第83話 スイの狙いと、豚の嗅覚
私とユキは、ヒナが泣き止むまで抱きしめていた。
しばらくしてヒナは落ち着き、今はポテトチップスを食べている。
「ヒナのこと、少し聞いてもいい?」
「う、うん」
「ヒナは何歳?」
「わ、分からない」
「お父さんとお母さんは?」
「い、いない」
「•••」
私は居た堪れない気持ちになり、目線でユキにバトンタッチする。
「そ、その。私もマリーも、今はお父さん、お母さんいないのよ」
「そう、なの?」
「そうよ。だから、ヒナも一人ぼっちなんて思っちゃダメよ」
「う、うん」
「それで、カスタードだっけ?なんであんなパーティにいたの?」
「バスタードだよ!!」
まるでポテチの後は甘い物と、無意識に考えているような言い間違いをするユキにツッコミを入れる。
「ひ、ヒナは、だ、誰かに狙われてて。そ、その時、ら、ライスが拾ってくれた」
「狙われてた?」
ユキはそう言いながら私を見る。
「ヒナのスキルに気づいた人がいたんだろうね」
「わ、私のスキル、わ、分かるの?」
「分かるよ。ヒナは誰かにスキルのこと話したりした?」
「う、うん、す、スイに」
「スイって、バスタードのメンバーの女性だよね?」
「う、うん。ま、前に聞かれて、は、話した」
スイはヒナのスキルを知っていた。
それなら、パーティから追放はしないはず。もしくは、他に狙いがあるのか。
「もしかして、ヒナをパーティから追放しようって言い出したの、スイ?」
「う、うん」
「何かありそうだね」
ユキは私の表情から察したみたいだ。
「む、昔は、み、みんな、優しかった。け、けど、パーティランクが、あ、上がりだしてから、わ、私が邪魔になった•••」
ヒナは再び泣いていた。
声を出すことも、嗚咽することもなく、ただ、瞳から涙が溢れていた。
ヒナがどんな過去を生きてきたかは分からない。けど、笑顔や喜びを忘れるほど壮絶な過去を生きてきたことは分かる。
この世界に来て、私の料理を食べて笑顔にならなかった人はヒナを除いて誰もいない。
私は自然と自分の手を拳にして強く握る。
「ヒナ、これからは私達と暮らしましょう」
「えっ•••」
「それは良い考えね。私、日中サクラと2人で寂しくしてるのよ」
「け、けど、わ、私は、邪魔者•••」
私はヒナの手を握る。
「邪魔者なんかじゃないよ。ここには、ヒナを邪魔者だって思う人もいない」
「ほ、本当?」
「本当だよ」
「いたら私から追い出してやるわ!!」
ユキは両手を腰に当てて、なぜか自慢気に言う。
「あ、ありがとう•••。う、嬉しい」
うっ、うう
ヒナは声を上げて泣き始める。
泣く時は何も気にせず、声もいっぱい出していいんだよ。
私はヒナの頭を優しく撫でる。
ピー?
ピッピー?
お昼寝をしていたサクラが目を覚まし、物珍しそうにヒナの周りをクルクルと歩く。
「か、かわいい•••」
「ピー、ピー」
サクラはヒナの涙を舐めている。
まるで元気を出してと言っているように。
「く、くすぐったい」
「ピー」
「わ、分かった。い、いい子、いい子」
ヒナはサクラの頭を撫でる。
私はそんなヒナを見つめながら、行動を起こす決心をした。
「ユキ、ヒナとサクラをよろしくね」
「任しといて」
ユキの実力は前に戦ったことがあるから分かっている。
冒険者で言うと、Aランクの実力は確実にあるし、何よりユキそのものである家全体を使った攻撃は例えBランク冒険者が束になっても一気に排除できるだろう。
それに、セキュリティ面も万全。
以外にユキってすごいよね。
「何か、馬鹿にされてる気がする」
「その逆だよ」
私はそう言うと、追加の缶ビールを冷蔵庫に入れ、鳥の唐揚げもアイテム収納から出す。
因みに、家ユキには元々、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジ等、ある程度の電化製品は備え付けられている。
相変わらず電気の仕組みは分からないけど、どの電化製品も使えているから大助かりなのだ。
「ヒナ、ちょっと出掛けてくるから、ユキとサクラとお留守番しててくれる?」
「う、うん」
私はヒナの頭を撫でると、アイテム収納からシュークリームを取り出し、ヒナに渡す。
普段、草とスープしか食していないヒナにシュークリームはあまり良くないと思ったけど、素直に返事するヒナが可愛くなってしまった。
「ラーラ、ナーラ、サーラ、ちょっと付き合ってくれる?」
「畏まりました」
リビングのテーブルで缶ビールを飲んでいたラーラ達の前には、空き缶の山ができていた。
酔ってないよね?
私とラーラ達は家から出ると、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドのドアを開けて中に入ると、さっき私達が帰ってから1時間ほどしか経っていない所為か、まだ騒めいていた。
騒めきの中、私達を見つけたラピさんが駆け寄ってくる。
「マリー様。どうかされましたか?」
「うん。さっきのキラーピッグって、どこにいるのかなって」
「キラーピッグはガーネットの南西、馬車で30分ほどの所にある草原に大量発生しました。まさか、討伐していただけるんですか?」
「たぶん、討伐することになるかな?それより、馬車で30分ってかなり近くない?」
「はい。そのため、今回街への被害を考え、応援依頼を出した次第です」
「なるほど。それと•••」
私はどうしても気になっていたことを聞く。
「キラーピッグって、豚だよね?食べれるよね?」
「えっ!?ぶ、ぶた??ぶたが何かは分かりませんが、そもそもキラーピッグは強い魔物ですので、討伐歴があまりなく、ましてや食べたという記録は•••」
豚の意味が通じず、どこかラピさんが憐れんだ目で私を見てくる。
「そ、そうだ、ラピさん。ちょっと時間ありますか?」
私は誤魔化すように違う話をする。
「え、ええ。何分、先ほどの騒ぎで冒険者の皆様が依頼どころではなくなっておりまして、受付も空いてる状況で」
「ちょうどいいですね。一緒にキラーピッグの討伐に行きましょう」
「へっ??」
私はラピさんを強引に担ぎ上げると、冒険者ギルドの外に出て、一気に走り出す。
馬車で30分の距離なら、ドラゴンで行くまでもない。
それに、ドラゴンで行って警戒されてもやっかいだしね。
「ま、ま、ま、マリー様ーーー。スピードが速すぎますーーー」
私に担がれているラピさんが叫んでいる。
「ラピさん、少し静かにしてもらえますか。気づかれると面倒なので」
「は、はいーーー」
当たり前だが、ラーラ達も何なく私と並走している。
そのまま速度を上げて走ると、5分程で目的地付近に近づいた。
目的地付近に高い丘があったので、走ったまま勢いよくジャンプし、丘の上に着地した。
この丘からは、キラーピッグがいる平野と周辺にある森が一望できる。
森は誰かが隠れるには好都合だね。
私は『探知スキル』を使うと、森の出口付近、平野に近い辺りで3人、森の中央部で10人の反応を確認した。
「やっぱり」
「はぁ、はぁ、はぁ、や、やっぱりとは•••。それより、はぁ、はぁ、いきなり担いで走り出すなんて、はぁ、はぁ」
担がれていたラピさんは、まるで自分が走ってきたかのように肩で息をしている。
「あのバスタードの一員、スイって人が怪しくてね」
「はぁ、はぁ。スイさんが?」
「森に輩がいますね」
ラーラは丘の上から森を見渡しながら言ってくる。
「うん。10人。盗賊みたいよ」
「と、盗賊!?」
「んっ?」
バスタードと思われる3人の反応から1人が森の奥に入って行く。
私は『盗聴スキル』『透視スキル』を使う。
「くそ!!なぜこんなことに!!」
『盗賊スキル』によってスイの声が聞こえ、『透視スキル』によって森の中を歩いている姿が確認できた。
「こ、これは、スイさんの声?」
突然聞こえてきた声にラピさんは驚く。
『投影スキル』を使っていないので姿は見れないが、私の近くにいれば声は聞こえる。
「ヒナを追放して盗賊に売り払う手筈だったのに•••。ライスの馬鹿が冒険者ギルドで騒ぎを起こすから!!」
「まずいわ。街でヒナを引き渡す約束だったのに、盗賊共にバレたら•••」
「しかも、キラーピッグの討伐に本当に来るなんて、ヒナがいないのに勝てるはずないのに!!」
スイは相当焦っているらしく、先ほど私に向かって啖呵を切っていたような余裕は感じられない。
それもそうだよね。
前にはキラーピッグ、後ろには盗賊だし。
「おい。こいつはどういうことだ?」
「な、何であんた達がここに!!」
森の奥に進んでいたスイは、盗賊と鉢合わせた。
「街からお前が出て行ったから跡をつけてきたんだよ。逃げられちゃ困るからな」
「ち、違うのよ。約束通りヒナはパーティから追放したわ。後でちゃんと連れてくるから」
「へへへ。そうか。Bランクパーティじゃ相手が厄介だったが、パーティから抜けたんなら後は簡単だ」
「えっ?」
「もう、お前には用はないってことさ」
ザンッ
「キャーーー!!」
「おいおい、ちょっとナイフで切っただけだぜ。Bランクパーティの一員も大したことねーなー」
スイは盗賊の1人に腕を切り付けられた。
これはまずい。
キラーピッグが私の知ってる豚ならば、豚は嗅覚が鋭い。
だから、血の匂いに反応して今から一斉に押し寄せてくる。
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