第84話 キラーピッグ討伐と、眷属の誇り
平野の奥から何かがこちらに押し寄せている。
『探知スキル』を使うまでもなく、目視で砂埃が上がっているのと、ドドドドッとサバンナの動物が大移動しているような音が響く。
血の匂いに引き寄せられて、キラーピッグがこちらに向かっているのだ。
まずい、と思ったけど、『探知スキル』を見る限りバスタードメンバーと盗賊しかいないから大丈夫か。
非情に思うかもしれないけど、ラドさんを傷つけ、ヒナを傷つけた人達、ましてや盗賊を助けようという気は更々ない。
もちろん、街に被害が出る前にキラーピッグは倒すけど、まだ焦る段階ではないし。
「ま、マリー様、あ、あれは?」
「キラーピッグだね」
「で、ですよね?」
「大丈夫。街に着く前に倒すから」
「で、ですが。こちらで把握していた数とあまりにも違います」
「400体はいるね。にしても、大きいなー」
遠目から見てもキラーピッグは大きく、私の知っている豚の3倍以上はある。
ただ、見た目は豚に近く、大きさ以外では長い角が生えているのが唯一の違いだった。
モウモウといい、異世界は動物が大きいね。
一応、魔物だけど。
その時、盗賊から逃げ出したスイが森を抜け、平野に現れた。
スイを追いかけていた盗賊達も、スイを見かけたバスタードの残りのメンバーも平野に現れる。
「あ〜あ」
「ま、マリー様、あれはバスタードの皆さんでは?」
「そうだよ」
「腰を抜かしてるみたいですけど•••」
「だね」
ラピさんは私と丘の下にいるバスタードのメンバーを交互に見る。
まるで、助けないんですか?と、聞きたいかのように。
「助ける気はないよ。自業自得でしょ」
「そ、それはそうですが•••」
「さっきのスイの会話、聞こえたでしょ?ヒナが狙われてるって分かってたから、後々のことを考えてラピさんを連れてきたんだ」
「そう、だったんですね」
ラピさんは何かを諦めたように、暗い表情で俯いた。
「けど、あの豚は美味しそう」
「えっ!?」
「後々の処理、ちゃんと引き受けてくれる?」
「は、はい!!罪は償わせます」
ラピさんは一気に笑顔を取り戻し、私を温かい目で見てくる。
「ラーラ、ナーラ、サーラ、ちょうど100体づつだね。あの豚、絶対美味しいやつだから、首を一気に落とす感じでお願い」
「畏まりました」
首を落とすなんて、私はいつからこんなことを言えるようになってしまったのか•••
でも、トンカツ、カツ丼、豚の生姜焼き、トンテキ、豚の角煮、絶対に食べたい。
「ラピとやら。バスタードのやつらは先ほど冒険者ギルドでマリー様に不敬を働いた。キラーピッグを倒した後、その報いは受けてもらうからな」
「は、は、はい」
ラーラの怒りに満ちた目を見て、ラピさんは震え上がる。
丘の下を見ると、キラーピッグの大群とバスタード、盗賊との距離は200メートル余りに迫っていた。
「そろそろ、行こうか」
「はい!!」
私はラピさんを担ぐと、丘の上から飛び降りる。
「キャーーーー」
ラピさんの叫び声が平野に響く。
ドンッ(着地)
私達はバスタードと盗賊の前に降り立った。
私は、腰を抜かして動けずにいるバスタードと盗賊達を睨んだ。
「ひっ」
私の睨みはかなり怖いらしく、バスタードと盗賊の表情は、キラーピッグの大群を前にしていた時よりも更に恐怖へと満ちていく。
私はラピさんをその場に下ろすと、『結界スキル』を発動する。
「この中にいれば安全なので。魔物からも、人からも」
「は、はい」
「ラーラ、ナーラ、サーラ、行くよ」
「畏まりました」
「おい、貴様ら。マリー様を偽物呼ばわりしたこと、後悔させてやるからな」
ナーラは体から赤いオーラが出てしまうほど激しくバスタードの面々を睨んだ。
「ま、マリーって、ま、さ、か•••」
スイの消え入りそうな声が聞こえたが、私は無視して飛び出し、ラーラ達も続いた。
キラーピッグは走る勢いを更に上げて突進してくる。
私はその突進を遥かに上回る超スピードで移動すると、次々と手刀で首を落として行く。
アタミ(極小)を放ってもよかったが、この大群では貫通した光線で肉を損傷させてしまう可能性があったので手刀で倒すことにした。
横を見ると、ラーラ達はいつも通り手を剣に変えて首を切り落としている。
やっぱり、剣、いいなぁー。
剣のことを考えながらも、ちゃんと突進してくるキラーピッグを倒して行く。
「命をありがとう。いただきます」
私はキラーピッグに感謝を込めて、一切の痛みを感じる暇がない程素早く、鮮やかに首を落とす。
「な、なるほど」
「いただきます!!」
「いただきます!!」
何を勘違いしたか分からないが、ラーラ達もいただきますを連呼しながら首を落として行く。
私達の勢いは凄まじく、400体近くいたキラーピッグを10分足らずで倒した。
回収の方が時間がかかるよ。
私とラーラ達がバスタードと盗賊の前に戻ると、色々と漏らしている人が複数人おり、みんな悪魔を見るような目で私達を見てきた。
いや、悪魔というか、悪党はそっちだからね。
そんな恐怖が渦巻いている中、ラピさんが結界から飛び出し、私達と悪党の間に立った。
「スイさん。私、あなたの話を聞いていたんですが、ヒナちゃんをこの盗賊に売り渡そうとしていたんですよね?」
「•••」
「あなたの口から話をして下さい!!」
スイは腰を抜かしたままラピさんを見上げると、悔しさの滲んだ醜い顔で話を始めた。
「あー、そうだよ。ヒナのスキルは高く売れるからね。盗賊だって仕事するには強い方がいいからね、利害が一致したのさ。
もう少しでうまく行きそうだったのに、まさか伝説の聖女がガーネットにいたなんてね」
「そんな身勝手な理由で•••」
「おい、どういうことだ!?」
スイとラピさんのやり取りに、ライスが困惑いっぱいの顔で割り込む。
「ヒナは足手まといなくせに、パーティの配布金は平等に4分の1を貰ってるのが許せないって言ったよな!?」
「あんたの馬鹿度合いと、モニーのアホさには嫌気が差すわ!!」
「なんですって!?」
モニーが怒鳴るが、腰が抜けているため、なんとも格好がつかない。
「ヒナのスキルがあったからバスタードはランクBまで来れたのよ。普通気づくでしょ?ヒナが入ってから私達は急に強くなった」
「なっ•••」
「それに、ヒナには一度だって報酬を渡したことはないわ。なのに、あの子は文句も言わずにあんたみたいな馬鹿にスキルを使い続けてたのよ」
スイはそこまで話すと狂ったように笑い出す。
「馬鹿は貴様もだろ!!」
ラーラがそう言い放つと、腰を抜かしているスイの頭を掴み、地面にめり込ませた。
気づくと、ナーラ、サーラもライスとモニーの頭を掴み、スイの横に運んできて、同じように地面にめり込ませていた。
ラミリア王国の国王、ライズさんと初めて会った時もラーラ達は私を守るように、やや過剰に動いてくれた。
それについて話した時、私の眷属となったラーラ達にとって、私のことを蔑ろにされることは何よりも許せないらしい。
そして、私の権威のためにラーラ達が動き、それをもし私が止めるようなことがあった場合、自分達の行き過ぎた行為を認め、自害すると話していた。
眷属の誇りらしい。
それから私はラーラ達の行動に対して何も言わないようにしている。
行き過ぎることはあるけど、ラーラ達の判断は間違っていないと思うから。
地面に顔を埋められたバスタードのメンバーはそのままにして、戦意すら感じない盗賊達を『牢屋収納スキル』で収容した。
「ラーラ?何してるのかな?」
「はい。このゴミ以下のヤツらにマリー様の高尚なスキルを使うわけにはいきませんので、街まで引きずって帰ります」
「そ、そう•••」
ラーラ達はバスタードの3人の足に、いつの間にか森で調達してきたであろう蔦を結び、一気に引きずり出す。
地面から顔を出したバスタードの3人は、ようやく息ができる喜びを一瞬だけ表情に出したが、刹那に表情は恐怖に変わった。
う、うん、私は何も言わない
ラーラ達が自害したら困るし
私はラピさんをお姫様抱っこし、ラーラ達はバスタードの3人を引きずりながら、街へと戻った。
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