ぷぅー」


ユキは唯一、私以外でステータス画面を見ることができるため、手伝ってもらおうとしたが諦めて一人で作業を開始する。


ステータス画面からスキル項目を確認すると、以前発動したことがあるスキルが点灯していた。


1.『生化学スキル』

2.『培養スキル』

3.『細胞スキル』

4.『精製スキル』

5.『促進スキル』

6.『魔法創生スキル』


更に、使用したことがないスキル項目の中で、いくつかのスキルが点滅している。


7.『誓約スキル』

8.『魔法付与スキル』

9.『神器スキル』

10.『祝福スキル』

11.『愛念スキル』


私の頭にシンの声が響く。


『新たな生命誕生については、1〜5で生命源を作り、10で生命として誕生させ、9で保護する』


『ただ、誰でも自由にと言う訳にはいかないわ。だから、11で2人の愛念を確認し、7で誓約してもらう。誓約の中には1人に対し、1人までの生命誕生も盛り込んでいるわ』


『これらを6で魔法化し、今から渡す神盤に8で魔法を付与して完成よ』


シンの声が消えると、私の前に神盤が現れた。

私は言われた通りの順番にスキルを発動し、調整を行い、その神盤に魔法を付与する。


神盤は微かに光を放ち始めた。

その光は消えることなく、不思議と近くにいるだけで温かな気持ちになった。


神盤には2人が手を翳す場所があり、そこで生命を授ける者として相応しいか判定され、同時に誓約も施される。


この条件クリアすれば、女性でも男性でも1人まで子供を授かることができる。

ただ、1人までのため、子供を授かった後に離縁し、新たな伴侶を見つけた場合には子供を授かることはできない。

厳しい誓約ではあるが、その反面、1人であれば誰でも授かることができるため、異性同士の夫婦が不妊で悩んでいる場合にも効果があるのが優れている点だ。


けど、私の頭には疑問が浮かぶ。

男性の場合もお腹が膨らみ、10ヶ月後に出産するのだろうか?



『実際お腹は膨らまないし、神盤に触れて認められれば直ぐに子が目の前に現れるわ』



私の疑問にシンが頭の中で回答をくれる。


「いや、それって。この世界は分からないけど、いや一緒だと思うけど、地球では10ヶ月お腹にいてから生まれてくるんだよ?

それに、出産はそれはそれは痛みもあって大変だって言ってたし、ただ目の前にポンだとねー」


『なら、体感スキルもプラスするといいわ。そうすれば、実際は神盤に触れて直ぐの誕生でも、当事者には10ヶ月間の育む期間と、痛みに代わるそれ相応の体感ができるようになるわ』



痛みに代わるそれ相応•••



私は気になった言葉を華麗にスルーし、『体感スキル』を追加した。


これで神盤は完成した。

あとは、政治的な解決だ。



その日の夜、公務を終えたアイリスさんとアイラ、ヒナが私の家に戻ってくると、私は神盤の件を相談した。


アイリスさんは神盤に賛成してくれて、早速、メイズ国王、シャーロット王妃、メレディスさんに伝鳥を飛ばしてくれた。


この世界は、国家間での関係が希薄で、ある国がどんな政策をしようが基本無干渉らしい。

例え、ラミリア王国で神盤による生誕が行われ、自国の民がその恩恵に肖っても、自国に損害がない限り問題提起には至らないということらしい。


裏を返せば、友好条約みたいなものもないので、いつでも戦争が起こせる状態だ。



翌日、メイズ国王から伝鳥で返事があり、一度、王国に来て欲しいとのことだった。

流石に生命誕生に関わることのため、すんなりとは行かないかな、と私は少し不安を覚えた。




そんな私が馬鹿でした。




ラミリア王国の王宮に私とアイリスさん、ラーラ、ナーラ、サーラと向かったのだが、私達は何故か以前も使用したことがある王族専用の食堂に通された。



「して、マリー嬢。今日は何かな?」

メイズ国王の発言に、両隣に座っているシャーロットさん、メレディスさんは満面の笑みを浮かべている。


「何とは?用件のことですかね?それは、伝鳥でお伝えした通りですね、神盤を使った•••」

「それに関しては把握しておる。俄には信じられないが、本物の聖女ならば神の加護もあるじゃろうし、何せマリー嬢だしな。人知を超えた何かがあるのじゃろう」

「では?」

「問題ない。ガーネットにその神盤を設置することを許可する」

「あ、ありがとうございます」


私はお辞儀をしながらお礼を言う。

同時にお辞儀をしたアイリスさんと頭を下げた状態で顔を横に向けて目配せするが、アイリスさんも戸惑った表情をしていた。


「よいよい。頭を上げよ。それで、今日は?ほれ?今日のやつは?」

「今日のやつ?」

もう一度、シャーロットさんとメレディスさんを見ると、口を半開きにし、口元には涎が光る王族らしからぬ顔をしていた。



「もしかして、ご飯ですか?」

「当然じゃろう。グラタンも美味しかったが、何か新作があるのじゃろう?」



メレディスさんの光の速さによる調整力で、王都ラミリアの『マリーラ•グラタン』は既にオープンしていた。

それにしとも、王様自らお店までグラタンを食べに行ったのだろうか?

き、きっと、テイクアウトを始めたんだよね?


「では、こちらをどうぞ」


私は気を取り直して、先日新たに作った豚のしゃぶしゃぶ&胡麻ドレ、ミルフィーユカツ、すき焼きを並べた。

すき焼きだけはその場で調理し、甘ダレで焼いたお肉を卵の入った器に1枚1枚入れてあげた。



「「「お、お、美味しいぃぃぃ」」」



王族3人は大層満足しましたとさ。




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