第91話 偽聖女と、同性婚





「2人共どうしたんですか!?」

「聖女マリー•アントワネット様。どうか、私達の立ち会い人になっていただけないでしょうか?」

「立ち会い人?」

「はい。私達の婚姻の証人者になっていただきたいのです」

「えぇぇぇぇーーー」


私は色々な意味で驚いた。

婚姻の証人者という大層な役目もそうだが、2人が女性同士で結婚ということにも驚いている。

ただ、驚いたのはいきなりだったからで、私自身は地球にいたからか同性婚に差別的な負の感情は微塵もない。

単純に、好きな人同士が結婚するのが一番だと思うし、誰かが同性婚したところで私が病気になったりする訳でもなく、何の影響もないのだから。



でも、この世界ではどうなのだろうか?

女性の比率が圧倒的に多い世界であるけれど、同性婚は一般的なものなのだろうか?



「あ、あの•••」

「ちょっと2人共、一旦椅子に座ってもらえるかしら。マリーちゃんが困ってるわよ」

「ハッ、何と申してよいか、つい慌ててしまいまして•••」

「申し訳ない•••」


2人は席に戻ると、改めて事情を話し始めた。


「私とエミールは、愛し合っている」

「ほう」

「女性同士ではあるが、愛し合っている」

「ほうほう」

「その、だからであるな、女性同士だが愛し合ってるので結婚したいのだ」

「ほうほうほう」

「•••」

「っていうか、惚気てるんですか??」

「ち、違う、断じて違う!!」


リースさんの話が先に進まないことに業を切らし、ただ惚気ているのかと思ってしまう。


「あ、あの、マリー様は同性同士での結婚に対し、何も思わないのですか?」

「はい。2人が愛し合ってるなら何の問題もないと思いますよ」


どこか不安げなエミールさんに対し、私は自分の正直な気持ちを言った。


「あ、あ•••」


エミールさんは泣き出してしまう。

嗚咽でも号泣でもなく、その泣き方は慟哭と表現した方がいいかもしれない。


「エミール•••」


リースさんがエミールさんを抱きしめる。

そんなリースさんの目からも涙が流れていた。


「マリーちゃん」


アイリスさんは私を呼び、目でしばらく2人だけにしてあげましょう、と伝えてきた。

私とアイリスさんは静かに会議室から出て、同じ3階にある私の部屋に移動した。



「アイリスさん。この世界で同性婚って、やっぱり認められてないんですか?」

「認められてないとは言えないわね。マリーちゃんは婚姻の仕方、分かるかしら?」

「婚姻届を出すのでは?」

「婚姻届、まぁそんなものね。婚姻証明書というのがあるんだけど、そこに2人の名前を書くのよ。婚姻証明書には性別を記載する欄はないから、同性同士でも出せるわ」



なるほど。


恐らく、婚姻証明書は異性で出すことを前提に作っているため、男性•女性を記入する欄がないのだろう。

そのため、同性同士でも婚姻証明書を出すことはできると。



「なら、婚姻証明書を出しちゃえばいいんじゃないんですか?」

「婚姻証明書にはね、教会に仕える神官様の証明が必要なの」

「ほうー」

「誰も、証明してくれないのよ」

「酷い!!同性だからですか!?」

「そうね」


法的には婚姻証明書は同性同士でも出せるけど、固い考えの神官様の証明が必須という時点で事実上不可能ではないか。



「だけどね、神官様より上の地位、聖女様でも婚姻の証明はできるわ」

「本当ですか!?この世界に本物の聖女様はいるんですね?」


私は自分のことを偽聖女だと思っている。


「えぇ、いるわよ。教会で修行し、神官様として努めた者の中から選ばれるの」

「なら」

「無理ね。聖女様が同性同士の婚姻を証明したことはないわ」

「そんな•••」

「けど、マリーちゃん。あなたもれっきとした聖女様なのよ」

「えっ!?」


確かに私は聖女様•••、まぁ、大魔王様とも呼ばれているけど、それは周りの人が勝手に呼んでいるだけだと思っている。


「私、偽聖女では?」

「マリーちゃんは、ラミリア王国が認めた歴とした聖女様よ。メイズ国王、シャーロット王妃があなたの功績を讃え、特例で正式な聖女認定をしているわ」

「し、知らなかったんですけど•••」

「言ってなかったかしら?ふふっ」



確実に確信犯だ。

私が聖女様認定の話を断ると思っていたのだろう。確かに、面倒臭そうだから断ったかもしれないけど。



「マリーちゃん。あれだけ多くの人を女神様のような力で助けていれば、誰だってあなたを聖女認定するわよ」

「因みに、私以外の他の聖女様に何か特別な力はあるんですか?」

「ないわね。正直、私からすればマリーちゃん以外が偽聖女だわ。もちろん厳しい修行もしているけど、最後はどれだけ神官長様に好かれるかだもの」

「へぇー。どの社会も上司が絶対なんですね」


私はアイリスさんに気になっていたことを聞く。


「私が聖女なら、婚姻の証明はできるってことですよね?」

「その通りよ。ラミリア王国内であれば証明は可能。例え、リース達のように他の王国から来た者であってもね」

「なら、何の問題もないですね」

「ふふっ、そうね。教会から恨まれるでしょうけど、マリーちゃんに勝てる人なんていないもんね」


私はアイリスさんを引っ張って自分の部屋を飛び出すと、2人がいる会議室に向かった。

会議室の扉をノックし、中からの返事を待って中に入った。


中にいた2人は、先ほどより落ち着いている様子だった。



「マリー様、先程は取り乱してしまい•••」

「リースさん、エミールさん、私、2人の婚姻の証明者になります!!」


私はリースさんの言葉を遮って宣言をした。


「「ま、マリー様•••」」


嬉しさや安堵感、色々な感情に耐えきれない2人は、再び揃って慟哭した。


「アイリスさん、証明って、どうすればいいんです?」


泣き出した2人が落ち着くまで時間がかかりそうなため、その間に証明方法を確認する。


「簡単よ。2人と一緒に記入済みの婚姻証明書を持って、ギルドに行けばいいの。そこでマリーちゃんがギルドカードでも貴族カードでも身分証を提示すれば、ギルドマスターの登録スキルで婚姻証明書への反映ができるわ」

「ギルドって、冒険者ギルドでもいいんですか?」

「大丈夫よ。登録スキルが使えるギルドマスターがいるギルドならどこでもオーケー」

 


アイリスさんは人差し指と親指で円を作る、所謂OKポーズをしようとしているようだが、小指と親指をくっつけているため3を表しているような形になっている。

優しい私は、何も言わずに直してあげた。


「でっ、いつにしますか?」

落ち着いてきた2人に私は訊いた。


「マリー様。本当によろしいのですか?」

「私達としては有難いが、マリー様が危険な目に遭う可能性も」

「大丈夫ですよ。私、強いですから。それに、危険な目なら2人だって遭ってきたんじゃないんですか?」

「「•••」」

「私は2人の味方ですから、何かあったら言ってきて下さいね」

「「ま、マリー様」」

「だ、駄目、泣かないで」


2人は懸命に涙を我慢している。

初めて会った私の前であれだ激しく泣く位だもん、きっと同性愛というだけで酷い目に遭ってきたんだろうな。


「2人で生きていくと決めた時、多くの者が敵に変わった」

「それまで懇意にしていた方も私達から離れていきました」

「ですが、今日、マリー様とお会い出来て本当に幸甚でした」

「本当ですわ。もちろん2人で生きていくと決めた時点で子供は諦めましたが、まさか、婚姻を認めていただける日が来るなんて」

「これくらい、お安い御用ですよ。私もこんなにも素敵な2人の婚姻の証明者になれるなんて幸せです」

「「ま、マリー様」」


あっ、また泣いてしまった。

2人共、たくさん泣いた所為で瞼が腫れ、折角の大きな目が小さくなっていた。


「2人共、目が腫れぼったくなってるので、私自慢のお風呂に入ってきなさい」

「「は、はい!!」」

「お風呂上がりにはこのSSK IIIを塗ること。SSK IIIは、結婚祝いとして何本かあげますね」

「「ま、マリー様」」


再び泣き出した2人を露天風呂に押し込み、

シャワーの使い方や温泉の入り方はアイリスさんに任せた。


結局、その日、2人は私の家に泊まることになり、執事や護衛の人達はアイリスさんの屋敷に泊まることになった。


後で知ったのだが、2人の執事や護衛の人達は、私達が話している間、ずっと外で待っていたらしい。


それを知った私は、みんなにシュークリームを配った。




そしてみんなが寝静まった後、私は神像が飾ってある部屋で1人、考え事をしていた。



「子供かぁ•••」




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