第85話 お祭りと、企業努力の偉大さ





ガーネットに戻ってくると、ラドさんをはじめ、冒険者の面々が入口で出迎えてくれた。


「マリー、無事だったか•••」


ラドさんは私に話しかけるが、後ろにいるラーラ達とバスタードの3人に目を奪われ、それから少し困惑した表情を浮かべる。


「これは一体•••?」

「う、うん。色々とね〜、•••」


ラーラ達に馬車で30分の距離をずっと引きずられて来たバスタードの3人は、衣服はボロボロで肌け、顔や体は血だらけになっていた。

今の見た目では、誰もバスタードのメンバーだと分からない程、変わり果てている。


「マリー様。とりあえず、冒険者ギルドに行きましょう」

「そうですね」

「あっ、このままで•••」


私はお姫様抱っこしたラピさんを下ろそうとするが、ラピさんは少し頬を赤くし、お姫様抱っこの継続をお願いしてきた。


別にいいですけどね•••




冒険者ギルドに着くと、まずは捕まえていた盗賊達を引き渡し、次にバスタードの3人を最低限会話できるまでヒールで回復させた。


バスタードの3人はヒールのお陰で意識も回復し、会話も可能なはずだが、ずっと震えたまま目線も定まらずにいた。


スイとモニーの女性メンバーに関しては、自分達の衣服がボロボロで肌けていることにも意識が向けられないほど狼狽している。

血だらけなので、赤い服を着ているようにも見えないことはないから、いいのかな?



「ラピさん、この人達どうします?」

「はい。スイさんに関しては、冒険者ギルドで身柄を拘束し、盗賊同様、法のもとで裁かせてもらいます。ですが、他の2人は•••」



ラピさんが困惑するのも無理はない。

ライスとモニーに関しては、ヒナを虐げ、パーティを追放した事実はあるが、スイと違い大きな犯罪を犯した訳ではない。

ラドさんとヒナを殴った事実はあるが、冒険者の間では日常茶飯事なため、裁くのが難しい状況なのだ。



「なら、私共の山で内々に処理いたしましょうか?」

「「ひっ」」

ラーラの背筋がゾッとする提案に、ライスとモニーが恐怖から声を発する。


「あ、ありがとう。ライスとモニーだっけ?そうしてもらう?」

「「ふるふる」」

ライスとモニーは全力で首を横に振る。


「あなた達、後でヒナに復讐とか言って近付かない?」

「「ふんふん」」

2人は全力で首を縦に振る。


「一応、私は日本人•••、じゃなくてしっかりした人だから、冒険者になった時に規約を読み込んでるんだけど、Sランクの私にランクが下の人が不敬を働いたら処罰していいってなってるの。知ってる?」

「「ふるふる」」

「では、腕の1本や2本使えなくしましょうか?」

「「ひっ!!」」


私はヒナの今後の安全のために少し牽制しておこうと思ったのだが、ラーラの脅しで充分みたいだ。


「なら、2人はもう行っていいよ」

「「んっ!?」」


ライスとモニーは互いの目を合わせると、気力を振り絞って立ち上がり、一目散に冒険者ギルドから走り去って行った。


「よろしかったんですか?」

「うん。ラーラのお灸がかなり効いてたしね」



ぎゅー、きゅるきゅる



「す、すみますん。ホッとしたらお腹が空いてしまいまして」

ラピさんは顔を真っ赤にして自己申告する。



「なら、今日はヒナの歓迎会も含めて、みんなに最強のご飯を奢りましょうー」

「「「おおおーーー!!」」」

「マリーの飯だ!!」

「久々だーーー!!」


冒険者ギルド内は歓喜に溢れる。

私はガーネットの街で『マリーラ•シュークリーム』のお店を出しているが、店名の通りシュークリームのみ扱っている。

だから、私の『ご飯』という意味では、以前に振る舞った味噌汁と炊き立てご飯、炊き出しの牛丼以来かもしれない。


だからなのか、今の冒険者ギルドは異常な歓喜と熱気に沸いていた。


調子に乗った私はステージ上にいるアイドルのように更に観客を煽る。



「お酒も飲みたいかーーーー!?」

「「「「おぉぉおおお!!」」」」

「いっぱい飲みたいかーーー!?」

「「「「おおおおおお!!」」」」



ライブ会場になった冒険者ギルドで一頻りアイドルを楽しむと、私は準備に取り掛かる。



「ラーラ、ナーラ、サーラ、キラーピッグを大量に捌いてくれる?」

「畏まりました」


私は自然に笑みと、涎が溢れてしまう。

なんたって、久々のトンカツを食べれるんだから。

豚肉もある、キャベツもある、薄力粉もある、卵もある、パン粉もパンがあるから大丈夫。


後は油で揚げて、最初は塩で食べて、次は甘いソースで••••


ソース•••

ソースないじゃん

そーっすね•••



ダメなの

トンカツにはソースがなきゃ。

あの、ブルドックソースがなきゃ。



こうなったら

作ってやる

『料理スキル』持ちの私の実力をみせてやる



私は鍋を出し、ありったけのフルーツを濾し、醤油やハーブを入れて煮込む。

煮込んでる間にラーラ達から運ばれてきたキラーピッグあらため、私の中での豚肉に衣をつけて揚げていく。


調理は冒険者ギルドの外に調理台を揃えて行っているのだが、辺り、いや、街中にソースの甘い香りと豚肉を揚げている香ばしい匂いが漂う。

その香りと匂いに釣られて、始めから待機している冒険者ギルドの人達以外に、街中の人が調理台を囲むように集まり出す。



「マリーちゃん、これは一体なんの騒ぎなの?」

「マリーお姉様、この香りは!?」

「マリー、これは何なの!?」

食いしん坊トリオ、アイリスさん、アイラ、アリサが素早く私の元にやってくる。

この察知能力と行動力はなかなか侮れない。


「ちょっと、歓迎会の準備をね」

「歓迎会?」

「それでこの料理は??」


「ふっふっふ。お待たせしました。お待たせし過ぎたのかもしれません」

私は黄金色に揚がったトンカツをまな板の上に置くと、包丁で切っていく。



ザクッザクッザクッザクッ



「これがトンカツです!!塩とこのソースで食べて下さい」

「「「「おおおおおお!!」」」」



更に私はアイテム収納からビールタンクを出すと、ラーラ達に注ぎながら飲んでいいという条件の元、大きめの紙コップにビールを注いでもらう。



「ビールも飲みたいかーーー!!」

「「「「おおおおおお!!」」」」

「ビールって何だ?」



一部冷静な人もいるが、みんなにトンカツとビールを配っていく。


「う、旨い!!トンカツの旨味と、ビールがこれ程合うとは!!」

「マリー様はやはり天才!!」

「マリー様は我らの誇りです!!」


ラーラ、ナーラ、サーラはトンカツを食べ、ビールを飲み、そしてビールを注ぎながら喜びを表している。


「マリーちゃん、美味しくて気絶しそうよ」

「マリーお姉様、このこくのあるソースは世界一です!!」

「マリー、私はもう何も望むものはない。このトンカツとソースさえあれば!!」

食いしん坊トリオも蕩けそうな表情でトンカツを楽しんでいる。


「「「「美味しいーーー!!」」」

「「「「マリー、万歳ー!!」」」

街の人もみんな笑顔に溢れている。



では、私もひとつ。

私はトンカツに塩をつけて食べる。


「美味しいーー!!日本のブランド豚以上にお肉が甘くて、柔らかくて、う、美味すぎる•••」


そして、いよいよ、ソースに付けてトンカツを食べる。


サクッ


口に入れた瞬間、トンカツの旨味と同時にソースの甘さがそれを包み込んでいく。



美味しい•••



けど•••


全然ブルドックソースじゃない。

私はその場に膝から崩れる。



美味しいけど、ブルドックソースの足元にも及ばない。

そりゃそうだよね。

スキル持ちとは言え、14歳の小娘が、企業努力によって完成させたソースに勝てる筈がない。


分かってはいたけど

分かってはいたけどね



企業努力に打ちのめされながらも、私はトンカツを揚げ続け、少しみんなの食べる勢いが落ち着くと、家ユキにトンカツを届けた。


そして、ヒナを冒険者ギルドまで連れていき、街のみんなに紹介しながら一緒にトンカツを食べた。



途中でラーミアさんとミアも合流し、ガーネットの街は朝までお祭り騒ぎとなったのでした。



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