第90話 魅惑の美容液と、2人の女性
「アイリスさん•••、大丈夫ですか?」
「え、えぇ、最近、私の知り合いからよく手紙がくるのだけれど、ちょっとねぇ•••」
アイリスさんは私に話すかどうか迷っているようだった。
「何かあれば力になりますよ」
「う〜ん。でも、きっと難しいと思うのよ。だからずっと断ってるの。今回の手紙もまだ宛名しか見てないけど、きっと同じ内容のはずだわ」
「そうなんですか。何か助けられればよかったんですけど•••」
私は山積みにされた手紙を見ながら呟くように言った。
正直、この量の手紙を毎日処理してもらっているのが心苦しくてしょうがない。
だからこそ、何か別のことでアイリスさんを助けたいのだ。
「エス、、、」
「エス?」
「SSK IIIって、他の人に譲るのはなしよね?」
「もしかして、SSK IIIが欲しいって言われて悩んでたんですか!?」
「実は、そうなの。きっと、相談されたらマリーちゃんが困ると思ってね」
山積みの手紙みも、今の悩みの種であるSSK IIIも、そもそも全部私の所為なのでは??
「その人だけなら別にあげてもいいですよ。秘密にしてもらえれば」
SSK IIIと言えば、某メーカーが開発した美容液であり、私がずっと憧れていたものだ。
どうやってSSK IIIのことを知ったかは分からないけど、その効果を知れば他の人が欲しがるのも無理はない。
ただ、私は『地球物品創生スキル』で買ったものをこの世界で直接販売しようとは考えていなかった。
その理由は単純に、販売したらメーカー様に申し訳ない気持ちになりそうだからだ。
「本当にいいの!?」
「アイリスさんの知り合いならいいですよ」
「よかったわー。少し前に会ったのだけれど、私の肌を見た彼女が絶対に何か秘密があるってしつこくて困ってたの」
「確かに、アイリスさんの肌プルプルですもんね」
「てへぺろ」
アイリスさんは毎日私の家でお風呂に入り、SSK IIIを使っている。
というか、自分の屋敷には用事がある時に戻って、基本私の家に泊まってるんだけどね。
「これで気兼ねなく返事が書けるわ。何々•••、えっ!?」
封書から便箋を出し、中身を読んでいたアイリスさんが驚き固まっている。
「ど、どうしました?」
「今日、というか、もう直ぐ私の屋敷に来るみたい•••」
「マジですか!?」
「マジよ」
アイリスさんはユキから色々な日本語?を教えてもらっているため、マジ、にも対応できる。
それよりも、直ぐに来るとは何とも急な話だ。
「手紙が届いてから数日経ってるとは言え、こちらの返事を待つ気など更々ないようだわ」
「よっぽど、SSK IIIが欲しいんですね」
「誰か来るよ」
今は幼児化していないユキの声が家の中に響く。
コン、コン
ドアをノックする音がした。
「女性が2人みたい」
「私が出ますね」
私はドアの前に来ると、静かにドアを開いた。
そこには薄いピンク色の髪と整った顔立ちの女性が2人いた。
2人とも髪色は同じ美人さんだが、大きく違うのは髪の長さと身長だ。
1人は頬くらいまでのショートカットで身長は165センチ位、もう1人は腰近くまで髪の長さがあるロングヘアーで身長は150センチ位に見える。
「どちら様でしょうか?」
「私はラムズデール王国•エルネニーの領主、リース•エルネニーと申します」
「私は、リースの友人のエミールと申します。突然の訪問、申し訳ありません」
「•••!!」
最初に名乗ったのがショートカットの女性でリースさん、次に名乗ったロングヘアーの女性がエミールさんというらしい。
ただ、エミールさんの挨拶の後、リースさんが少し苦虫を噛み砕いたような顔に一瞬なったのはなぜだろうか?
「リース、やっぱり来たのね」
私が挨拶する前にアイリスさんがドアまでやって来た。
「アイリスの屋敷に行って、ここにいると聞いたのでそのまま来た」
「まぁ、ここの方がちょうどいいわ」
「アイリス様、いつの間にこのような別邸を建てたのですか?」
「エミール、ここは私の家ではないのよ。ここにいるマリーちゃんのお家よ」
「そうだったのですね。急に訪ねてしまい、申し訳ありませんでした」
エミールさんは私に頭を下げて謝ってくる。
「全然、気にしないで下さい。どうぞ中に」
「恐れ入ります」
私が2人を家の中に招き入れると、初めてここを訪れた人は必ず行う探索を始める。
「いやはや、これは凄いな。見たことない物ばかりだ」
「す、素晴らしいですわ。なんて素敵なお屋敷なのでしょうか!!」
2人の会話を聞いていると、リースさんは少しボーイッシュで、エミールさんは生粋の乙女という印象を受けた。
私は辺りをキョロキョロ見渡している2人を3階の会議室に案内した。
1階のリビングでもよかったんだけど、アイラとヒナが執務中で、ラーラ達はポテトチップスを食べながらまだ私が読んでいない漫画を読んでいたので止めておいた。
因みに、ラーラ達が漫画を読めているのは、私が『翻訳スキル』を使ってあげたからだ。
3階の会議室に入ってもテーブルやコピー機を興味津々に見ている2人に私はアイスティーの入ったグラスを渡した。
「ありがとうございます」
「急いで来ていたので、ちょうど喉が乾いていたのだ」
「お腹は空いてますか?」
「朝を軽くしか食べていなかったので、少し空いているが」
「マリーちゃん、私もね」
目敏く食べ物を感知したアイリスさんが会話に割って入る。
私はキラーピッグから作ったトンカツを元に、事前にストックしていたカツサンドとシュークリームをテーブルの上に置いた。
「これがカツサンドで、こっちがガーネット名物のシュークリームです」
「まあまあ、これが彼の有名なシュークリームなのですね。こちらに来る前にお店に立ち寄ったのですが凄い行列で諦めたところでしたの」
「こちらのカツサンドなるものも、とても美味しそうだ」
「カツサンド•••、昨夜、マリーちゃんはこれを作っていた訳ね」
「ははっ•••」
私がカツサンドを作っているところを気配を消して見ていたとは、流石、食いしん坊トリオのリーダーだね。
「う、う、美味い!!!どういう仕組みで、どうすればこんなに美味くなるのだ!!」
「ふぁーー、美味しいですわーー。口の中に広がる甘いソースとお肉の上質な脂、それを柔らかなパンが包み込んでいてこの世の食べ物とも思えないほど美味です」
「マリーちゃん、これ、お夜食分もあるかしら?」
アイリスさんだけはトンカツ経験者のため、やや反応が薄いが、2人は今も神に祈るようなポーズをして口の中に広がる味を噛み締めている。
もちろん、その後シュークリームを食べた2人は昇天していました。
2人が昇天から戻ってくると、いよいよ本題に入った。
「先程の素晴らしい食事、一階にあった温泉なるもの、これがアイリスの美の秘密だったのだな」
「まぁー、それも重要な要素かな」
「アイリス様。それも、ということは、まだ秘密があるのでしょうか?」
「そうよ。でも、他言しないでくれる。それが約束できなければ教えられないわ」
「ゴクッ」
リースさんとエミールさんはお互いで目を合わせ、そして静かに頷いた。
「じゃー、マリーちゃん。お願いね」
「はーい」
私はストックしてあるSSK IIIを『アイテム収納』から2本取り出した。
1本は化粧水、もう1本は乳液だ。
「こ、これは•••」
「美容液です。洗顔の後にこれを塗ると信じられないくらいお肌プルンプルンになりますよ」
「なんと素晴らしい•••、ハッ」
言葉の途中でエミールさんが何かに気づいたように椅子から腰を上げ、直ぐに私の前で跪いた。
「シュークリーム•••、それは巷では聖女の甘味と言われ、そのセーラー服、巷では聖女の羽衣と言われています。そして、先ほどからアイリス様がマリーちゃんと呼んでいることから察するに、貴方様が聖女マリー•アントワネット様なのですね」
「何!?」
リースさんもエミールさんの隣に並んで跪く。
えっ??
どしたの、これ•••
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