第77話 判決と、就任式
レーリックの王城、最上階。ちょうど玉座がある?あった場所に私達は来ている。
そこは天井もなく、壁もほとんど壊れており、とても見晴らしの良い展望台となっている。
私は玉座の間の中央部分でアルテタとミーシャ、ルトアさん、エメリの5人で、部屋の端ぎりぎりで立っているミランダさん、ラーラ、ナーラ、サーラを見ている。
「こ、これは•••。以前私が訪れた際はとても綺麗なお城でしたのに•••」
「素晴らしい眺めだ」
「ここなら、いつでも飛べるな」
「風の通りも良い」
ミランダさんとラーラ達の会話が聞こえてくる。
私がお城を見晴台にしてしまったことは内緒にしておこう。
姑息なことを考えていると、ミランダさんがこちらに足早に近づいてきた。
「ご挨拶もせず、申し訳ありません。お城の変貌ぶりに驚いてしまい」
「謝るのはこちらの方です。元王子のあるまじき行い、心より謝罪いたします」
「豚王子のあるまじき行い、心より謝罪いたします」
アルテタとミーシャは頭を下げた。
「どうぞ頭をお上げ下さい。アルテタ様とミーシャ様のことは、マリー様から伺いました。本当にお二人が無事でよかったです。また、お二人のような方が隣国の主人になっていただけること、喜ばしい限りです」
「そのような美しいお言葉をいただき、私は幸せです」
「お顔まで美しい方にお言葉をいただき、私は幸せです」
「美しいだなんて•••」
双子の攻撃に、ミランダさんは顔を赤くして下を向く。
「それで、マリー。本当に国民を納得させられるのか?」
エメリは未来の国王と女王を見つめながら言う。
リトリーやゲイリーは傍若無人な振る舞いによって国民に嫌われており、普通であれば襲名に際して何も問題ない。
ただ、今回はアルテタとミーシャの存在を国民が把握していないため、その点に懸念が残る。
私にできるのはリトリーとゲイリーの悪事を晒すことだけだ。
あとは、アルテタとミーシャ、ルトアさんの頑張り次第になる。
「きっと大丈夫。ルトアさんには、少し辛い思いをさせてしまうかもしれないけど•••」
「覚悟はできています。14年間、地下牢に閉じ込められていたことに比べれば、どうと言うことはありません」
ルトアさんは王宮にメイドとして仕えていた時に、リトリーに襲われ、アルテタとミーシャを身籠った。
その事を王妃に隠す為、地下牢に閉じ込められたのだ。
ルトアさんは真っ直ぐにアルテタとミーシャを見つめている。その瞳は女王といっても過言でないほど力強く、一切の迷いがなかった。
きっと大丈夫
必ずうまく行く
そして、正午
私は『投影スキル』を発動させる。
『投影スキル』の発動と同時に、頭上に50インチ程のモニターが現れる。
モニターといってもテレビやPCモニターと違い、画面の枠も無く、厚さもない。
まるでプロジェクターによって映し出された画面が背景色に頼らず明確に表されているようだ。
神様シンが私にランキングを見せる際に使用しているのはこのスキルだったのかな?
そして、驚くことにこの画面は私の意志で動かせ、また大きさも変えることが可能だった。
私は画面を街の上空全体を覆うように拡大した。
異変に気づいた街人が上空を見上げ、驚きの声を上げる。
「な、なんだあれは!?」
「何が起こるの!?」
ここで『念写スキル』を発動し、リトリーとゲイリーの悪事を収めた映像を『投影スキル』に反映させる。すると画面上に〈再生ボタン〉が表示された。
更にこの画面を見ていなくても、この街に関係している人間全てに内容を伝えることが可能な『伝聞スキル』も発動。
準備が完了した私は『投影スキル』の画面上に現れた〈再生ボタン〉を押す。
街に浮かぶ画面には、リトリーとエメリ、そしてサキュバスの姿が映し出された。
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《バカもん!!ドラゴンなんぞ知るか。わしは今、手が離せないんだ!!》
《しかし、国民への避難指示を•••》
《国民がどうなろうと知ったことか!!お前が何とかしろ!!》
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「お、おい。これリトリー国王だろ!?」
「ドラゴンが現れて街中混乱の時に何やってるんだ!!」
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《人間ならわしのスキルが効かない訳ない》
《あの噂は本当だったのか!!あらゆる取引にこの卑怯なスキルを使い、自分の思い通りにしてきたんだな!!》
《だったら何が悪い!!自分のスキルをどう使おうが勝手だ。商談も女もな》
《その結果、多くの人が不幸になり、中には自死をした者もいるのにかー!!》
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《悪魔めー!!貴様のせいで、わしの楽しみがめちゃくちゃだー!!もう少しでそこにいるサキュバスを弄べたのだ!!》
《サキュバスは悪魔だからスキルが効かない。だから無理矢理弄ぶ•••と•••。》
《そうだ!!危険を犯して悪魔領から攫って来たのだ!!》
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「やつの所為で、うちの店は潰されたのか•••」
「取引人の態度が急におかしくなったのは、あいつのせいなの!?」
「お店が無くなったからって死んだやつもいるのに、あいつは女漁りだと!!」
街人の怒りが頂点に達しようとした時、城の周りに高そうな服を着た人が数人鬼の形相で集まり出した。
「嘘は止めろー」
「詐欺師めーー」
「この穴は何なのだ!!」
どうやら、リトリーに甘い蜜を吸わせてもらっていた貴族らしい。
城の周りには深い穴が空いているから入ってくることはできない。
私は構わず、次のゲイリーの映像を流す。
私とミランダさんが襲われた瞬間のものだ。
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キャーーーー
ゲイリーよー。助けてーー
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この映像には、街人も言葉を失っていた。
映像が終わったタイミングで、私は『牢屋収納スキル』からリトリーとゲイリーを出す。
ラーラとナーラは事前に用意した長く丈夫なロープでリトリーとゲイリーを縛ると、城の最上階から放り投げる。
「ぐ、ぐわーー」
「父上ーー!!」
ロープは城の2階部分で止まった。
この模様は『念写スキル』『投影スキル』を使ってLIVEで上空の画面に映し出される。
「おい、あれ城だろ!?」
「城にいるのか??だったら行くぞ!!」
城に吊し上げられているリトリーとゲイリーが映し出されると、街の人は一斉に城に向かって走り出す。
城の周りは私が【キモい】を使った際に空いた長方形の穴の所為で壁や門はなく、もちろん見張りもいない。
街人は吊るされているリトリーとゲイリーに罵声を飛ばし、石や卵を投げる。
「や、止めろ!!わしは国王だぞ!!」
「王子に向かって愚民共が!!」
その言葉に街人の怒りは頂点に達し、石や卵以外にナイフまで投げつけられる。
「貴様ら、後でどうなっても知らんぞ」
「私達の力で平民はどうとでもなるのだ」
「王は私達で助ける。お前達の処分はどうするかな!?」
城の周りに最初に押し寄せていた貴族達が街人に対して威圧的に言った。
これには一瞬、街人達が静まり返る。
「国民には何の罪もない」
「国民には何の罪もない」
アルテタとミーシャは王城最上階の見晴台から姿を表す。
ルトアさんとミランダさん、私は一歩後ろで見守る。
「リトリー国王」
「ゲイリー王子」
「彼らは多くの過ちを犯した」
「よって彼らを断罪する」
「そして、私が新たな国王に」
「そして、私が新たな女王に」
「私の名は、アルテタ•アグ•レーリック」
「私の名は、ミーシャ•アグ•レーリック」
街人は静かに2人を見ている。困惑と期待、色々な感情を抱きながら。
だが、貴族は大人しくしている訳がなかった。
「王位の資格もない野蛮人が勝手な戯言を抜かすな!!」
「勝手に王の名を語る重罪人め!!」
何も言わずに、ルトアさんが一歩前に出た。
ミランダさんと私も続く。
私はアルテタとミーシャを笑顔で見つめる。
アルテタとミーシャも笑顔で返してくれた。
「私の名はルトア。以前この城でメイドとして仕えていました」
「そして、リトリー国王に襲われ、ここにいるアルテタとミーシャを身籠もりました」
ルトアさんの目からは、話しながら涙が流れる。
「それから14年間、アルテタとミーシャと私は地下牢で暮らし続け、先日、こちらにいらっしゃいます聖女マリー様にお救いいただきました」
街人は騒めき出す。
「ここにいる2人は、紛れもなく王族の血を引いています。そして、人の痛みが分かる優しい子達です。どうか、アルテタとミーシャを信じていただけないでしょうか」
「私からもお願いします。私は、サズナーク王国の王女、ミランダ•ヨル•サズナーク。アルテタ様とミーシャ様が王族の血を引いていることを、私がここに保証します」
ミランダさんには事前に『DNAスキル』の説明をしておいた。
「嘘ばかり言いおって。あの王女も大人しくゲイリーの物になればよかったのだ」
貴族の1人が口を滑らせると、街人は団結し、城の穴の周りギリギリまで押し寄せる。
「お前も知ってたんだな。ゲイリーの悪事を」
「な、何だと、それ以上わしに近寄るな、う、うわーー」
貴族は一歩後退しようとして、底の見えない穴に落ちて行った。
それを見て他の貴族は顔を青くし、黙り込む。
「俺は、アルテタ様とミーシャ様を信じる」
「私も、あんなに苦労をしてきた方達なら、きっと良い国に導いてくれるはず」
「他国の王女様と伝説の聖女様がここまでしてくれたんだ、信じるしかないな」
街人達が城の最上階に向けて言葉を発する。
「みなさん、ありがとうございます。必ず、良い国にしていきます」
「みなさん、ありがとうございます。必ず、住みやすい国にしていきます」
街人から大歓声と拍手が巻き起こった。
「最後に、リトリー元国王の犯した罪に対する判決を言います」
「最後に、ゲイリー元王子の犯した罪に対する判決を言います」
「「魔族領の森に裸で放ちます」」
街人から今日一番の歓声が巻き起こり、2人の就任式は終了した。
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