第82話 ヒナと、ご飯
ライス達が冒険者ギルドを出ていくと、私はヒナにヒールをかけた。
ヒナの顔にできた痣は無くなり、可愛い顔に戻った。
ヒナはラーラ達と同様、相手の強さを直感的に分かるからこそ、無慈悲に追放されてからもライス達がAランクモンスターの討伐に行くのを反対したのだろう。
それと、パーティ追放になったことで、ヒナのスキル《愛されし者》の効果はライス達から消えている。
ヒナが言葉を発していたのが、付与効果が消えた証拠だ。
効果があっても勝てない相手なのに、今の状況で行っては即死レベルだと思う。
「ヒナって、名前で合ってる?」
「う、うん」
「ヒナって呼んでもいい?」
「う、うん」
「とりあえず、座って話そうか」
「う、うん。あ、あの、傷を治してもらって、あ、ありがとうございます」
「全然気にしないで」
私は冒険者ギルドの椅子に座ろうとするが、他の冒険者の熱い視線を感じて諦める。
「ここじゃ、ゆっくり話せないから、私達の家に行こう」
「•••う、うん」
「あ、あのマリー様。この度は助かりました。ありがとうございました」
冒険者ギルドの外に出ようとした時、ラピさんが駆け寄って言ってきた。
「ラピさん。この冒険者ギルドにAランク相当の依頼ってよくあるの?」
私はSランクのギルドカードを受け取った際、冒険者ギルドに登録したが、普通に依頼を受けて達成、という流れをやったことがない。
「いいえ。滅多にあるものではありません。それはガーネットの冒険者ギルドに関わらずです。Aランクの依頼自体はもちろんあるのですが、それを依頼ボードに貼り出した所で達成できる冒険者はいませんので•••」
「ならAランクの依頼はどう対応してるの?さっきのキラーピッグ、だっけ?放っておいたら大変なんでしょ?」
「はい。ですので、被害が出そうになった場合は、王国に相談するか、別の冒険者ギルドに応援をお願いします」
応援依頼して、あのバスタードが来たってことなのかな?
けど、バスタードに来てもらった所で対応できないんじゃ?
「応援依頼でさっきのバスタードが来たんだよね?バスタードだけで討伐できない気がするけど•••」
「はい。その点はもちろん承知してますので、応援はバスタードパーティ以外にも10パーティに依頼しています。全てのパーティが集まってから合同で討伐をお願いする予定でした」
「なのに、勝手に行っちゃったと」
「はい•••」
私の隣にいるヒナが、不安そうな顔をしている。
バスタードにどんな恩義があるか分からないけど、余程心配なのだろう。
「最後に聞きたいんだけど、なんで私に応援依頼が来ないの??」
「えっ!?」
「私達のパーティだと依頼受けれないのかな?」
「い、いいえ。依頼は受けれますが•••。マリー様達のパーティ、ファミリーは国王様の管轄となっていますので、一介の冒険者ギルドから依頼はできません•••」
なかなかどうして、面倒な仕組みになっているみたいだ。
依頼を受けちゃいけない訳ではないみたいなので、私が勝手に受けて、倒しちゃってもいいのかな。
「バスタードが依頼に失敗したら、私達、ファミリーがその依頼受けるから言ってね」
「い、いいのですか?」
「私はこの街に住んでる冒険者で、この街が大好き。それだけで、依頼を受ける理由には十分でしょ?」
「マリー様•••」
ラピさんは胸の前で両手を重ね、まるで祈るような体勢で私を見てくる。
「他にも依頼があったら言ってね」
「は、はいっ!!」
そこまで話すと私達は冒険者ギルドを後にし、家ユキに帰ってきた。
家に入ると、ヒナは物珍しそうにキョロキョロと中を見ている。
「もっと色々見てもいいよ」
「う、うん」
微笑みまでいかないが、少し口角を上げて返事をすると、ヒナは家の中の探索を始める。
そんなヒナの姿を見て、私は自然と悲しい気持ちになった。
ヒナの身長は140センチ程で元々小柄なのだが、服の上から分かるほど痩せ細っており、余計に小柄に見える。
露出している腕や脚の部分を見るとより顕著で、余分な脂肪はまったくなく、骨張っているのが分かる。
「ヒナ、お腹空いてる?」
「う、うん」
「じゃ、ご飯にしよう」
元々私は、漫画を読みながらポテトチップスを食べようとしていたのだ。
ポテトチップスを食べるからと、ご飯は食べずにカロリーコントロールしていたので私もお腹が空いている。
ラーラ達とユキはポテトチップスと缶ビールがあれば大丈夫だろう。
問題はヒナだが、何が好きなんだろうか?
「ヒナ、好きな食べ物は?」
「好きな、食べ物?」
「そう。いつも何食べてるの?」
「く、草とか•••。た、たまに、スープもらえた」
「•••」
ヒナの言葉を聞き、私はバスタードへの怒りが込み上げる。
ライスやモニー、スイは痩せ細っていることはなく、健康的な体つきだった。
自分達はまともな物を食べて、ヒナには草を•••。
私は怒りをグッと抑え、アイテム収納から作り置きの卵粥を出す。
本当は他のものをあげたいけど、普段が草とスープでは、卵粥しか選択がなかった。
「はい、ヒナ。卵粥だよ」
「う、うん。良い匂い」
ヒナはモジモジしながら私を静かに見る。
「お、美味しそう。た、食べてもいい?」
「いいよ。熱いから気をつけて食べてね」
「う、うん」
ヒナはスプーンを手にすると卵粥を掬い、可愛らしくフー、フーと冷ましてから口に運ぶ。
「お、美味しい•••」
ヒナはスプーンを素早く動かし、次々と卵粥を口に運ぶ。
「この子、何があったの?」
缶ビールを手に持ったユキが私に近づき、小声で聞いてくる。
「分かってるのは、パーティを追放されたってことかな」
「よくあるやつね」
パリッ
ユキはポテトチップスを食べながら言う。
「そ、それは、な、何•••?」
ユキと話している内に卵粥を食べ終えていたヒナがポテトチップスを見ながら聞いてくる。
「ポテトチップスだよ。少し、食べてみる?」
「う、うん」
私はユキが持っていたポテトチップスを奪うと、ヒナの前に置く。
「あ、あっ、あ、あ•••」
ユキはポテトチップスを奪われて変な声を出している。
「こ、これ、手で食べる?」
「そうだよ」
私はポテトチップスを1枚手に取ると、ヒナの口まで運ぶ。
ヒナは私の行動に驚き目を見開くが、素直にポテトチップスを口で受け止めた。
パリッ
「お、美味しい•••」
「そうでしょ?あなたお酒は飲むの?ポテチとこの缶ビールの相性が抜群に•••」
私は素早くユキから缶ビールを奪う。
「あ、あっ、あ、あ•••」
「お酒なんて飲ませられないでしょ」
「分かった、私が悪かったから。缶ビールを返しておくれ」
「ダメ!!」
「グスン、グスン•••」
嘘泣きするユキを前に、缶ビールを散らつかせて遊んでみる。
ユキは泣きまねをしながら缶ビールを目で追ってくる。
グスン•••
んっ?
今のはユキの泣き声じゃないような•••
ユキも同じことを思ったのか、私とほぼ同時にヒナを見た。
ヒナはポテトチップスを口に半分含んだ状態で涙を流していた。
「ヒナ•••?」
「ご、ごめんなさい」
ヒナが涙を流したまま口を開くと、半分に折れたポテトチップスが落ちる。
「は、初めて。だ、誰かと食事をしたの。か、会話しながらも、は、初めて•••」
私とユキは無意識にヒナを抱きしめていた。
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