第86話 ポイントカードと、ボーナス
お祭りから僅か、僅か2日、今、私は家ユキの3階の会議室にいる。
今日は私の経営しているお店の月報告ということで、会議室には私以外に5人集まっている。
結局、ダラダラできていない•••。
▪️ガーネット
アイリスさん、アイラ、レキシーさん
▪️首都ラミリア
メレディスさん
▪️アントワネット王国
ルルミーラさん、ルミナーラさん
私のお店と言っているが、実質、レシピと作り方を提供してからは、ガーネットの「マリーラ•シュークリーム」は領主のアイリスさん、アントワネット王国の「マリーラ•パンケーキ」「マリーラ•パスタ」は女王のルミナーラさんに運営、経理をお願いしており、無責任なことに私はあまり関与していない。
今回は、開店から月が変わった初めてのタイミングということで、報告会をやることになったのだ。
普段何もしていない罪滅ぼしに、メレディスせん、ルルミーラさん、ルミナーラさんの送り迎えは私が行う。
因みに、メレディスさんに関しては、新規開店に関する相談で来ている。
青龍5体の査定をお願いした際、レキシーさんにも言われていたが、あれから本当に店舗や人材探しを行ったらしく、メレディスさんの手伝いをしたレキシーさんにも参加してもらうことになった。
メレディスさんを迎えに行った際、青龍の査定•解体が終わっていたレキシーさんも一緒に連れてきたので、移動に関する負担はない。
「では、まず『マリーラ•シュークリーム』の売上について話すわね」
アイリスさんがコピー機を使って印刷した報告書を配る。
以前、口頭で私の財布に入るのは50万Gほどと聞いたことがあるので、それ位なんだろうなと、軽い気持ちで報告書を見た私は固まった。
▪️報告書(半月)
売上:12,000,000G
費用: 2,000,000G
税金: 1,000,000G
利益: 9,000,000G
「開店当初は作れる個数にどうしても限界があったため、利益も限られていました。ただ、オーブンの増加と調理要員の増加、卵の安定供給のためのニワトリ増加によって1日8,000個を作れるようになりました」
「「「「おぉーーー」」」」
アイリスさんの説明に、私以外のみんなが拍手する。
「では、続いてアントワネット王国の2店舗について報告しますわ」
私はルミナーラさんから配られた報告書を見て再び固まる。
▪️報告書(1ヶ月)
売上:42,000,000G
費用:12,000,000G
税金: 3,000,000G
利益:27,000,000G
「『マリーラ•パスタ』『マリーラ•パンケーキ』共に1日、2,000人の来客があり、全てのお客様を対応するため、マリー様からの助言により、テイクアウト、なるものを取り入れました。
イートインなるものとテイクアウト、二つの提供により2,000人の対応を可能としました」
「「「「おぉーーー」」」」
また、私以外のみんなが拍手する。
拍手するみんなを他所に、私は自分の店がニュースでよく耳にしたブラック企業なのではないかと不安になる。
「ちょっと、2人に質問が•••」
「はい、マリー様」
「何でも聞いて、マリーちゃん」
ルミナーラさんとアイリスさんは満面の笑みで私を見てくる。
この好業績なら笑顔になるのは当たり前だよね。
「利益が多いんですが、従業員の方の給料はちゃんと払っているのでしょうか?」
「もちろんですわ。平均給与より多い、月80,000Gを賃金として支給してます」
「こっちも同じよ」
「従業員の方の休みは?」
「シフトなる制度により、週に1度は取っています。こちらも他の店舗と比べると破格の待遇です」
「以下同文」
前にアントワネット王国で給付金を配った際、1人100,000Gだった。この金額で1〜2ヶ月は暮らせると話していたから、月80,000Gの給与は高いのかもしれない。
それに、この世界には定休という概念がないのも聞いて知っていた。
それでも、この利益は•••
「因みに、従業員の方から不満は?」
「不満どころか、みんな毎日感謝していますわ」
「そうよ。この世界にこれだけ安全、安心に稼げる職業はないもの」
「そ、そうですか」
ルミナーラさんとアイリスさんはお互いに顔を合わせ、ほぼ同時に笑い出す。
「どうしました?」
「だってマリーちゃん。さっきから従業員の人ばかり気にしてるから」
「私の存じている商人は売上と利益しか気にしませんので、さすがマリー様ですわ」
「本当にその通りです」
ここまで黙っていたメレディスさんが私の隣に椅子を移動させ、腕を組んでくる。
「お姉様はお優しいんです」
元々私の隣にいたアイラは、椅子を寄せて同じく腕を組んでくる。
「ボロ儲けじゃん、マリー」
家ユキの声が聞こえてくる。
当たり前のことだが、家ユキで話をする以上、ユキには全部筒抜けである。
「でもまだオープンしたばかりでしょ?ここからだよ勝負は。ちゃんとリピーターつけないと」
「そうだよね。リピーターは大事だよね」
私は何となく天井を見上げて話しかける。
「ルミナーラさん、アイリスさん。リピーターって結構いますか?」
「り、りぴたー??」
「あっ、同じ人が何回も買ってくれることかな?」
「そうそう。1回買ってくれた人がお店を気に入ってくれて、また買いに来てくれることよ」
疑問形になった私の答えにユキが補足してくれる。
「なるほどです。そう意味では、リピーターがかなり多いです」
「街の外から初めて来る人も多いけど、その人も滞在中は毎日買いに来てるわ」
「そうですか」
私は静かに目を閉じると、日本に居た時のことを思い出す。
私が繰り返し行っていたお店は、安いか、美味しいか、それと•••、ポイントだ。
友達とどこのお店に行くか悩んだ時は、ポイントが貯まるお店にしていたな。
働く側の観点ではどうだろう?
私は中学生だったし、バイトもしたことがない。
働いていたのはお父さんとお母さんだけど•••。
そうだ。
ボーナスの日は、お父さんもお母さんも上機嫌だった。
ボーナスを出したら、お店の従業員も喜んでくれるかな?
私は目を開いて回想を終了した。
「お客様にもっとお店に来てもらえるように、ポイントカードを導入します。それと、福井更新の観点からボーナスを導入します」
「マリー、福利厚生だよ」
ユキの指摘に顔が熱くなる。
カッコよく決めたかったのだが、福利厚生など受けた事がないので仕方ないと諦める。
「ぽいん、と?」
「ぼーなす?野菜のナスを作るのかしら?」
私とユキ以外のメンバーが揃って首を傾げる。
「携帯はないし、カードも難しいかな?やっぱり紙でポイントカードを作ってスタンプ押すのがいいのかな?」
「それがいいんじゃない。ギルドカードって、いちいちギルマスが登録しないと使えないんでしょ?なら、カードも無理だろうし」
「だね」
私は試しに印刷用紙を所謂ポイントカードの形に切り、ペンでスタンプを10箇所押せる枠を書いた。
「例えば、パスタ1個で1スタンプ、シュークリーム1個で1スタンプとか?かな。それで、10スタンプ貯まったら次回は1個無料でサービス」
「な、な、何という革新的な手法なんでしょう•••」
「こんな斬新なこと、思いつきもしませんわ」
私とユキ以外のメンバーがお手本のポイントカードを持ってワナワナ震えている。
それからボーナスについては、29歳で社会人経験のあるユキから説明してもらい、今回は特別支給で給与1ヶ月分を、今後は年2回支給することになった。
「マリーちゃん。明日、朝から各店舗を回って、今のことを従業員に話してもらえるかしら?」
「うっ、、、はい•••」
そういうことは苦手、というか、やったことがないので一瞬躊躇うが、普段はみんなに任せきりなのだから、これ位はお店の経営者として頑張らなければ•••。
それから正式なポイントカードのデザインをみんなで考え、『地球物品創生スキル』で作成した。
コピー機を出した時に分かったことだが、この世界に印刷の技術はない。
「では、次は私ですわね」
メレディスさんは、今日1番の笑顔で私を見てきた。
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